第28話 魔法だと?



<政治家の会館>


分厚い扉の中に3人の老人が入って来る。

「まぁお座りください」

クソウ大臣がそう言って椅子に座る。

ニッカ大臣とスカ首相も一緒に座った。

クソウ大臣の横にいたSPが不動の姿勢で立っている。

「クソウさん、何かわかりましたか?」

ニッカ大臣が聞く。

「えぇ、魔法かどうかわかりませんが、奇妙な事件がありましてね。 君・・」

クソウ大臣がそう言ってSPの方を向く。

SPは一歩前に出て報告をする。

「はい、僭越せんえつながら報告させていただきます」

・・・・

・・・

「本当にそんなことがありえるのかね?」

スカ首相が驚いた顔をしている。

ニッカ大臣とクソウ大臣も難しい顔だ。


報告内容には、森ビルから飛び降りた学生が無傷だったという事件。

水道橋での死体のない焼死事件などがあった。

また新しいものでは名古屋で、若者が4人ほどいきなり傷だらけで倒れた事件が発生したという。

何にせよ証拠が全くなく、警察でも捜査ができていないという。

だから逆に不審な出来事として残っているという。

それをSPが米国などの情報網から合わせて「魔法」という言葉を集めてきた。

「どうですかな? とにかくわかっていることは、この日本から新型コロナウイルスが無くなっているということです。 他国が言っているようなガスの拡散などはありません。 私だって信じられませんよ。 ただ、魔法だと言われたらそれ以上追求できなくなるような事案ですからな」

クソウ大臣が面倒くさそうに話す。

「アメリカでもホワイトハウス周辺には新型コロナウイルスがないとの話もあります。 ロシアやフランス、イギリスなども主要なところにはあるのかもしれません。 そちらの確認は外交機関にやらせましょう」

ニッカ大臣とスカ首相はうつむいたまま目を閉じていた。

決して寝ているわけではない。


「う~ん・・魔法ですか・・」

ニッカ大臣が唸る。

「クソウさん、アメリカでは大統領の知るところとなっている。 電話でも私にそんなことを言ってきましたからね。 そういった力を国が認識しているということですな。 何にしても我々も対処しなければいけませんな」

「えぇ、真偽はともかくも早急に動かないといけませんな」

スカ首相の言葉にクソウが答える。


◇◇


<バッキンダック主席>


クソウ大臣のSPが報告をしている頃、この国でも魔法のことが伝えられていた。

黒い皮の椅子に座っている人物、バッキンダック主席がゆっくりと立ち上がる。

「魔法だと?」

「は、はい。 アメリカの調査員からの報告です」

「バカな。 そんなものが存在するのかね? ならばどうして今までそんな報告がなかったのだ。 突然魔法だなどと・・その調査員は大丈夫なのかね?」

バッキンダック主席は呆れつつも怒りが沸き起こっていた。

「はい、北京大学を首席で卒業しております。 問題はないかと思います」

「ふむ・・魔法か・・」

バッキンダック主席が何やら考えていると、報告をした人物がまだ何か言いたそうな顔をしていた。

「まだ、何かあるのかね?」

「あ、は、はい。 こちらは不確かな情報ですが、ドイツとフランス、ロシアでも同じような、新型コロナウイルスが消えた場所が存在します」

!!

「本当かね?」

バッキンダック主席は驚く。

「は、はい。 魔法かどうかはわかりませんが、その地域には新型コロナウイルスの患者がいなくなったとのことです」

報告をしている者は額に汗をかいている。

部屋は決して暑くはない。

バッキンダック主席は報告者を睨む。

・・・

「そうか・・報告ご苦労だったな。 下がってよろしい」

バッキンダック主席の言葉に報告者は頭を下げ、ホッとした顔で退出していった。

黒い皮の椅子に深く座り直し、バッキンダック主席は考える。

各国の調査員に新型コロナウイルスの無くなった場所の詳細な調査と報告。

魔法というのがどういうものかわからない。

もしかすれば、新しい技術なのかもしれない。

電磁波装置などでウイルスを帯電させてコントロールしたのかもしれない。

魔法なら、なぜ自国民を助けようとしないのか?

政府の主要施設だけというのも資本主義国の連中が考えそうな技術だ。

とにかく情報が少ない。


バッキンダック主席は、どうやら魔法というものを信じることができないようだった。

西洋の最新技術なのではないかと考えていた。


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