第71話 よし、会いに行こう



俺は顔を上げてクソウを見る。

「ん? どうかしたのかね、佐藤君」

「クソウさん・・今中国にいる帰還者ですが、見て来てもいいですか?」

クソウの目が大きく見開かれた。

しばらく言葉を失っているようだ。

・・・

「あ、あぁ、それは構わないが・・後数時間は日本に到着しないと思うが・・」

クソウの言葉に俺は軽く聞いてみる。

「えっと・・今はどこら辺りを飛行しているのですか?」

クソウが行政官を見る。

「君、今どこの上空かね?」

行政官は即答した。

さすがだ。

「はい、今はインドと中国の国境辺りだと思います。 かなり高高度で飛行しておりますが・・」

クソウが俺の方を見る。

「だ、そうだ」

俺はそれを聞くとうなずく。

「そうですか・・それはちょうどいい。 では、ここから地上へ向かいます」

俺は普通に答えた。

・・・

クソウと行政官は「「へ?」」という顔で俺を見ている。

お互いが顔を向き合わせてまた俺を見る。


「佐藤君・・どういうことかね?」

クソウが先に言葉を出す。

「はい、航空機から飛び降りれば中国です」

「あ、あぁ・・それはそうだが・・パラシュートはあったかな?」

クソウが不審そうな顔で行政官を見る。

「あ、えぇ、はい。 確か、あったと思います」

行政官も曖昧な言葉だ。

「あ、お構いなく。 そのまま飛び降りますから」

俺は普通の話し方で話す。

クソウと行政官は言葉が見つからないようだ。

・・・

「と、飛び降りるって・・」

行政官がつぶやいていた。

「えぇ、そのままの言葉です。 えっと、いきなりハッチを開けると航空機が吹き飛ぶかもしれませんよね? どこか出られる出入口はありますか?」

俺は行政官に聞いてみた。

行政官はクソウを見て困っているようだ。

クソウもどういう言葉を出そうかという感じがする。

「え、えっと・・佐藤君。 飛び降りるって・・パラシュートもなしにぃ?」

クソウのしゃべるトーンが半分くらい上がっている感じがした。

「えぇ、そのつもりですが・・あ!」

俺は返事をしつつ、そこで合点がいった。

「あはは・・すみません。 魔法で落下軽減をつけて降下しますから、軽くジャンプして降りる衝撃と変わりませんよ」

俺はそう答えつつも、そのまま飛び降りても死ぬことはないだろうと思う。

魔物の一撃の方が絶対重い。

俺は確信する。


「あ、あぁ・・そうか・・なるほど・・」

クソウが歯切れ悪く返事をしていた。

納得していないのではなくて、できないだろうな。

クソウと行政官が少し話し合っていたが、行政官が俺に向かって頭を下げる。

「佐藤様、では緊急脱出用の出入り口へご案内いたします。 外との気圧差がありますので、佐藤さんが出発するまでに減圧します。 少しだけお時間をいただくかと思いますが、よろしいですか?」

行政官が丁寧に応対してくれるが、俺が飛び降りることを半信半疑と言ったところか。

半分も信じていないだろう。

「えぇ、問題ありません。 よろしくお願います」

俺が返答すると、行政官がクソウに頭を下げて出て行った。


クソウが俺を見る。

「いやはや・・我々の常識は全く通用しないというわけだね。 中国軍が勝てないわけだ」

クソウは呆れたような口調だ。

すぐに行政官が帰って来た。

「どうぞ」

行政官が俺を案内してくれるようだ。

俺が席を立ち、移動しようとするとクソウが言葉を投げる。

「佐藤君、報告を待っているよ」

俺はクソウに頭を下げて行政官の後をついて行く。

どうやら緊急脱出用のハッチみたいな場所があるらしい。

ちょうど公衆電話くらいのスペースだろうか。

外に出るための小さな小部屋がある。

そこに俺と行政官が入る。

行政官は自分の身体を安全ベルトのようなフック付きのひもで引っかける。

万が一、俺と一緒に飛び出してしまわない措置らしい。

すぐに部屋の空気が薄くなっていく。

シュー・・・ッと空気が抜けていく音がする。


「佐藤さん、本当にいいのですか?」

行政官が少し息苦しそうな感じで聞いてくる。

「えぇ、問題ありません」

「わかりました・・はぁ、はぁ・・そのハッチを・・はぁ、はぁ・・手で開けたら外になります・・はぁ・・」

行政官・・苦しそうだ。

俺は片手を上げて微笑む。

そのまま言葉を発することなくハッチを開けた。

外は薄暗い。

えっと・・時間は・・ま、いっか。

俺は行政官を見て頭を下げる。


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