第60話 そういえばアンナ・・結構胸でかかったよな



ドイツ領まで移動すると、俺たちは移動速度を落とす。

クラウスとアンナは肩で息をしていた。

「ここまでくれば安全だろう」

クラウスが言う。

「そ、そうね・・でもテツがいてくれて助かったわ。 改めてお礼を言わせてもらうわね、ありがとう」

アンナが微笑みながら言う。

クラウスも軽く会釈をしてくれた。

「い、いや、別にいいですよ」

俺の返答にクラウスが真剣な顔を向ける。

「テツ・・聞きたいことがある」

「はい、何でしょう?」

「君はあのプッツン大統領のことをディアボロスとか何とか言ってなかったか?」

・・・

なるほど。


俺の記憶封印のことだな。

魔族のところで過ごしていた時だ。

魔王からある話を聞かされた。

魔族から犯罪者が出たと言う。

仲間を殺害し、人族へ逃れた大罪人がいる。

ディアボロスという。

狡猾な奴で魔族でも追手をかけたが捕らえることができない。

もしテツが見かけたら捕まえるか、殺害して欲しいという。

だが、ディアボロスは自分に殺意を向ける奴を敏感に感じとるらしい。

だから俺の記憶を一部封印させてもらえないかという。

ディアボロスと出会う時に封印が解放されるようにするという。

不意をつけば、ディアボロスといえども防ぐことは難しいだろうと。

その記憶が甦ろうとしたときに、俺に頭痛が発生したわけだ。


俺はクラウスたちに簡単に説明をする。

プッツン大統領は、実は魔族での犯罪者ということでこちらの世界に転移してきたのではないかということ。

そして、魔族が俺の記憶に術を施していたこと。

ディアボロスは狡猾な奴なので、自分を調査しに来る奴を感じれば、接触できないようになるかもしれないとか・・などなど説明をした。

まぁ余計なことは言わないようにしたが。

・・・

・・

「なるほど・・魔族か・・」

クラウスが考え込んでいる。

「テツは凄いところにいたのね。 じゃああの大統領をテツは追うわけね」

アンナが言う。

「さぁ、どうでしょうか。 俺にもよくわかりません。 ただ記憶が解放されたし、相手にも俺のことがバレてしまったので難しくなるでしょう。 個人的にはディアボロスだけを追ってみたいですが、そうもいかないでしょうね」

俺は今考えれることを返答してみた。

「そうね・・まぁドイツとは仲良くしてね」

アンナはそう言うと、俺の頬にキスをしてくれた。

俺は驚く。

「私たちを助けてくれたお礼よ」

アンナが言う。

・・

日本人の俺には免疫がない。

コロッと簡単に惚れてしまうぞ。

アンナは美人だし、胸もボリュームあったしな。

俺は頬に手を当ててアンナを見つめていた。

アンナは微笑んでいる。

そこで終わっておけばよかったんだ。

俺の目線がアンナの胸に移動してしまった。


アンナの目が大きく見開かれた。

ドン!

アンナが俺のボディを殴る。

「さっきの言葉、取り消すわ。 テツ、あなた許可なく私の胸を見たのよね?」

俺は答えれない。

アンナがジッと俺を見ている。

「お前たち、到着したぞ」

クラウスが言う。

俺はホッとした。

「さて、これから報告が待っているな・・3日の時間をもらったが、こんな1日で帰還することになるとは・・それに俺たちの情報が漏れていた。 我が国にスパイがいる」

クラウスが淡々と話していた。

アンナもその言葉を聞いて真剣な顔になる。

「そうね・・作戦は見事に失敗だものね」

「いや、そうとも言えない。 大統領の正体がわかったんだ。 それだけでも大成功だよ」

クラウスはいろいろと考えているようだ。

俺は成り行きに任せるしかない。

俺たちはベルビュー宮殿に入って行った。


<プッツン大統領:ディアボロス>


ディアボロスは気配をできるだけ隠し移動していた。

今いる場所はちょうどユーラシア大陸の中央部辺りだろうか。

中国との国境に来ている。

遠慮なく国境を通過し、中国内に入って行く。

移動しつつ考えていた。

まさか魔族からの追手がかかるとは思ってもみなかった。

帰還者はたまに現れることはある。

向こうの世界からの強制排除や何かの儀式の影響。

逆の場合もある。

召喚術により異世界の人間を召喚し、その文明を学んだりする。

たまに兵器として召喚することはあったが、すべて神の許可が必要だった。

俺がその神を拘束してこちらの世界へ転移したのだ。

それ以来、召喚も行えていない筈だ。

逆も同じだろう。

それでも神の力は揺らぐ時がある。

そのタイミングで召喚術などを行えば転移することは可能かもしれない。

だが、そんなことは動いている針の穴に糸を通すような作業だ。

人などにできるはずはないと思っていた。

いや、魔族の将たちが手伝ったのかもしれない。

・・・

ディアボロスは傷ついた頬を拭うと、まだ傷は新鮮なままだった。

この傷・・やはり何かの魔術宝具だろう。

あの男の手刀に俺を倒すための武具が備わっているようだ。


確かに最近は帰還者の報告数が急に増えていた。

妙なことだと思っていた。

まさか俺を倒すためだけに帰還者が送り込まれてきているのか?

・・・

ディアボロスは笑う。

そんなはずはない。

俺など倒しても意味はない。

ということは、神の力が戻ったのか?

あのグレイプニルの鎖は切れるはずはない。

俺でも不可能だ。

・・・

とにかくどこかに身を隠さなければいけない。

まだまだこの地上にはエサはたくさんいる。

何も焦ることはない。

俺の身体に傷をつけれると言っても、所詮は魔王の術によって動いたに過ぎない。

やつの寿命が尽きるまで待てばいい。

それほど長い時間でもあるまい。

100年も待てば、また安全が保証されるというもの。

それまではどこか辺境の地域で過ごすとしよう。

ディアボロスは頬の傷を確認しつつ、ヒマラヤ山系に近づいていた。

傷はまだ癒えていない。


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