第54話 帰還者の存在



<クソウとテツ>


クソウがメリケン首相と笑顔で俺を見る。

「佐藤君、我々は協力してロシアの調査を行おうと思っているところだ」

いきなりクソウが俺に話しかけてくる。

はぁ?

「クソウさん・・協力・・ですか?」

「うむ。 君の返事次第だがね」

「その協力して調査というのは、どんなことなのでしょうか」

俺はクソウとメリケン首相の両方に聞いたつもりだ。

「うむ・・」

クソウがうなずくと、メリケン首相が話して来た。

「えぇ、ロシアに潜入して転移者の正体を探って欲しいの。 戦闘にならないように注意してもらいたいのだけれど、最悪の時には逃げるのを優先してもらいたいわ」

逃げるのを優先か・・はっきり言うんだな、この人は。

「なるほど・・それでその任務はいつ行うのでしょうか?」

「佐藤君、君の返事次第だと言ったはずだ。 君がOKなら今すぐにでも出発となるだろう」


俺はクソウの言葉を聞き、恐ろしく感じる。

俺の把握できないところで、ドンドンと物事が進んでいるようだ。

それもとてつもなくでかい出来事が。

大丈夫か?

いや、そんなレベルじゃないだろう。

どうなるのか想像もできない。

・・・

ただ、帰還者は間違いなく表に出てきている。

それも国というものの色を出して。

このドイツにしても既にトップの人と同席して活動している。

出遅れているのは日本だけか?

いや、そのうち俺の知らないところで帰還者が見つかるかもしれない。

俺は少し考えていた。

・・・

どうせ俺が活動しなくても、俺以外の世界では帰還者を利用して大きく動くことだろう。

巻き込まれるのも時間の問題に違いない。

だが、リカやケン君たちはどうなるのだろうか。

頭は良さそうだが、それだけにうまく日本の国に利用されないだろうか。

・・・

わからない。

今は俺の目の前に起きているこの案件を解決するのが先決だな。


「どうかね、佐藤君。 即決は難しいか?」

クソウが声をかけてくる。

俺の考える時間が長かったのだろう。

俺は一度目を閉じてうなずく。

「クソウさん、もし俺が行かなければどうなりますか?」

クソウが俺を見て笑う。

「フフフ・・これはすまない。 我々の、いや日本の立場が弱くなるね。 次の厄介ごとが起こった時に、ドイツの協力が得られにくくなるだろう。 それだけじゃないがね」

メリケン首相が微笑みつつ俺を見つめている。

クソウがメリケン首相と何やら話をしていた。

おそらく俺の返事までの間をつないでいるのだろう。

このおっさん、ただのダメおやじだと思ったが頼りになるじゃないか。

ま、自分の都合の良い時だけだろうが。

俺は決断する。

遅かれ早かれ俺たち帰還者は巻き込まれる。

それにまだドイツは完全な敵になっていない。

むしろ日本と協力関係を持とうとしている感じだ。

政治的なことはわからないが、俺はロシアの調査に行くことにした。


「クソウさん、それにメリケン首相。 私もロシアの調査に参加させてもらいます」

俺の言葉を聞くと、メリケン首相が両手を合わせてにっこりと微笑む。

「まぁ、佐藤さん・・ありがとう。 では早速ミーティングにしましょう」

メリケン首相がそう言うと、右手を上げてパチンと指を鳴らした。

すぐにメリケン首相とアンナ、クラウス、数人のSP。

日本側はクソウと俺と3人のSP。

それだけを残して他の人たちは部屋から出て行った。


「さて、ロシアに行くのはアンナとクラウス、それに佐藤さんだけね」

メリケン首相がニコニコしながら話始める。

「佐藤君、君のレベルというか強さは問題ないと思うが、もし良ければ俺たちに教えてくれないかね?」

クラウスが表情を変えずに聞いてきた。

その場の全員が俺を見る。

「クラウスさん・・自分のレベルを言うのは自殺行為だと教わったはずです。 ちょうど今我々しかこの空間にはいません。 何なら私の動きを把握されてはどうですか?」

俺は答えつつ考えていた。

何故レベルを言わなきゃいけない。

嘘を言うかもしれない。

まさかそれを見破るスキルをアンナかクラウスが持っているか?

本当に実力を知りたいのなら俺の動きを見ればわかるだろう。

まぁ、俺が見た2人のレベルはアンナがレベル30、クラウスがレベル28だ。

俺の敵ではない。

俺もかなり抑えながら行動しなければな。



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