第132話 遊び

〜〜アスラ視点〜〜


目の前の男は眼光鋭く俺を睨みつけていた。


こいつがタケル・ゼウサード……。

身長は180センチ足らずといったところか。背格好は俺とそう変わらんな。

ギルドにいてもそう目を引くような見た目ではない。

普通。そう、いたって普通の男。そんな印象だ。


グレンの話では闘神の力を使えるらしい。俺が地神の力だからな。

フ……。互いに神の力を使える訳か……。

あの細い身体で、どこまで威力のある攻撃を繰り出すのか見ものだな。


ビビージョは太ももからクナイを取り出して構えた。


「アスラ様! あの男、アスラ様に睨みを効かすなんて目障りでありんす! 直ぐ殺しましょ!」


同調して10万人の兵士達も武器を構える。


「まぁ、待て。お前達は手を出すな。タケルとは俺が話しをつける」


俺は目の前に広がる大きな穴を見下ろした。


なんだあの建物は?

このパンを焼く匂い、台所か……。

それにあの池の横の建物は……風呂場か。


「町のようになっているな……。1万人の兵士を瞬時にここへ落として捕虜にしたのか……」


消息を絶った理由がわかってきたな。

それにしても、この穴はどうやって作ったんだ……? 闘神の力なのか?


タケルの背後には体長1キロを超える蛇、テラスネークが鎌首をもたげて、赤い舌をチョロチョロと出していた。


あれは俺がアブラマンダラの国で追いかけた大蛇だ。

なぜタケルと一緒にいるんだ?


「この穴……。側面に独特のえぐれがある」


テラスネークがこの穴を掘ったのかもしれんな。

すると、タケルと蛇は仲間だったのか?

そういえばテラスネークの額に呪印がない……。

やれやれ、わからんことだらけだな。


「タケル! なぜその大蛇と一緒にいるのだ!?」


タケルは目を細めた。


「成り行きで一緒になった」


成り行きだと?


「その蛇は俺が奴隷にする予定だったんだぞ。横取りするな」


「彼女は奴隷なんかじゃない」


「彼女だと? メスなのかその蛇。まぁ、そんなことはどうでもいい。俺の奴隷にする予定だったんだ。俺の物を奪った罪は重いぞ」


タケルは俺の言葉に難色を示す。


「テラスネークは物じゃない。仲間だ」


「ハ……!? 仲間だと!? ハハハ! 蛇を仲間だなんて笑わせる!!」


奴は俺の手の甲についた掃除人のタトゥーを見つめていた。


「アスラ。お前の目的はなんだ?」


「このタトゥーを見てわかっただろう?  掃除さ。俺はゴミを掃除する為に存在するんだよ!」


「……ゴミとはなんのことだ?」


「俺に歯向かう奴らのことさ!!」


「人間はゴミじゃない!」


「タケル。お前は俺の蛇を奪い、1万の兵を捕虜にした。こんなことが許されると思うか?」


「お前の兵士は俺の仲間の命を狙った。そんなことは許されない」


「「 ……………… 」」


随分と話しが噛み合わんな。


「俺の奴隷にならん奴らはゴミだ。全て一掃。ぶち殺してやる!」


「そんなことはさせん!」


「タケル・ゼウサード! お前はゴミだ!! ゴミ掃除の開始だ!! 」


俺は右手をタケルの方へと掲げた。


「スキル地神操作ガイアマキナ神樹槍ッ!!」


奴の足元から無数の神樹が生える。

串刺しからの即死。


と確信した瞬間。

奴の姿は消えていた。



「いない!?」



急に暗い。


俺の目の前で日の光を遮る何か。


タケルである。


「何、いつの間に!?」


奴が拳を振り上げる。



「神樹防壁」



バシンッ!!



タケルの攻撃を神樹の壁で受け止める。

しかし、壁を通り越して衝撃波が俺を襲った。



「うぉッ!」



10メートル吹っ飛ぶ。

地面に衝突する瞬間、神樹操で身体を包み防ぐ。

こんな攻撃を受けたのは生まれて初めてである。


「面白い。中々やるじゃないか」


俺は手をかざし神樹槍を連発させた。

しかし、タケルはその全ての神樹を交わす。神樹が大地から出現するより動きが速いのである。


「ほう……。神樹槍が当たらない」


タケルは即座に俺の眼前へと現れた。


「スキル闘神化アレスマキナ神腕!」


赤いオーラをまとった拳が俺を襲う。


さっきより本数を増やした壁を作る。



「神樹防壁」



ガンッ!!


完全防御。

衝撃波は来ない。


やれやれ。

この程度か!


俺は手の平から神樹のツタを出現させた。それを鞭のようにしならせて攻撃する。


神樹鞭しんじゅべんッ!!」


ピシンッ!!


人間では決して見切れない速度。神樹のツタによる鞭の強打攻撃。

その威力は一撃で肉を裂き骨を砕く。


しかし、タケルは赤いオーラをまとった腕でそれを受け止めた。


全くの無傷。


なるほど、あれがスキル闘神化アレスマキナか。

腕を闘神の体に変化させているんだな。

しかし解せんな。

鞭は腕以外を狙っているのだが、どうやって見切っているのだろうか?


よし、ならば、手数を増やして攻撃だ。



地神操作ガイアマキナ神樹鞭、連華れんかッ!!」



神樹のツタの連撃。

1秒間に1万回の強打。


しかし、それさえも全て防ぐ。


「何!? 防ぐのか!?」


観るとタケルの瞳は真っ赤になって腕と同じような赤いオーラに包まれていた。


なるほど。

腕と瞳の闘神化アレスマキナ

闘神の動体視力で攻撃を見切り、闘神の腕を使って神樹鞭を受けていたのか。


タケルは笑う。


「無駄だアスラ。こんな攻撃、俺には効かん」


俺は眉をあげた。



「それはどうかな?」



バグンッ!!



突然の強打音。


タケルの側面を、千年樹のように太い神樹がハンマーのように叩いた。


地神操作ガイアマキナ神樹槌しんじゅづち


その威力は凄まじい。豪風が巻き起こって兵士の鉄兜を脱がすほどであった。


「んぐぅッ!!」


タケルは20メートル吹っ飛ぶ。


ズザザザザァアッ!!


地面に衝突。その威力で砂煙が上がる。


神樹鞭の連撃に注意を向けて、その背後で大きな神樹を成長させて神樹槌で攻撃した。

作戦成功である。


痛快とはこのことか!



「ハハハァア! 残念だぞタケルゥ! お遊び程度の攻撃で、俺が勝ってしまうとはなぁ!!」



タケルの仲間達が悲鳴を上げた。



「キャァッ!! タケルさん!!」



おそらく、こんな一方的に負けるタケルを見るのは初めてなのだろう。仲間達に動揺が伺える。 

僧侶と思しき少女は顔を真っ青にして走り出した。


「タケルさんが負けるなんて! し、信じられない!」


神樹槌の攻撃は凄まじい威力である。

並の人間ならば骨も塵と化すだろう。


見た所、五体は残っているようだ。

しかし瀕死にはかわりない。


仲間達がタケルに駆け寄る。


「タケルさんすぐ治します!」


ククク……。

回復魔法でも施すか。

無駄だ。そんなことをする前にお前達を殺す。


少女がタケルに到達するより早く、俺はそいつに向けて手をかざした。


地神操作ガイアマキナ神樹そ──」


刹那。


タケルは直ぐに立ち上がり、何事も無かったかのように体に付いた土を払った。


「バカな!? 神樹槌をモロに喰らったんだぞ!?」


奴は俺に笑いかける。


「アスラ。遊びは終わりだ」

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