第155話 現状確認



「佐藤さん、この部屋です」

神崎がドアをノックする。

「どうぞ」

中から女の人の声が聞こえた。

・・

何か聞いたことのあるような声だな。

ドアは自動で開く。

俺はぼんやりとしながら部屋に入る。


「ようこそペンタゴンへ」

そう声をかけて女の人が出迎えてくれた。

俺たちが部屋に入ると、入り口の扉が閉まっていた。

女の人が微笑みながら声をかけてくる。

「よくおいでくださいました。 私はアリスといいます。 そして日本の協力に大変感謝しております」

アリスはそう言って俺たちに椅子に座るように促す。

・・・

ん?

この女・・。

俺は妙な違和感を感じたので、アリスを見つめていた。

・・・

!!

サラじゃないか!

何してるんだ?

確かアリスって言ってたよな?

は?

サラが亡くなったとか言ってたが・・どういうことだ。

俺は思わず椅子から立ち上がりそうになった。

「どうかされましたか?」

アリスが聞いてくる。

「い、いえ・・」

俺は呼吸を整えてスキル、超加速を発動。


手を伸ばし、アリスに触れる。

アリスがビクッとなったようだが、そのまま俺を見つめる。

「な、なんでしょうか?」

「・・あのなサラ、いったい何やってるんだよ」

俺は直球で聞いてみた。

「ちょ、ちょっと・・何言ってるのよ、いや言っているのですか! 私はアリスで・・」

「サラ、今は俺とお前以外の時間はほとんど動いていない」

俺のその言葉で理解したようだ。

サラがふぅっと息を吐くと、いきなりラフは感じで話してきた。

「やっぱテツにはわかってしまうのね。 そうよ、サラよ。 でもね、アリスってことになってるから、よろしくね。 それより、その女の人は誰?」

サラがクララを見る。

「あぁ、彼女な・・クララって言って帰還者だ。 結構強いぞ。 それよりも何で偽名なんて使っているんだ?」

俺の質問にサラ、いやアリスが簡潔に教えてくれる。

・・・

・・

政治家の派閥衝突が起きていること。

帰還者の存在を知られたくないことなどなど。


「そうか・・わかったよアリス」

俺はそう答えて、思わずアリスの胸を見た。

!!

ドン!

アリスが迷わず俺を殴る。

「テツっていっつも胸を見るわね。 私は忘れないから・・許可なく私の胸を・・だんだん腹立たしくなってきたわね」

アリスの顔が険しくなる。

「い、いや、違うんだサラ・・いやアリス! あ、俺のスキルが終わる・・」

俺はそう言って超加速を解く。


神崎の挨拶が始まっていた。

「よろしくお願いします、ミス、アリス。 私は神崎といいます。 こちらは佐藤とクララです」

アリスは何事もなかったかのように挨拶をしてくる。

こ、こいつ役者か?

俺は思わずうわずってしまった。

「よ、よろしくお願いします」

クララが横で笑っている。


「神崎さん、単刀直入に伺います。 今、この世界に脅威が迫っています。 そのために今日集まっていただきました。 私が見るに、その・・佐藤さん・・それからクララさんが帰還者なのですね」

神崎が少し驚いた表情を見せる。

「え、えぇ、その通りですわ。 アリスさん、さすが帰還者の近くにおられた方ですね」

神崎が大きくうなずいて答える。

そして、続けて言う。

「アリスさん、サラさんのことは本当に気の毒に思います。 そのこととも関係があるのでしょうか」

アリスが微笑んでうなずく。

「さて、どうでしょうか?」

「は?」

「い、いえ、バカにしているわけではありません、ミス神崎」

アリスが一度言葉を区切り、話し出す。

「実は・・」

サラが銃撃されたのは、おそらく政権の派閥によるもの。

今はそれどころではないことが起こりつつある。

帰還者でなくては対処できないような出来事。

信じてもらえないかもしれないが、人ではない強力な存在がいるかもしれない。

それらと戦うには今の現代兵器では役に立たないこと。

だからこそ、友好国に声をかけ集まってもらったなど。

アリスが淡々と話している。

・・・

・・

アリスの話が終わると、神崎がなぜか立ち上がったまま震えていた。


「そんな・・そんなことって・・」

神崎がつぶやいていた。

「神崎・・さん、座ったらどう?」

俺は思わず声をかける。

「え? あ、あぁ・・そうね」

神崎が腰を下ろす。

「ミス神崎、国務長官が何やら政治的なお話があると聞いております。 私の話を聞いた後、面会したいとのことです」

アリスが言う。

「え? は、はい、了解しました・・それにしても、とんでもないことが起ころうとしているのですね。 私も佐藤さんなどの帰還者の存在がなければ、とても信じられるものではありません。 それに現に中国が・・」

神崎の言葉にアリスもうなずく。

「はい。 アメリカに入っている情報でも同じようなものです」

アリスが答えると、神崎が微笑んでうなずく。

「わかりました。 ではアリスさん、私は国務長官にお会いしてきますね。 佐藤さんやクララさんなどで帰還者の戦略戦術もあるでしょう。 席を外しますね」

神崎はそう言うと、丁寧に挨拶をして部屋から出て行く。


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