第82話 テンジンの目的



サラとテンジンの前にクリストファーが立つ。

お互いに少し緊張しているようだ。

やはり、サラは見たことないと俺にささやいてきた。

テンジンは笑顔で接している。


「ふむ・・君が中国で噂になっている帰還者なのだね?」

クリストファーが真っ先に聞いていた。

「フフ・・まぁ、そんなところです」

「テンジンさんとおっしゃったか。 単刀直入に伺います。 何を目的とされているのでしょう?」

おい、いきなりだなクリストファー。

俺の方がドキッとした。


「うむ・・まずは我々少数民族の人権確保とこの国にいる弱者の代行者だな」

テンジンが話していた。

「なるほど・・君は英雄になったというわけですか」

クリストファーは遠慮なく話している。

俺なら言えない言葉だ。

「これは手厳しい・・英雄か・・そんなつもりはないのだがね。 だが、この国に反逆しているのは間違いないだろうね。 クリストファーさん、この国の外側から見ているのでは、我々の気持ちはわからないだろう」

テンジンが真剣な顔で答えていた。

「確かに・・我々の情報でも、かなりひどい扱いを受けているということは把握している。 だが、その程度はわからない」

「正直な人だ・・クリストファーさん、とにかく拙僧の目的は諸悪の根源の親玉を倒すことだ。 それが完了したら、後は国民に判断をゆだねるよ」

「なるほど・・」

クリストファーがうなずく。

テンジンの言葉に俺も納得していた。

そうか・・テンジンの目的は最初から決まっていたわけだ。

でも、その後はどうなるのだろう?

いや、俺なんかが考えてもわかるはずもない。


「クリストファーさん、あなたはどこの国の帰還者なの?」

サラが聞く。

クリストファーがニヤッとして答える。

「私の生まれはアメリカですが、今は個人財団に属しています。 国というのは・・ないですね。 もし国籍と言われれば、アメリカでしょうな」

「そう・・詳しくは聞かないけど、いったい何の目的で私たちに接触してきたの?」

サラがクリストファーを見つめる。

「えぇ、こちらが先に聞いてしまいましたからね・・」

そういってクリストファーが話してくれた。

・・・

・・

中国で活動している帰還者の情報を集めること。

ただ、それだけだったようだ。


「クリストファーさん、この国はどうなると思う?」

サラが聞いていた。

「そうですね・・私的見解ですが、頭が倒れればこの国は再編されるでしょう」

「再編?」

「えぇ、そうです。 我々もいろいろとシミュレーションをしていました。 だが、それが現実に起ころうとしている。 外部の圧力ではなく、内部から噴き出している。 歴史が物語っていますよ・・おそらくいくつかの小さな国に分かれるのではないでしょうか」

クリストファーが話していた。

俺はそれを聞きながら頭に浮かんでいた。

三国志か・・。

聞いたことあるだけで、詳細は勉強していない。

確かに中国は大きすぎる。

それが5つか6つくらいの州か国に分かれれば、いろんな部族が住めるだろう。

単純にそんなことを俺は思っていた。


「なるほどねぇ・・テンジンもそう思っていた?」

サラがテンジンを見つめる。

テンジンが首を振りながら笑う。

「サラ・・拙僧はわからないよ。 ただ、根源を潰すだけだ」

テンジンはぶれないようだ。

「さて、拙僧もそろそろ出発するよ。 テツ殿はどうされるのかな?」

「う~ん・・俺もテンジンについて行こうかな」

「おぉ、それは心強い。 拙僧も思う存分戦える」

テンジンがにっこりと笑いうなずく。


「私はこのまま帰っても良いのだろうか?」

クリストファーが言葉を出していた。

そうだった。

こいつがいたんだ。

「あぁ、無論構わない。 お気をつけて」

テンジンが言う。

クリストファーが一瞬驚いたような顔をしていたが、笑顔でうなずく。

「私も帰ったら報告しておくよ。 今、中国にいる帰還者は悪い人物ではないと・・」

クリストファーはそう言うと、ゆっくりと俺たちから離れていった。

クリストファーの背中を見送ると、俺たちも出発する。


軽く移動しながらサラが言う。

「テンジン・・あのクリストファーとかいう人物をそのまま帰してよかったの?」

「どういうことかね?」

「うん・・彼は、完全にスパイみたいなものでしょう? テンジンの顔も把握されたし、これからの行動も筒抜けよ」

「あはは・・サラは用心深いな」

テンジンが笑っている。

そして続けて言う。

「サラ、拙僧は本当にこの諸悪の根源を潰したいだけなんだよ。 別に国がどうなろうが知ったことではない。 ただ、今よりも悪くなることはないだろう。 人が自由に物事を言える時代が来るんだ。 そのきっかけを拙僧が作るだけだ」

「テンジン・・あなたってバカ正直というか、怖いもの知らずというか・・はぁ・・いろいろと考えていた私がバカみたいだわ」

サラが疲れたような顔をしていた。

「テツはどう思うの?」

サラが今度は俺に振る。

「お、俺か? う~ん・・わからないな。 俺に敵対しない限り、放置だな」

「ふぅ・・男って単純なのね」

サラが微笑みながらうなずいていた。

俺もうなずく。

・・・

ただ、俺のうなずく回数が多かったようだ。

なぜか。

サラの胸がプルン、プルンと揺れているからだ。

サラが不思議に思ったのだろう。

俺の頭が揺れるのを目で追って、自分の胸を見る。

サラがカッと目を大きくしたかと思うと、俺をいきなり殴って来た。

ゴン!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る