第59話 ディアボロス



ミシチェンコの指が俺の首に入ってくる。

痛くはないが、頭が痛い。

演技をするまでもなく俺が苦しんでいるように見えたのだろう。

ミシチェンコがフッと力を緩めて俺を下ろす。

「ふむ・・どうやらこの帰還者たちよりも私の方がレベルが高いようだ。 それにしても日本人というのは小人族なのかな?」

ミシチェンコがニヤッとしながらつぶやいていた。

俺はそれどころではない。

頭が割れるようだ。

一体何の病気だ?

こんな死に方嫌だよぉ。

俺が痛みに耐えていると、奥から誰かが歩いてきた。


声が聞こえる。

「どうかね?」

ミシチェンコがその声に反応して、パッと姿勢を正す。

「だ、大統領!」

ミシチェンコ以外の連中も一斉に整列した。

プッツン大統領は微笑みながらミシチェンコのところに行く。

「はい、今調べてみましたが、どうやら私の方がレベルが上のようです」

「ふむ・・ミシチェンコ君、外交問題に発展するようなことはしてないだろうね」

「だ、大統領・・」

「フフ・・フハハハハ・・冗談だよ。 問題あるまい。 勝手に我が領土に侵入してきたのだ。 消えても文句は言えまい」

大統領の言葉にミシチェンコはホッとしたようだ。


大統領は俺たちの前に来て品定めをするような目で見ている。

「なるほど・・帰還者ねぇ・・ミシチェンコ君、彼らをどうするつもりかね?」

「はい、能力などを測定したり、いろいろと引き出せるだけ情報を引き出してみます」

「うむ・・まぁ君よりもレベルが低いのなら意味はないな」

「は?」

プッツン大統領はそうつぶやくと、ミシチェンコにはよく聞こえなかったようだ。


俺はプッツン大統領が入ってきた時から気を失っていたようだ。

プッツン大統領が帰ろうと俺たちに背中を向けた時だ。

突然振り返った。

目を大きくして俺を見つめている。

「だ、大統領、どうかされたのですか?」

ミシチェンコが言う。

俺の意識はない。

だが俺の身体勝手に動いていたようだ。

後で思い出したことだが、魔族の王から記憶封印術を施されていたのだ。

ある人物と出会うまで、一切の必要な記憶を封印する秘術。


プッツンは俺を見つめたまま動かない。

ミシチェンコも俺の方を見る。

・・・

『クックックック・・大統領か。 よく言うぜ、ディアボロス』

!!

プッツン大統領の顔つきが変わった。

「な、何者だ!」

『この者の記憶から話しかけている。 お前の言葉は届かない。 裏切者の魔族の大罪人め・・人族の神をだまし転移したようだな』

プッツンは一歩足を引いていた。

ハッとして足元を見る。

この私が後退したのか?

そう思って前を見た時だ。

テツが立ち上がっていた。

拘束バンドなどは意味はなく、自然と外れていた。


『ディアボロス・・貴様には死を持ってあがなってもらう』

テツがそう言葉を出すとプッツン大統領に向かってダッシュした。

左手刀を繰り出す。

プッツン、いやディアボロスの頬をかすめる。

左頬に大きな傷が出来ていた。

「なに?」

普通ならすぐに治癒するはずだが、傷ついたままだ。

テツも動きを止める。

『時間切れか・・ディアボロスよ、必ず追い詰める』


「だ、大統領!」

ミシチェンコが駆け寄っていた。

「大統領、お顔に傷が・・」

「ミ、ミシチェンコ・・大丈夫だ。 後は頼む」

プッツン大統領は急いで部屋を出て行く。

ミシチェンコが俺を見つめる。

俺もぼんやりとだが、意識が戻って来た。

くぅ・・頭が割れるかと思った。

だが、思い出した。

それよりも、だ。


「き、貴様・・よくも大統領を・・傷つけたな」

ミシチェンコが怒っている。

戦闘はするなと言われていたが、このままだと帰ることすらできないだろう。

ミシチェンコの周りの兵士だろうか、その雰囲気に怯えているようだ。

ミシチェンコが俺に向かってきた。

俺も逃げずに迎え撃つ。

ミシチェンコの右ストレートが俺の顔面に向かってくる。

・・・

遅い。

そういえば、こいつアンナの顔を張り飛ばしていたよな?

クラウスを殴っていたが・・それはいい。

それに俺の首を絞めたよな?

あまり記憶にないが・・。

俺はそんなことを考えていたが、ミシチェンコの右拳はまだ俺に届いていない。

俺はミシチェンコの右拳の外側に躱しながら、右手首をそっと掴み、下から叩き上げた。

バキッ!

ミシチェンコの右腕が折れただろう。

そのままミシチェンコの右わき腹に近寄ると、思いっきり掌打を叩き込んだ。

ドォーーーン!!

ミシチェンコはそのまま吹き飛んで壁に激突。

壁に穴が開いている。

外まで飛んで行ったか?

どうでもいい。


ミシチェンコの周りの兵士たちはのように突っ立ったままだ。

それよりもアンナとクラウスを自由にしないと。

俺が近寄って行くとアンナが俺を見ながら目をうるうるさせていた。

アンナの拘束を取る。

「あ、ありがとうテツ」

続けてクラウスの拘束も外した。

「すまないな・・」

アンナとクラウスはうなずくと言う。

「撤退しよう」

俺もうなずいて迷わずに撤退した。

俺たちが気合を入れて移動すれば、通常の人間に見えるはずもない。

余裕で撤退できた。

だが、肝心のミシチェンコやプッツン大統領などの調査はできなかったが。


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