第186話 命の等価交換


等価交換でアスラを復活させる。

その為には、アスラの命と同じものを斬らなければならない。

みんなが冷や汗を垂らす中、賢者シシルルアが声を出した。



「ま、まさか……。私達の誰かを斬らないわよね?」


「……そんなことするわけないだろ。仲間を助けるのに仲間が死んだら本末転倒だよ」


みんなは胸を撫で下ろす。


さてどうするかだ……。


テラスネークは不敵に笑った。


「ふん。仕方ない。力を貸してやろう」


彼女が俺の肩に手を置くと俺の 分裂ディビジョンが現れた。

真実の答えリアルアンサーの力である。


「そいつを斬ればいいだろう。本体が増えているんだ。命に変わりはない」


みんなが歓喜する中、ブラフーマ様の言葉で再び氷りついた。



「ああ〜〜、ダメダメ。 真実の答えリアルアンサー 分裂ディビジョンじゃ等価にならんよ」



テラスネークは眉を寄せた。



「なんでよ。 分裂ディビジョンは本体と同じ命じゃない!」


分裂ディビジョンは神の力で増やしたに過ぎん。クサナギの等価交斬は想いを交換するんじゃよ」



等価交斬、想いを交換するのか……。

確かに俺の 分裂ディビジョンを斬っても俺が生きていればなんの想いも無いな。

要するに、アスラの命と同等の存在を失わなければならないのか。



さぁ、厄介になってきたぞ。


賢者ヤンディは泣きながら名乗り出た。



「私の命を使ってよ。アスラ様が蘇るんならさ。私は本望さ」



やれやれ……。



「そんなことは絶対にしない。お前だってアスラに会いたいだろう?」


「そりゃあ……そうだけどさ……」


「アスラだって、お前の命と交換されたのを知ったら悲しむさ」


「うう………………。じゃあ……どうするのさ?」


俺はみんなに話しかけた。



「しばらく、俺とブラフーマ様の2人きりにしてくれ」



ママジャン王国の姫、マーリアは俺の手を取った。

その目には涙を滲ませる。


「タケル様。危ないことはなさらないでくださいね。私達は協力は惜しみません。だから、絶対に……。無茶はしないでくださいね」


「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」


俺の笑みに彼女は不安を募らせた。


無茶はしないと言ってもな。アスラの命と等価交換なんだ。

簡単にことは済みそうにない。


みんなはガネンジャ様に連れられて、ゆっくりと休める客室へと案内された。


ブラフーマ様は無表情ながらも少し悲しい空気を醸し出した。


「タケルよ。等価交換は簡単ではないぞ」


「……そうですね。でも……。アスラはテラスネークの攻撃から俺達を護ってくれた。今度は俺がコイツを助ける番です」


過酷であっても覚悟はできた。

確認していこうか。

等価交換の詳細を。



「ブラフーマ様、教えてください。アスラの命と同等な存在とは、どんなものでしょうか?」







◇◇◇◇



〜〜僧侶リリー視点〜〜




ーーガネンジャの神殿 客間ーー




私達はガネンジャ様の使用人にお茶を出してもらった。

使用人は人の形をした鉄人形である。鉄屑を集めて作ったいびつな容姿。

ガネンジャ様の象火力ガネンマキナによって動いているのだろう。


客間はとても綺麗で、お香の匂いがして、とても素敵。

普段なら、女同士で盛り上がっていただろう。

でも、今は憂鬱。香り豊かな美味しいお茶が、まるで白湯の様に感じられた。



「はぁ〜〜。タケルさん……。どうするんでしょうか?」



魔拳士アンロンは汗を流す。



「ま、まさか……。優しい師匠のことだから……自分の命を交換するなんて。やらないあるよね?」



賢者シシルルアは目を細めた。


「物騒なこと言わないでよ。タケルが私達に黙ってそんな決断するわけないでしょ」


「じゃ、じゃあ。どうやってアスラを生き返らせるあるか?」


「そんなの想像できないわよ。ブラフーマ様とタケルがどんな会話をしているのかすらわからないんだから……」


タケルさんが自ら命を投げ出すなんて、とても考えられないけれど……。

