第62話 それぞれの思惑
<メリケン首相>
クソウたちが出て行った部屋でメリケン首相がクラウスとアンナに聞いていた。
「クラウス・・聞きたいのですが、ミシチェンコを吹き飛ばしたのはテツですね」
「はい」
「あなたたちはミシチェンコとは戦わなかったのですか?」
「はい、拘束されて動けませんでした。 動こうとしても拘束具が頑丈にできておりました。 それにミシチェンコに殴られた時に、確かにダメージを受けたのです」
クラウスはチラっとアンナを見る。
アンナもうなずいていた。
「なるほど・・それでは、テツはどうして動けたのですか?」
「はい、私も詳しくは見ておりませんので何とも言えませんが、自然と拘束具が外れていたようで・・そのままプッツン大統領に向かって行きました」
「ふむ」
「そしてその後、ミシチェンコを吹き飛ばしたのです。 壁を突き抜けたようでした」
クラウスは真剣な表情だ。
「ということは、テツのレベルがそのミシチェンコよりも上ということになりますね。 当然あなたたちよりも・・」
「はい、そうなります」
「なるほど・・」
メリケン首相はうなずきながら考え込んでいた。
◇
<テツとクソウ>
俺とクソウとSPは案内された部屋で待機している。
クソウが俺に話しかけてきた。
「佐藤君・・派手にデビューしたね」
「え?」
「まさかロシアの大統領に殴りかかり、その側近まで吹き飛ばすとは・・」
クソウが俺の行動を言語化していた。
・・・
自分の耳でその言葉を聞くと、どえらいことをしたという感覚が大きくなってくる。
言葉もなくジワジワと俺の中で妙な焦りが沸き起こって来た。
確かに、やってはいけないことのオンパレードだな。
ヤ、ヤバいんじゃないか?
「ク、クソウさん・・俺って・・やっちゃいましたか?」
「うん、やっちゃったねぇ」
「ど、どれくらいの規模でしょうか?」
「う~ん・・普通なら国の戦争になってもおかしくない。 我々は相手の領土に無断で侵入し、大統領をぶっ飛ばしたのだからね。 おまけに側近にまで危害を加えている。 向こうがその気になれば、いくらでも圧力をかけてくることができるよ」
確かに。
俺は黙って聞いている。
「だが・・そんなことにはならないだろう。 相手が人間ではないのだ。 自国民を納得させるシナリオが必要だろうね」
クソウが話しながらニヤッとしていた。
俺には言葉が浮かばない。
確かに記憶が飛んでいた部分はある。
だが、ミシチェンコを殴ったのは俺の意識下でだ。
相手がどうなったのかは確認していない。
クソウは俺が考えている姿を見て思う。
この佐藤・・ドイツの帰還者にダメージを与えたロシアの男を吹き飛ばしたという。
つまり佐藤がロシアやドイツの帰還者よりも上位ということだ。
これは使える。
メリケン首相もわかっているだろう。
日本の立場が有利になった。
ロシアも、うかつに日本に手出しできまい。
今回の作戦は大成功だな。
日本の学生も佐藤に近いレベルなのだろうか。
また確認しておかなければならないな。
これからの世界は、もしかすれば日本がスタンダードになるかもしれない。
クックックック・・よくやってくれたよ、佐藤君。
◇
<ロシア:ミシチェンコ>
ミシチェンコは林の中で目が覚めた。
木に激突してめり込んでいる。
ミシチェンコが吹き飛んできた方向の木が何本か折れていた。
身体を動かそうとすると激痛を感じる。
「痛ぅ・・右肋骨を完全にやられているな。 内臓に刺さっているかもしれない。 右腕は・・力が入らない」
ミシチェンコは自分の身体を確認していた。
木に手を置き、ゆっくりと痛みに耐えながら立ち上がる。
「くぅ・・あの日本人・・何という力の持ち主だ。 信じられないが、私よりも間違いなくレベルが上だ。 警戒せねばなるまい・・だが今はこの身体を回復させ、大統領の後を追わなければ」
ミシチェンコは身体を引きずりながら、吹き飛んできた建物に向かう。
病院も併設されている。
◇
<ハワイ>
サラは特に何もすることはない。
ハワイの日差しは強いが、カラッとしていてとても過ごしやすい。
ビーチで軽く日光浴をした後、海に浸かって完全なバカンスだ。
「デイビッドはどうしているのかしら?」
海から上がり、パラソルの下で横になっていた。
このビーチは軍の施設が管轄しているので、一般の人は入って来ない。
1人の女の人が近づいてくる。
「サラ、毎日バカンスでしょ?」
サラはサングラスを外し、起き上がる。
「ジェニファー・・」
ジェニファーが微笑みながらサラを見つめる。
「サラ、仕事があるのだけれど・・」
「仕事?」
「そう・・中国へ行って欲しいのよ」
「中国?」
ジェニファーがうなずく。
「中国といっても、グァムの施設に移動してから単独潜入になると思うのだけれど・・」
サラは身体をガウンで覆うと言葉を出す。
「もしかして中国の帰還者と接触しろというのかしら?」
ジェニファーがゆっくりと首を振る。
「残念ながら、今我々が保有している情報では、中国に帰還者の存在は確認されていないの。 ただね・・帰還者を確保しようという動きがあるようなのよ」
ジェニファーの話を聞いてサラは驚く。
「帰還者を確保? フフ・・まさか・・私たちにはお金は必要ないわよ」
「さぁ、わからないわ。 だからその真意を探ってもらいたいのよ」
ジェニファーの言葉を聞きながらサラは苦笑する。
「フフ・・私には拒否権はないわけね」
「ごめんなさい、サラ・・」
「ううん、ジェニファーが悪いわけじゃない。 で、いつ出発になるの?」
「今日の13時出発の定期便に乗れればいいかしら」
ジェニファーの言葉を聞き、時刻を確認する。
「後、2時間ね。 わかったわ、準備する」
「ありがとう、サラ」
ジェニファーと一緒にサラはビーチを後にした。
◇
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