第32話 プレッシャー



「お帰りリカ。 あ、どうしたの?」

母親が声を掛けるも、自分の部屋に駆け込んでいく。

リカは部屋に入るなり、すぐにケンに電話をした。

プルル・・・。

「あ、ケン? 今、大丈夫? あのね・・」

リカはケンに今起こったことを伝えていた。

ケンは何とかその場をしのげて解放されたところだった。

・・・

・・

ケンはリカの話を聞いていて絶望を覚えた。

ダメだ。

リカが魔法を使ったようだ。

もう隠すのは無理だろう。


テツさんに相談するしかない!

だが、テツさんに迷惑がかかるかもしれない。

しかし、自分たちの手に負えるような案件じゃない。

それにいざとなれば、リカと自分の2人だけでも・・ダメだ。

家族が犠牲になる。

ケンはリカの話を聞きながらも落ち着いて言葉を出す。

「リカ、泣いていても始まらない。 とにかく落ち着くんだ」

「う、うん・・ごめんね、ケン」

リカが泣きじゃくっている。

「起こってしまったことは仕方ない。 これからどうするかだな」

ケンはそこまで言葉を出すと、少し考えてリカに言う。

「リカ、やっぱりテツさんを頼ろう。 俺たちではわからないよ」

「・・うん。 テツさん、怒るかな?」

「まさか・・きっと力になってくれるよ。 俺が電話してみるよ」

「うん、ありがとうケン」

「仕方ないよリカ。 また後でな」

ケンはそう言うと電話切った。


さて、テツさんに電話してみるか。

ケンは携帯を手にする。

こんな時間だが仕方ない。

時間は23時前だ。



<リカの家の前>


リカの魔法で吹き飛ばされた連中が起き上がって来た。

3人いる。

2人は女で1人は男だ。

「いたた・・間違いないな」

男が立ち上がりながら辺りを見渡す。

壁に身体を預けてまだ2人は動けないようだ。

男は近づいて行って声を掛ける。

「大丈夫か? まさか本当に魔法だとはな」

男が女の手を取りながら引き起こす。

「いたた・・お尻を打ったわ。 これじゃあ、アオタンができてるわね」

倒れた女性が真剣な顔でつぶやくと、男が笑う。

「ちょっと都倉とくら君、笑わなくてもいいじゃない」

女の人はムッとする。

もう1人の女の人も引き起こすと都倉が言う。

「俺がここに残る。 君たちは帰って至急報告してくれ。 これは最重要案件になるだろう」

女の人たちはうなずくとすぐに行動を開始。

都倉は2人を見送ると、リカの家の前で待機していた。


信じられないな。

まさか異世界転生漫画のようなことが起こっているのか?

俺も好きだからよく読むが、現実に見せられると怖いな。

あの庄内里香って女の子だが、間違いなく俺たちを吹き飛ばした。

格闘術じゃない。

俺たちはかなり用心していた。

いきなり強烈な衝撃を受けたと思ったら壁に激突していた。

今まで見たことも聞いたこともない武術だとしても、人を吹き飛ばすなんてないだろう。

気功にしてもこんな強烈なのは俺は知らない。

植芝盛平にしても、弾丸の道筋がわかるという逸話が残る程度だ。

信じられないが、俺たち3人が吹き飛ばされたのは事実だ。

さて、これからが大変だな。

都倉は妙にワクワクしながらも、リカのことを思うと少し気の毒な感じもしていた。


◇◇


<テツ>


俺の携帯が鳴っていた。

プルル・・・。

俺はどうやら寝ていたようだ。

手を少し動かして携帯を取る。

画面に表示されている名前を見る。

ケン君だった。

俺は一気に目が覚めた。

すぐに電話に出る。

『テツさん、夜分に申し訳ありません』

ケン君がいきなり話してきた。

・・・

・・

なるほど、どうやら俺と同じようなタイミングでリカさんとケン君がやられたらしい。

俺の方も同じように調査員がきたことを伝える。


それにしてもやることが露骨だな。

いや、それだけ国も焦っているということか。

俺は軽く頭を振る。

そんなこと知ったことじゃない。

子供1人に対して大人が3人もプレッシャーをかければ、そりゃ潰れるだろう。

俺はリカさんに同情をした。

『ケン君、それは仕方ないよ。 俺の方も完全に疑っていたしな』

『そうですか・・それでこれからどうなるんでしょう?』

ケン君は不安そうな声で聞く。

『ケン君、そう心配することはないと思うよ』

『え?』

『まぁ、何というか俺たちは重要な人物扱いだろう。 それに家族の安全を君たちも考えているのだろう』

ケンは黙って俺の話を聞いていた。

『ケン君、俺も早速相手に接触してみるよ。 こうなったらある程度俺たちの力を見せなければならないだろうね。 まぁ、リカさんにも気にするなって言っておいてあげてくれ。 また連絡するよ』

『はい、ありがとうございます』

俺はそう言って電話を切った。


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