第129話 デイビッドの事情



「おや、デイビッド君おりをしてくれていたのかね? ご苦労さん」

クソウが身体を起こしながら言葉を出す。

「クソウ大臣、お疲れですからね」

「そうだねぇ・・老体にはなかなか厳しいよ。 それよりも君の母国の動きだが、どう思うかね?」

クソウが直球で聞いてくる。

デイビッドは軽くうなずくと答えた。

「はい、私の考えでは危ういと思います」

「ほぅ・・君の知人、サラ君だったか? 彼女の活躍でまとまりつつあるように見えるが・・」

「クソウ大臣、そう見えるだけです。 力で抑えつけられればより強い力となって跳ね返ってきます。 それに今の政権はサラという特殊な道具を使っているに過ぎません。 民衆は現政権に膝を折ったのではなく、サラを認めただけです。 サラに注目が集まり、そのうち現政権から排除されるでしょう」

デイビッドが難しい顔をしながら答える。

「なるほどな・・出る杭は打たれるか・・だが君たちのような人物は今の軍で倒せないだろう」

クソウが当然の質問をする。

「えぇ、それはその通りです。 ですが、サラの心が倒されます」

「ふむ」

クソウがうなずく。

そしてジロッとデイビッドと見つめる。

「君はどうしたいのかね?」

デイビッドはクソウの言葉にドキッとした。

この人物はすべてを見抜いて俺を計っているのか?

やはり正直に答える方が良いのかもしれない。


「はい・・実はサラに声を掛けてみたいと思っています」

デイビッドはそう言葉を返すと軽くうなずき、続ける。

「私は死んだ人間です。 きっとサラもそう思っているでしょう。 私の言葉ならサラも聞くかもしれません」

「ふむ・・」

クソウが難しい顔をして考えている。

・・・

しばらくしてクソウが言葉を出す。

「デイビッド君・・我々としてはアメリカと事を構える気はない。 もし君の友人を招待したいというのなら、それは遠慮してくれ。 今でさえギリギリのところなんだ。 パワーバランスが崩れるのを大国は極度に嫌うからね」

デイビッドはクソウの言葉を聞いて大きくうなずいた。

「はい、理解しております。 ただ友人として私はサラを見ていられないのです・・クソウ大臣、もしサラが自らの意思で亡命したいと言っても・・」

デイビッドはそこまで言葉を出すとやめた。

クソウが微笑みながら軽く首を振る。

「も、申し訳ありません。 私の立場でさえご無理をされたのに・・出過ぎたことを申し上げました。 ですが閣下、失礼ついでに言わせてください。 もし可能なら、一言だけでもサラに言葉をかけてやりたいのです・・」

デイビッドはおそるおそるクソウを見る。


クソウはソファから立ち、自分の机の上のタッチパネルに触れる。

「だ、そうだ山本君、どう思うかね?」

クソウの言葉にデイビッドが驚く。

その顔を見ながらクソウが苦笑する。

「デイビッド君、私にプライベートはないのだよ」

クソウがそう答えているうちに山本が入って来た。

クソウに軽く一礼をする。

「おはようございます閣下。 私はデイビッドさんを派遣しても良いと考えております」

山本の言葉をクソウは黙って聞く。

「デイビッドさんには少し変装して本人だとわからないようにしてもらいます。 我々が聞いている情報よりも核心部分の情報が得られるかもしれません。 ですが、サラさんの亡命は受け入れられるものではありません。 そんな強力な兵器を日本だけが取り込めば、世界で孤立してしまいます。 まぁ孤立してもやっていけるでしょうけどね」

山本の言葉にクソウがニヤッと笑う。

「でも現実問題、協調は大事です。 ただ、サラさんは帰還者です。 身体的には危険はないでしょう。 それにデイビッドさんの存在を知らせれば、心配されているような心が壊れる心配は解消するのではないですか?」

山本が発言すると、デイビッドはクソウの顔を見る。

「デイビッド君、それほど時間をやれるわけではないが、3日ほどではどうかね? まぁ、神崎君が帰って来てからだがね」

クソウがそういうと、デイビッドは深々と頭を下げていた。

「あ、ありがとうございます、クソウ大臣」


<テツのいた古巣>


事務机の上に書類が何冊か置かれていた。

ペーパーレスという言葉は、この会社にはないようだ。

テツは輸入雑貨を仕入れていろんな小売店に販売する仕事をしていた。

課長が書類を眺めながら思う。


佐藤君は本当に政治家なんて目指すのかな?

いきなり訪ねて来た人と重役たちが挨拶に来て、突然佐藤君の一身上の都合で退社となったと聞かされた。

事前に連絡を入れるのが普通だが、鶴の一声でそんなルールは無視される。

重役たちが言うには政治家の秘書として活動をするという話だった。

まさか、あの佐藤君が・・と思ったが、それ以上は情報がない。

佐藤君のいたところには別の部署から既に人が配置されていて、仕事は全然問題ない。

日常が過ぎている。

佐藤君・・人懐っこいというか、何か放っておけないというか、可愛らしい弟のような感じだったけど・・どうしているのかな?


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