第109話 衝撃


少しの間、空気が凍ったんじゃないかと思うほどだ。

「ま、魔族領域・・ですか」

レオが少し震えるような声で答える。

ソフィがレオの顔を見つめていた。

「レオ・・」

ソフィの言葉にレオがゆっくりとうなずく。

「ソフィ、わかっている」

バックミラーでチラっと俺を見ると、レオが言葉を出す。

「ミスター佐藤、あの魔族の中でよく無事に生き延びれましたね」

俺はレオの言葉に思わず失笑した。


「フフ・・いや、すみません。 ブレイザブリクの連中は皆、魔族というと凶悪なイメージを持っているんじゃないかと思いましてね」

「え? 違うのですか?」

レオが驚いていた。

「レ、レオ! 前、前!」

ソフィが少し大きな声を出す。

俺と神崎の身体に少しGを感じると、車はまた静かに走り出す。


「すみません、少し驚いたものですから・・で、ミスター佐藤、本当に魔族で過ごされたのですね?」

レオはまだ信じられないといった感じだ。

それほど魔族は悪いイメージが焼き付いているのだろう。

俺は移動しながら魔族は決して悪い連中ではないことを説明。

その証拠に魔族から人間族に侵攻したことはないということ。

レオがいきなり攻撃されたことがあると言うと、それは昔に協定で決めていた魔族の領域に侵入して、魔族の物資などを略奪したからだろうと説明。

レオも何となく納得していた。

それに龍族なども決して自分達から侵攻したことはないだろうというと、ソフィもレオも更に驚いていた。

龍族は自分達より弱い種族は基本相手にしない。

・・・

・・

「なるほど・・確かにミスター佐藤の言う通りかもしれません。 僕も深く考えていませんでしたが、ブレイザブリクの国はどこの地域とも交戦していましたね。 これは僕たちの頭の中を整理し直さないといけないかもしれませんね・・」

最後の方はつぶやくようにレオが言葉を出していた。

「レオ! 前、前!」

ソフィがまた叫ぶ。

俺と神崎に軽いGがかかる。

この男に運転させるのは危ないんじゃないか?

俺がそう思っていると、ソフィが話しかけてきた。

「ミスター佐藤、間もなく到着です」

ソフィが微笑みながら前を向く。

・・

ん?

この建物・・誰でも知っているぞ。

バッキンガム宮殿じゃないか。

大きな金属格子の扉がゆっくりと開いて、俺たちを乗せた車が通過。

俺は妙に緊張してきた。

神崎を見ると、平気な顔で座っている。

この女の子って・・凄いな。


<クラウスとアンナ>


アンナたちはクララの後をつけていた。

後をつけるといっても尾行と呼べるものではない。

かすかなクララの魔素を追う。

近づけば気づかれて完全に逃げられるだろう。

かなり警戒しながらもかろうじて追うことができていた。

「アンナ・・これは結構しんどいぞ。 今までのどの任務よりも神経を削る」

クラウスが笑おうとするが、顔が引きつっている。

「そ、そうね・・普通の人は魔素なんて残らないけど、あの女・・クララっていったっけ? 遠慮なく残しているわね」

「あぁ、隠そうともしていないようだ・・というか、魔素をたどられることなんて考えてもいないのだろう。 どうせすぐに消えてしまうものだしな」

クラウスたちも身体から出ているが、意識すればその放出を抑えられる。

それでもわずかには漏れるものだが。

その魔素をクララは気にしていないようだった。

消えそうな弱々しい魔素の後をクラウスたちが追っている。

クララは気づくことない。


しばらくクララの魔素を追っている時だ。

!!

クラウスとアンナはお互いの顔を見合わせる。

「クラウス!」

「アンナ!」

また前の様に大量の人が狩られたような感じを受ける。

とても儚い、まるで一粒降った雪が手の平で消えるように。

「こ、これは・・あの時感じたのと同じ感じだ。 だが、前よりも遠い感じがする・・あの女じゃなかったのか」

クラウスがつぶやく。

「くっ・・力が抜けそうよ。 なんて寂しい叫びなのかしら・・」

アンナはその場で立ち止まり、自分の後ろを振り向いていた。

「クラウス・・この方向は、あの女とは全く逆の方向よ。 かなり東の方に感じるけど・・」

「あぁ・・だがあの女でないとすると、いったい何者なんだ? これだけ大量に人を狩るって・・悪魔だ」

クラウスとアンナはその場で動くことができないでいた。


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