第123話 修練



<アンナとクラウス>


クララとの遭遇後、すぐにディアボロスのいる場所へと向かっていた。

しかし、近づくにつれて余りにも不気味な、そして揺るぐことのない大きな魔素にクラウスが言葉を出す。

「アンナ・・先に言っておく。 すまないな・・チキンハートなのだろう・・俺にはこれ以上進むことができない」

クラウスの顔が真剣な顔になっている。

もしかして青ざめていたのかもしれない。

「クラウス・・私も同じことを言おうと思っていたわ。 頭では前に進もうと思うのだけれど、身体が重いのよ・・ダメね」

・・・

・・

クラウスたちは立ち止まり、お互いに言葉少なく苦笑いするとうなずく。

「戻ろう・・」

クラウスが小さくつぶやくと、そのまま帰路についた。


<テツ>


俺は神崎と女王陛下に報告をしていた。

俺の後ろにはクララが待機している。

帰って来て神崎に報告すると真剣な顔をしてナンパに行っていたのですかと言われてしまった。

見下すような神崎の目線は演技ではないだろう。


「なるほど・・街の住人が消えていて、誰もいなかったという訳ですね。 しかし、誰かが確実にそこに居たことはわかっていると・・信じます」

女王は軽くうなずくとレオとソフィを見る。

「はい、僕も信じます。 それにそこに居たという魔族・・いったい何が目的なのでしょう?」

レオが不安そうな顔で答える。

「えぇ、私もそれを考えていました」

女王もうなずく。

「それでミスター佐藤、そのディアボロスですが、どのような目的で人を狩っていると推測しますか?」

俺は女王の質問にうなずいて答える。

移動しながら考えていたことだ。

「はい、ディアボロスは間違いなく何かの力を得ようとしているのだと思います。 そうでなければ、今までに同じことをやっているはずです。 ただ、それが何のためにおこなっているのかはわかりません。 それに・・」

俺はそこまで話していて言葉に詰まる。

「どうしたのですか、ミスター佐藤・・」

女王が聞いてくる。

「えぇ・・はい・・妙な言い方になりますが、ディアボロスは自分以外に興味がないのかもしれません。 権力欲や食欲、それらが欲しいなら既に大統領として得ていたはずですし、単なる食事のために人を食べるのなら今までにその機会はたくさんあったと思います」

俺は回答にならない言葉を並べていた。

「ふむ・・なるほど・・確かに世俗的な欲はないと思えますね」

女王がやや目線を下に落として考えている。

他の連中も同じように考えていた。

俺はチラっとクララを見る。

・・・

あくびをしないだろうな?

退屈そうだ。


神崎が片手を挙げていた。

「どうしたのですか、ミス神崎」

女王が声をかける。

「はい・・私の頭にフト閃いたのですが・・よろしいですか?」

「どうぞ」

「はい、私は学生時代に弓道をやっておりました。 結論から言えば、ディアボロスは自己修練を行っているのではないのかと推察いたします」

「「自己修練?」」

レオとソフィが同時に言葉を出す。

「はい・・何と言うか、うまく言葉にできないのですが、そういう言葉が私の頭に浮かびました。 人を食べたりするのが修練というのではありませんが、何か自分を今よりも強くする必要が生じたのではないかと思うのです」

神崎がおそるおそる話していた。

女王は神崎の言葉を反芻しているようだ。


俺も何となく納得してしまった。

修練と言われればそうかもしれない。

だが、魔族の領域内で相手の魂を取り込んで自らを強くするというのは聞いたことはない。

いや、レベルを上げるのが強くなるという意味ならあるのかもしれないが、それは修練ではないだろう。

そうか、レベル上げか!

俺はハッとした。

この世界ではレベルを上げることが不可能に近い。

魔物などの魔素を持つ生き物がいない。

だからこそ人を狩ってみて試したのかもしれない。

だが、それは既にわかっていただろうに・・何だろう、この不快感。

ん?

数か?

人を大量に取り込むと可能だと考えたのか?

だが地上の人を大量に摂取しても強い魔物1体に届かないんじゃないか?

俺はそんなことを思ってみる。


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