第154話 神のカリスマ
神のカリスマは俺の方がアスラを上回った。数値に変化はない。
アスラ、40万233人。
タケル、40万860人。
その差、627人。
わずかながら俺の方が多い。
ゼノは小さく首肯。
俺の勝利を確信した。
ゼノの宣言が出ようとした、その時。
ドスーーーーーーン!!
大きな丸い球体がアスラの後方に落ちた。
それは神樹でできた球体でアスラの操作でなめまかしく動く。
「フン! こんなこともあろうかと切り札を用意しておいた」
アスラが指を鳴らすと神樹は球体を解く。中から数千人の人間が現れた。独特の白い民族衣装。その紋様は昨日神の間で見た壁と同じ物だった。
みな表情は暗く、絶望感に包まれている。
「アリアーグの民。何かに使えると思ってな。殺さずに残しておいたんだ」
球体の中から1人の女が地面に倒れ込む。その体は神樹に巻きつかれて身動きができない。体中血だらけで目は充血していた。
「神官の女だ。普通の、なんのスキルも持たない奴だがな。アリアーグの奴らは妙に崇拝してやがる」
賢者の女がニヤついた。
「てめぇら、わかってんだろうなぁ! この女の命はアスラ様が握ってんだ! 助けたかったらアスラ様を崇拝して祈れ! あの上空に浮かぶアスラ様の数値を上げることができたら命は助けてやる!」
アスラが人差し指を少しだけ動かすと、連動して女の神樹が体を締め上げた。
「ギャァァァアッ!!」
悲痛の叫びが辺りに響く。
酷すぎる!
「アスラァア! あの人を離せ!!」
「おっと、戦うならこちらには
アスラは歯噛みする俺を見て不敵に笑う。
「なぁに、殺しはしないさ。今は憎しみより愛が欲しいんだ。一緒に俺の数値が上がっていくのを眺めようじゃないか」
上空の数値は徐々に上昇し始めた。
10……20……30……100……。
アリアーグの民は神官の女を助ける為に一斉に祈った。地獄の祈りに違いない。女を苦しめる残虐なアスラを崇拝しなければならないのだ。
「ククク……どうだタケル。神のカリスマはこうやって上げるものなんだぞ」
「最低な上げ方だ……」
数値上昇の速度が落ちれば神官の女を締め上げて崇拝を即した。
「ギャァァァア!!」
なんとかしてあの人を助けたい!
しかし、アスラには
俺が思考を凝らしていると、意外な人物がアスラの眼前に立った。
「ア、アスラ様……。あの、こ、これはやり過ぎなような気がするんすけどぉ」
元勇者のグレンである。
全身から汗を流し、ブルブルと震えていた。
「グレン……。俺のやることに不満があるのか?」
「あ、いや……そのぉ……」
「貴様……死にたいのか?」
「ヒィーーッ! な、なんでもないッス!!」
グレンの奴、少しは勇者の心が残っているかと思ったが……。とても交渉してくれそうにないか……。
「タケルさん見てください! あれ!!」
僧侶リリーが指を差したのは、俺とアスラの上空に浮かぶ数値だった。
アスラ、40万860人。
タケル、40万860人。
ど、同点だと!?
アスラは叫んだ。
「あと1人だ! お前ら俺を崇拝しろ!! 女の命が無いぞ!!」
神官の女は神樹によって体を締め上げられる。
「ギャァァァアッ!!」
アリアーグの長老らしき老人がアスラに懇願した。
「我々は既に限界まで祈っております! どうぞお助けください!!」
「ふざけるなジジイ! あと1人なんだ! あと1人でタケルに勝てる……」
俺の仲間もアスラの仲間も、それぞれが大声を張り上げて兵士達に呼びかける。しかし、数値はピクリとも動かなかった。
同点の場合はどうなるのだろう?
「ゼノ! この場合はどうなるんだ!?」
「神のカリスマはこの世で1番他者に愛された者の証。必ず1人だけだ」
同点は無いってことか!
アスラは眉間にシワを寄せた。
「クソ! あと1人なのに! たった1人で勝てるのに……!!」
悔しい気持ちが思考と共に、自分を崇拝していない人間を探すようになっていた。グレンを睨む。
「……貴様。さっき俺に意見したな? まさか、俺を選んでない、なんてことはないよな?」
「は!? な、何を言うんですかアスラ様! お、俺はアスラ様を愛しています! 尊敬しています! 心の底から忠誠を誓っていますぅううう!!」
アスラは目を細めた。
「おいゼノ。こいつが数値に計上されているかわかるか?」
ゼノはグレンを見つめた。
ゆっくりと答える。
「その者は迷っている。アスラにもタケルにも心を寄せていない」
アスラはグレンに手をかざした。
「裏切り者め」
ヤバイ! 神樹槍で殺すつもりだ!
「逃げろグレン──」
刹那。
アリアーグの民から、1人の少女が叫び声を上げた。
「アスラァア!! お前なんか大嫌いだぁあ!! 母さんを離せぇえええッ!!」
おそらく神官の子供。
母親を神樹で締め上げるアスラの非道に耐えきれなくなったのだ。
いかん! あの子の命が危ない!
「スキル
アスラは俺の動向をしっかりと把握していた。
同時に脚の闘神化は解除。普通に戻り、速度が出なくなっていた。
女の子までの距離20メートル。
クッ! 間に合わない!
アスラはニヤリと笑うと、女の子に向けて手をかざした。
「神樹……槍」
女の子は6歳くらいだろうか。母親の苦しみに耐えきれず、鼻水を垂らし涙を滝のように流していた。
そんな少女の足元から神樹の槍が生えて伸びる。小さな体を鋭い神樹が串刺しにする。
即死。
と、思いきや、彼女の体は宙に浮いていた。それは盛り上がった地面が少女を押し上げていたからである。
「ガイアウォーーーールッ!!」
グレンの声が響く。
勇者が使う防御魔法だった。それは大地を隆起させて壁を作る。その反動で少女は宙に浮いて神樹槍から身をかわした。
槍はガイアウォールを粉々に破壊した。
俺は驚くばかり……。
思わず笑みが溢れる。
「ハハハ……グレン……やるじゃないか」
グレンは落ちた少女をキャッチするとアスラから遠ざかった。
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