アスラを生き返らせる為には、同等の価値があるものを交換しなくてはならない。

どう考えても物騒な結論になってしまう。


「じゃ……じゃあさ。この中の誰かを斬ることを考えてるあるか?」


「アンロン、良い加減にしなさい。タケルが自分の妻を斬るわけないでしょ!」


「妻じゃないかもしれないある」


アンロンさんはグレン様を見つめた。


「は!? てめぇ、なんで俺の方を見てんだよ!!」


「お前は師匠に酷いことをした過去があるね」


「んなもん過ぎた過去だ!!」


「いーーや。師匠は根に持っているある」


ははは。タケルさんに限ってそれはない。

グレン様のことは仲間だと想っているから。


それでもグレン様は青ざめていた。


「じょ、冗談はやめろよな……」


「冗談じゃないある。この中でも特に役に立ってないお前が一番可能性があるある!!」


「な、なななんんだとぉおおおお…………お、おいゴリゴス。お、俺じゃないよな? タケルは怒ってないよな??」


「タケルどんは静かに怒るタイプでごんすからな。勇者パーティーを解雇されたことはトラウマ級と言ってもいいでごんす」


「なんだとごらぁあ!! 俺が悪いって言うのかよ!! 俺は土下座までして謝ったことがあんだぞ!!」


「あの時の解雇は酷かったでごんすよ。所持金も全て奪ってクビにしたでごんす。少しくらい謝っても許せるかどうか……」



グレン様は益々青ざめてガチガチと震える。

「タケルに限ってそれはない。俺はあいつを信じてる」と念仏のように何回も唱えていた。

そんな時、客室の扉が開いて誰かが入って来た。


グレン様は即座に土下座する。




「タケルすまん!! 許してくれ!! お前を勇者パーティーからクビにしたことは謝る!! 後生だから俺を斬るなんて言わんでくれぇえええ!!」




目の前に立っていたのはアスラだった。


「どけ、邪魔だ。貴様の顔など見たくもない」


い、生き返ったんだ……。

等価交換は成功した。



「アスラ様ぁああああああああああ!!」



賢者ヤンディが抱きつく。



「生き返ったのですね!! 良かったです!! 本当に良かった!!」



アスラは私達を睨みつけた。


……この人はもう敵じゃない。

テラスネークの攻撃から私達の命を護ってくれた。

だから、まずはお礼を言わなくちゃ。



「あの……。アスラ……さん。ありがとうございました。あの時、私達の命を救ってくれました」


「フン……。別に礼を言われる筋合いはない。俺が勝手にやったことだ。それよりどういうことだ?」


アスラさんはテラスネークを睨みつけた。


「化け蛇がみんなとお茶を飲んでやがるぞ」


「あ、あの……それは話すと長くなるのですが……。かいつまんで話しますと、タケルさんが一度倒して、命を救ったんです」


「チィッ! あのお人好しが……」


アスラさんとテラスネークは互いに顔を逸らして険悪なムードになった。



「ア、アスラさん。タケルさんは一緒じゃなかったんですか?」


「……もうじきこの部屋に来るさ」



良かったぁ。タケルさんも無事なんだ。


ちょうどその時、扉が開いて誰かが入ってきた。






「みんな。待たせた」





タケルさんだ!!

いつもの笑顔の!!


……で、でも……どういうこと!?




「あ……。治療の心配はないんだ。ブラフーマ様が処置してくれた。……だから、痛みはもう無いんだ」




ああタケルさん!!

そんなぁああ……。



私達は泣いた。




「師匠ぉおおおおおお!!」


「タケル様ぁああああああああああ!!」


「タケル……うう……うううう」




妻達みんな、号泣だった。

そんな私達を慰めるタケルさんに、私達は涙が止まらない。



「もう、大丈夫だから……。泣かないでくれ」



大丈夫じゃないよ。

これからどうするの?

タケルさんの人生を思うと涙が止まらなかった。

これが等価交換……。残酷すぎる。




タケルさんの右腕は、聖剣クサナギに斬られて無くなっていた。

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