第128話 機内にて



「ふぅ・・少し落ち着きました。 到着までおとなしくしていてくださいね」

神埼はそれだけを言うと席に戻り、何事もなかったかのように座っていた。

クララはクスクスと笑って大いに受けているようだ。

俺には言葉がない。

落ち着いた?

一体、何が?

神崎のストレス発散に俺のチキンハートがドキドキしなきゃいけないのか。


それからは何事もなくクララと神崎は座席で眠っていた。

・・・

俺はとても寝られそうにない。

目を閉じて考える。

神崎のことではない、テンジンのことだ。

生死は確認できてないが、いい奴だった。

ほんの少ししか接触していないが、人間として澄み切っていた感じがした。

そりゃ中国にしてみれば鬼に写るだろうが、人として俺は好きだ。


他には世界のことだ。

ディアボロスも表に出て来て動き出している。

魔族なんて存在をこの世界の人たちは信じれないだろう。

それに帰還者の俺たちのことも何かの特撮だと思うかもしれない。

それはそれでいい。

知らないに越したことはないし、それで日常が過ごせればいいだろう。

どうせ地球の裏側で起こっていることなんて知ることはない。

隣の家で何が起こっているかもわからない時代だ。

俺も誰かの役に立ちたいからディアボロスと戦うんじゃない。

魔王との約束があるし、何でもない人を平気で狩っているのは許せることじゃない。

だがなぁ、俺たちだって平気で食用動物を狩っている。

それと同じか?

・・

俺は頭を振る。

いや、違うはずだ。

とにかく奴は許せない。

そういえば、ケン君とリカさんは日常を過ごせているだろうか?

俺はそんなことを考えながら窓の外を眺めていた。


<ケンとリカ>


ケンは自宅で勉強をしていた。

通っている学校は優秀な進学校ではなく普通の高校だ。

日常では帰還者の影響などないように思える。

ケンの学校では近々試験がある。

ケンは数学は得意だが、もの凄く優秀というのではない。

英語は苦手だ。

国語も古文は苦手になるが、漢文は好きなようだ。

「う~ん・・この問題、絶対に解けないようになっているよなぁ・・またかいなしが解答じゃないだろうな・・あ、そういえばテツさん、イギリスでうまくやっているのかな?」

ケンは椅子に深く座り直しブツブツつぶやいている。

腕を組んで更に考える。

テツさんが話してくれた魔族・・まさか一国の大統領だったとは思わなかった。

まるでラノベそのものじゃないか。

日本もそんな存在が政治の中枢にいるのだろうか?

僕たちを利用しようとしているクソウ大臣って、見た目は妖怪だものな。

案外そうだったりして・・ククク。

いやいや笑い事じゃない。

それよりも帰還者って世界でどれくらいいるのだろうか?

テツさんが言うには中国にいなかったようだけど、あの国は国民全員を把握できてないだけじゃないか?

・・・

というか、その国自体が無くなったんだっけ?

まだ発表されてないけど、発表できるのかな?

とにかく今僕にできることは試験勉強だけだな。

後はテツさんが帰ってきたら、いろいろと教えてくれるだろう。

・・・

ケンはいろんなことを思い浮かべながら机に向かう。


<クソウのところ>


クソウが執務室のソファに横になっていた。

さすがに連日の激務で疲れたのだろうか。

軽く寝息を立てている。

デイビッドが近くで待機していた。

チラっとクソウを見て目を閉じる。

ゆっくりと上を向き目を開けた。

デイビッドは思う。

サラ・・何やってんだ。


クソウ大臣から聞いていた。

アメリカの現政権を維持するために、どうもうまくサラが利用されているんじゃないかということだ。

アメリカにいる外交諜報員からクソウのところに毎日連絡が入る。

映像付きの報告では当たり障りのないことばかりだが、暗号との照らし合わせでよくわかった。

なるほど、テツの言った通りだ。

情報を得るにはその懐に飛び込むしかない。

デイビッド一人ではとても集められる情報量ではない。

どうやらクソウが目覚めたようだ。

時間は3時。


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