第136話 残酷斬 対 神爆牙

アスラは神樹箒ゴッドブルームを振り下ろした。

残酷斬ではない通常の攻撃ではあるが、一振りで街を壊滅させるほどの力を持っている。


こんな攻撃をスキル闘神化アレスマキナ神腕で受ければ、人間の部位が破裂してしまう。


闘神化アレスマキナ限界突破ッ!」


即座に力を集中して、全身を闘神と化した。

身体から溢れ出る闘気が爆音を鳴らす。



ドォオンッ!!



防御体勢を取ると、その動きだけで空間を引き裂くような風を起こした。

神樹箒ゴッドブルームを受け止める。

鉄と電気が衝突したようなかん高い衝突音が鳴り響く。



ガキィイイン!!



アスラは箒の軌道を変えて何度も打った。


ガギィイイン! ガギィイイン!


「殺してやる! 殺してやるぞタケル!!」


凄まじい接触音が、山を超え遥か1キロ先まで響き渡る。


一撃が速く重い。

受ける毎に命を削るようだ。

限界突破は無制限ではない。

早く終わらせないと俺の命がなくなってしまう。


致命的ダメージを与えられないアスラは苛ついていた。


「なぜだ!? なぜそんなにも強い!?」


俺は渾身の一撃をアスラの顔面に当てる。

それは硬い樹木のような感触。


バンッ!!


限界突破の一撃は、神腕の攻撃以上の威力である。並の人間ならば骨も残さず粉砕するだろう。にも関わらず、アスラの体には傷一つ付けることができなかった。

とても人間の体とは思えない。


とんでもなく硬い体だ。


このままでは埒があかないな。

ならば──。



"神爆牙 一心を当てる。"



この戦いを終わらせるにはこれしかない。まさか人間に当てることになるなんてな。


俺は箒の攻撃を数撃いなすと距離を取った。


アスラは目を細める。


「……何をするつもりだ?」


俺の右拳に力が集中する。


全身に宿る全ての力を右手に集める。


これに気がついたのはテラスネークだった。


『タケル! その技は危険です!! アスラの箒とぶつかれば何が起こるかわかりません!!』


「テラスネーク。みんなを頼む。お前が心の声で避難させてくれ」


『タケル、やめなさい! あなたも無事ではいられませんよ!!』


アスラを倒す方法は、この技しかないだろう。

魔王を倒した神爆牙は、俺の周囲200キロを跡形も無く吹っ飛ばす。その技を一点に集中させた強化版、それが神爆牙 一心だ。通常の10倍以上の威力がある。空天秤には弾かれてしまったが、人間の体が基礎となるアスラなら倒せるはずだ。


俺の右拳は強烈な光を放ち、神爆牙の力が宿った。


アスラは神樹箒ゴッドブルームを構えていた。その穂先に力が集中する。


苦笑するアスラ。



「ここにきて、まさか残酷斬を超える技を編み出すとはな……」



残酷斬を超える技だと?



「この技はお前を倒す為に生まれた」


「……とんでもない技のようだな」


「今までは力を制御していたんだ。力を解放し過ぎると自分が住む大陸を破壊してしまうからな……。しかし、そのリミッターを外すことにした」


俺は汗を垂らす。

アスラは力をみなぎらせながら全身から汗を飛散させた。



「最大パワーの残酷斬。名付けて大残酷斬だ!!」



神樹箒ゴッドブルームの穂先には恐ろしいほどの力が集中していた。

それは豪風を起こし稲光りを発生させる。


大残酷斬と神爆牙一心。

この世で繰り出される最強の技同士のぶつかり合い。


絶対に負けない!


俺は地面を蹴る。

岩土が爆ぜて爆音が轟く。



バグンッ!!



同時にアスラも飛び出していた。



バグンッ!!



アスラは箒を振り上げて叫んだ。




神樹箒ゴッドブルーム、大! 残酷斬んんッ!!」




俺は右拳を振るった。


アスラ諸共、大残酷斬を破壊してやる!




「スキル闘神化アレスマキナ神爆牙 一心ッ!!」




衝突する両者の技。

空間が破裂しそうなほどの爆音と発光。そして爆発が生まれた。




ドグォオオオオオオオオオンッ!!




2人は、その爆発を全身に受ける。

アスラは片目が吹っ飛び、歯が抜けて、全身の骨が見えるほど抉れて吹っ飛んだ。

俺は全身を火傷し、あらゆる部位から出血して飛ばされた。


両者は、まるで隕石が空から落ちるように、遥か遠くへと飛んで行った。


残された者達は口々に心配する声を上げていた。


「タケルさぁーーーーーーーーん!!」


俺の妻、僧侶リリーの声が微かに聞こえる。


んぐ……。

スキル闘神化アレスマキナ 飛翔で体勢を整えたいが、全身に力が入らない。


俺の身体は、飛ばされた瞬間から限界突破が解除されて元に戻っていた。


このままではどこかに激突してしまう。

硬い岩盤はまずい。この体でぶつかると命が無いぞ。


俺が飛ぶ速度は緩まることがなかった。

アーキバの街を超え、遥か遠くに飛ばされる。


どこまで飛ぶんだ?

凄い速さだ。

とにかく着地しなければ。


「ス……スキル闘神化アレスマキナ……ひ、しょ……」


ダメだ。

力が入らない。


もう……何も……。


考えることが……できない……。



…………。



……。




バシャーーーーーーーーーーン!!



凄い音だ。

なんの音だったんだろう?


冷たいような気がする。

どこか、柔らかい場所に落ちたような。


もしかして水辺か?


三途の川でないことを祈るばかりだ。

もしも死んでいたら……。

仲間や、妻達に別れを伝えられなかったことが悔やまれる……。


場所を確認したいがダメだ。

力が入らない。

目を開けることもできない。



考えることも、もう……。


…………。


俺の思考は停止した。

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