第110話 女王の提案



<クララ>


クララは普通に歩いていた。

クラウスたちが感じた儚い魂の叫びのような感覚。

当然感じることができた。

「また人が狩られたのね。 でも一体誰がこんなことをしているのかしら。 私みたいな生命力を奪うのではないわね。 完全に命そのものを刈り取っている・・死神のようだわ。 こんなスキルってあったかしら?」

クララはその場で足を止めて目を閉じていた。


<テツ>


俺はバッキンガム宮殿に案内されていた。

レオとソフィに連れられて女王に挨拶するところだった。

ソフィが女王の前で一礼をし、俺の方を見る。

「遠いところをわざわざお越しいただきありがとうございます、ミスター佐藤。 それにミス神崎」

女王がそう言葉を出した時だ。

!!

あの儚い感覚が突然俺たちを襲う。

ソフィとレオも感じたようだ。

「こ、これは・・」

「レオ・・」

ソフィたちの雰囲気が変化したのを女王は見逃さない。

「どうかしたのですが、ソフィ、レオ」

俺もそうだが、ソフィたちも動くことができない。

というかこの力の抜けるような感覚に耐えている感じだ。

神崎はソフィたちをみて俺を見る。

「さ、佐藤さん・・どうしたのですか?」

神崎が小さな声で俺に聞く。

俺は神崎の顔を見た。

神崎が少し驚いている。

「さ、佐藤さん・・顔色が真っ青です・・」

俺は神崎から視線を移動させて、レオとソフィを見た。


ソフィたちは女王の顔に視線を合わせていた。

レオは震えながら俺を見て女王を見る。

「へ、陛下・・今また、私たちを例の儚い感覚が突き抜けたのです」

女王の目が見開かれる。

「あの・・以前に言っていた人が狩られたという感覚ですか?」

ソフィがうなずく。

女王の目線がソフィから俺に移動。

「ミスター佐藤・・あなたも感じたのですか?」

女王が言う。

俺もうなずきながら答える。

「は、はい・・その通りです。 かなりの人が亡くなったようです・・それも抵抗すらせずに・・」

女王の目が少し細まる。

「ミスター佐藤・・そこまで詳細にわかるものなのですか?」

「い、いえ・・そういうわけではありません。 ですが、この感覚は知らないうちに死んでいるという感じです。 本人たちは自分の死すら認識できていないでしょう・・何と言うか、抗う感覚が全くしないのです。 静かすぎて・・逆にそれが恐怖につながります」

俺は思いつくままに言葉にしてみた。

女王は俺の言葉を聞くとうなずいている。

「・・なるほど・・そういったことをやはり感じ取れるのですね。 私とミス神崎はわからないようですが」

女王の言葉に神崎もうなずく。

「それでレオ、ソフィ・・その場所というのはわかるのですか?」

女王が優しく聞いていた。

「は、はい・・ピンポイントではわかりかねますが、以前に発生した場所よりも南の方だと思われます。 おそらくロシアの領域内かと・・」

ソフィの回答は俺の推測と同じくらいだ。

同等の索敵能力があると思った方がいいだろうと俺は自分に言い聞かせる。


ソフィの発言を聞き、女王が俺を見る。

「ミスター佐藤も同じような意見ですか?」

「はい・・ソフィさんの言う通りだと思います」

俺はそう答えつつも、もう少し細かく場所は特定できるなとも思っていた。

しかしロシア領域内ならば、世界に情報が漏れることはないだろう。

それに一気に狩られている感じだ。

生き残りもいるのかどうか怪しい。

だが、いったい誰がこんな大胆なことをするんだ?

俺はそう思いつつも、普通の人には感じ取れないので知られることもないだろうとも思っていた。


女王はしばらく何か考えていたようだが、大きくうなずくと言葉を出す。

「ソフィ、レオ・・それにミスター佐藤。 これは人類に対する挑戦です。 緊急事態と認定します」

女王はそう一気に言葉を出した。

そして続ける。

「ミスター佐藤、神崎、到着早々で申し訳ないのですが、ソフィやレオと一緒にミスター佐藤にこの元凶の調査に行ってもらいたいと考えています。 いかがですか?」

女王のいきなりの提案に、さすがの神崎も即答できないようだ。

女王が微笑む。

「ミス神崎、これは政治的戦略などはありません。 人として許せることと許せないことがあります。 今は後者です。 だからこそ緊急事態なのですよ。 私は人として許せないのです」

女王の言葉に神崎が動く。

「じょ、女王陛下・・私も同意見ですわ。 佐藤さん、女王の仰る通りに動いてもらってもいいでしょうか? クソウ大臣も了承されるでしょう」

神崎がいきなり元気になっていた。

俺は少し心が騒がしくなる。

まるっきり政治じゃないか。

国同士の利害に完全に利用されている。

だが、放置できるような案件じゃない。

行くしかないだろう。

しかしなぁ・・その動機がこれでは、本当に政治の駒だよな。

俺は自嘲したくなったが、気を引き締めて答える。

「女王陛下・・私としても許せるような事案ではありません」

「それでは一緒に行ってもらえるのですね」

女王はうれしそうだ。

俺はうなずく。

レオたちも普通の状態に戻っていた。

「レオ、ソフィ・・早速出立の準備をして、出来次第お願いします。 ミス神崎は私と話を詰めましょう」

女王はそう言葉を残すと、神崎を連れて移動して行った。

神崎からもよろしくお願いしますと言われる。


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