第17話 飛び降りか?
<テツの日常>
今日から会社には通常出勤らしい。
水道橋から市ヶ谷まで総武線でいく。
来週には新宿のビジネスホテルに宿泊所を変更だ。
会社が借り上げたビジネスホテルの宿泊所は、都内にかなりある。
社員はどこでも好きなところを選んでよかった。
ただ、空きがなければ引っ越せはしないが。
今回は、新宿に宿泊している人が退社したそうだ。
なんでも新型コロナウイルスの心配がなくなったので、実家に帰って農家を継ぐらしい。
いいことだ。
生産職は強い。
人は食べることから解放はされないだろう。
俺は軽くラフなカジュアル服で出社する。
俺の働いている会社に制服やスーツはない。
みんな普通のラフなスタイルでOKだ。
会社に出勤すると、みんな明るい感じがする。
気のせいではないだろう。
「おはようございます」
俺も事務所に入りながら挨拶をする。
「おはようございまーす」
どこかから言葉が飛んでくる。
明るい声だ。
俺は自分の机に行きメモ書きなどを読みながら、椅子に座る。
えっと、9時から取引先の会社へと挨拶か。
確かに、新型コロナでどこも出かけてなかったからな。
ゲッ!
俺一人かよ。
ま、いっか。
「おはよう佐藤君」
課長だ。
「あ、おはようございます課長」
「今日もよろしくね」
「はい」
課長はそれだけいうと、他の社員にも挨拶して回っていた。
俺も辺りを見渡してみる。
確かに、社員が一度にこれだけ出社したことなんて、ここ数年なかったんじゃないか?
そんなことを思ってみるが、そろそろ出かける時間だ。
俺は書類を持って、取引先の会社へと向かう。
「では、行ってきます」
声を残して出発。
取引先は、六本木の森ビルに入っている会社だ。
天気もいいので、会社の自転車を使う。
電車よりも早いだろう。
自転車で移動すると気持ちがいい。
俺は景色を見ながら森ビル近くまで来ていた。
すると、人が上を見ながら集まっている場所がある。
パトカーなども2台ほど赤色灯を回して停車している。
皆の視線の先を追って見ると、ビルの上に誰かが立っている。
・・・
なるほど、飛び降りようとしているのかと、俺は冷静に判断。
自転車を止め、その様子を少し見ている。
死ななきゃならない事情が出来たのか?
まぁ、俺にはわからないな。
だが、飛び降りる人がいるというのに、それを見ている人たちはお祭りのような感じだな。
スマホで撮影している奴もいる。
こんな人が飛び降りる映像を撮って、いったいどうするんだ?
ビルの下では警察官達が場所を確保している。
落下予測地点にはきれいに空間が出来ていた。
それにマットみたいなものを運び込もうとしている。
それを見ていると、ギャラリーが騒がしくなった。
「キャア!!」
「と、飛び降りたぞ!」
「く、来る・・」
かなりザワザワしていた。
俺もその落下している人を見ていた。
地上部分は明らかにコンクリートだ。
マットも間に合いそうもない。
それにマットを広げても空気を入れるまでに時間がかかり過ぎるだろう。
完全にアウトだな。
そんなことを思ってみたが、見過ごすことはできない。
俺は集中して超加速で移動する。
落下してくる人が地上まで5mくらいになっていただろうか。
俺はその人のところまで移動し、空中からそっとその人を抱える。
!!
なんだ、まだ子供じゃないか。
中学生くらいか。
こんな子がいったい何故?
まぁ、理由はいい。
俺は抱えたまま、その子に風魔法をかけて身体を覆う。
その子を連れて警察官が広げようとしていたマットまで近寄って行った。
マットを少し膨らませて、その上に飛び降りた子を置く。
これでどこも傷もなく大丈夫だろう。
ただ、あの高さから落ちて無傷というのもあり得ないが、仕方ない。
勝手にメディアや世間が話を作ってくれるだろう。
俺は自分の自転車のところまで戻って集中を解く。
タイムラグは1秒もない。
一気にギャラリーの声が響く。
「「「うわぁあああ」」」
「落ちたぞ!!」
「どこだ?」
・・・
・・
しばらくすると静かになり、また騒がしくなった。
「人がいない・・」
「いったいどこへ行ったんだ?」
・・・
「「あ!!」」
「あそこを見ろ、警察のマットの上だ!!」
誰かが言った一言で全員がその方向を見る。
「マジか!」
「奇跡だ」
「怪我してないのか?」
「警察官、よくやったな」
「でも、落下地点が違うような・・」
「俺たちが見間違えたのか?」
「無事でよかった・・」
・・・
・・
いろんな言葉が飛び交っていた。
俺はそれをよそに自転車を走らせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます