第175話 アスラ


テラスネークは激しく奥歯を噛み締めた。



「わ……私を倒すなんて!! 保険をかけていて良かった!!」



保険だと? 

つまり、 真実の答えリアルアンサーの力で本体をもう1体作っていたということか!


仲間達は大パニック。


まずいぞ!

早く城を作って、亜空間に収納しなければ。

この2つの工程さえ時間がない。

1つの城を作るのが限界!

奴の指先が光れば終わる!!


「……アスラは離れたようね。まぁ、タケルの次に始末するけどね」


蛇は両手をかざした。



「もう手加減しない。フルパワーだ。喰らえ!」



城を1つ作って防御に徹するしかない!

それで10発を防ぎ、その間に──。


テラスネークの五指は大きく輝いた。






「蛇光連弾! ダブル!!」






ダ、ダブルだと!?


放たれたのは20発の蛇光弾が2回。

つまり、40発の蛇光弾。流星群の如く、こちらに迫る。


1つの城で防げるのは10発のみ。

残り30発。1発でも仲間に当たれば全滅である。


俺が城を出そうとした瞬間。

雄叫びが大空に響いた。見覚えのある声にハッとする。







「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」







「ア、アスラ!!」

戻ってきてくれたのか!



彼は両手に持った神の創時器デュオフーバ神樹箒ゴッドブルームを目一杯振り下ろした。










「 地 獄 送 迎 斬 !! 」










さっきは20発を消滅させた漆黒の斬撃波動。

40発も消滅できるのか!?


俺の思考より早く、蛇光連弾ダブルと衝突して大爆発が起こった。








ドドドドガァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!





俺の頭は彼が受けたダメージのことで一杯だった。




「アスラァアアアアアッ!!」



40発の攻撃は俺達には1発も向かって来なかった。全てアスラの地獄送迎斬で消滅させたのである。



しかし、爆発があまりにも大き過ぎる。あの爆発は不自然だ。

1発でも被弾すればアスラの命はない。


爆風に飛ばされる真っ黒い物体が目に入った。



「あ……そ、そんな……」



それは身体中が大火傷したアスラだった。


アスラが被弾している!


嫌な汗が止まらない。

俺は闘神化アレスマキナ 飛翔を使って飛び上がりその身体を抱きとめた。



「アスラ! 大丈夫か!?」



その体は血だらけである。骨は砕け、あちこちの肉がこそげ落ちていた。

アスラが身を挺して俺達を守ってくれたのだ。


気がつけば涙が溢れていた。



「アスラァ! アスラァア!!」



アスラはゆっくりと目を開ける。



「こ…………この野郎。ま、またこんな助け方しやがって」



抱きかかえた姿に不満を漏らす。


「すまん! 今はこうするしかなかった!!」


早く! 早く仲間の元へ戻って回復魔法をかけてもらうんだ!!





「お……お前のお人好しが感染っちまった」




アスラは俺達から離れていた。

だから見過ごそうと思えば簡単にできたんだ。

でもきっと、俺とアンロンの会話が聞こえて引き返した。

俺達を救うために戻ってきた!



「ありがとう!! ありがとうなアスラ!!」



弱々しく震えるアスラを見て涙が流れる。

血液が抜け、体のあらゆる部位が欠損したその体は軽い。



「タ、タケル……」


「もう喋るなアスラァ!」



必ず治す!! 待ってろアスラァア!!


アスラは涙を流していた。




「……仲間を護るってのは……。い、いいもんだな」





何、言ってんだ! お前らしくない!!

いつもみたいに悪態をつけよ! バカ野郎!!










「ヤンディとかさ…………。俺の仲間…………。護ってやってくれよ」










ふざけるな!! 

お前のそんな言葉。俺は認めないぞ!!

断る! って言ってやる!!


しかし、俺は涙が溢れるばかりで返事ができない。

アスラはそれ以降ぐったりとして声を出さなくなっていた。


俺は仲間の元へと着地する。

そこにはアスラの仲間も待っていた。

大声で叫ぶ。





「ヤンディ! シシルルア! リリー!! 大急ぎで回復魔法を使ってくれ!!」





3人は急いでアスラにかけよると回復魔法を施した。

僧侶リリーがアスラの脈を測りながら目に涙を溜める。




「タ……タケルさん……」



俺は怒鳴った。





「何してる!! 早く回復魔法をかけろ!!」





賢者シシルルアが眉を寄せた。

彼女の目にも涙が潤む。





「タケル……。この世界に命を復活させる。都合のいい、蘇生魔法は存在しないのよ」





俺は言葉に詰まる。

大きく否定したい、認められない事実に、ただ拳を握るだけだった。



ヤンディは泣き崩れた。









「アスラ様ぁああああああああああああああああああああああああああ!!」








アスラは死んだのだ。



こいつは人殺しでどうしようもない悪だったのかもしれない。

でも、世界で唯一……。

神の力を共感し合える仲間だった。


俺の震えをかき消すように、ゲスい笑い声が辺り一面に響いた。






「アハハハーーーーーー!! アスラは死んでしまったようね!! 自分だけ逃げていれば、少しは長く生きれたものを! バカな奴!!」





俺の悲しみを打ち消すように、腹のそこから怒りが沸々と沸いてきた。



「笑うな…………」



テラスネークの高笑いは続く。



「アハハ! バカはすぐ死ぬ!! これが笑わずにいられるか!! ハハハハッ!!」



こいつは絶対に許せない。

仲間を救ったアスラを笑うコイツを、絶対に許せない!!







「アスラを笑うなぁあああああああああああああああああああッ!!」







テラスネークはすぐさま両手を俺に向けた。




「ふん! 虫けらの命になんの価値もない!! お前らもそいつ同様、あの世へ送ってやるわ!! ボロ雑巾みたいにぶっ殺してやるぅうううう!! 蛇光連弾ッ!!」




20発の蛇光弾が俺達に向かって凄まじい速度で飛んでくる。

しかし、俺は汗一つかかなかった。怒りの熱が汗を蒸発させたのだ。





「やってみろ! 俺達を殺してみろテラスネーク!!」





俺が右手を薙ぎ払うと、目の前には全長5メートル程の小さな城が現れた。

その城が全ての蛇光弾を受けて爆発。爆風が起こった。

しかし、爆発の威力は小さく、その風は妻達の髪を靡かせた程度だった。

テラスネークは驚きを隠せない。



「どうして!? あんな小さな城で!? それに、1つの城で防げる蛇光弾は10発のはず!!」



爆風が収まると眼前にある5メートルの城は毅然として立っていた。

僧侶リリーは城を見つめる。

城は、表面がボロボロと崩れ剥がれ落ちていた。



「あ、新しい城が中から出て来てる……。そ、そうか。1つの城で防げる蛇光弾は10発だから……。重ねたんだ。あの一瞬で、城を何重にも重ねた! あの城は 千枚の葉ミルフィーユ心の城ハートキャッスル  千枚の葉ミルフィーユだ!!」



限界を超えた俺の体からは凄まじい湯気が立ち上る。

やがて、その熱は発火して、おれの体は炎をまとった。

しかし、体は焼けることがなく、それどころか、衣服すらも燃えていなかった。





「俺の怒りは限界を超えた!! 許さんぞテラスネェーーーーーーク!!」

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