第111話 不穏な空気

ーータケル邸ーー



俺の過去を聞いた妻達は、こんな俺でも優しく受け入れてくれた。


賢者シシルルアは眉を寄せる。


「じゃあ、その魔神アスラが今回のアスラ軍ということなの?」


「それは……。わからない。俺がクマソの大陸に行った時、魔神アスラは仲間を作らなかったようだからな。軍を率いるなんて考えにくいが」


「たしかにそうね。1人で大陸を制圧できる魔神が、今更、軍を率いるのは理由がわからない。となると、その正体は現地に行ってみないとわからないわね」


「ああ、それに……アーキバが占領されているのが気になるんだ」


僧侶リリーは顔をしかめた。


「タケルさん……。アーキバといえば、オータクさんが住んでいますね」


「ああ。国が占領されて、捕虜になっているのなら、まだ命は助かるだろうが……。戦火に巻き込まれでもしたら……」


バルバ伍長は鼻で嘆息。


「ふむ。では仕方ないな。お前は休みを取れ。しばらくタケルの空いた城兵職のシフトはロジャースに任せるとしよう。あやつは城兵の休憩所で酒を飲んで騒いでいた前科があるからな。その罪滅ぼしをしてもろうヌフフ」


「バルバァ! ありがとう!!」


バルバ伍長は真っ赤になった。


「べ、別に……。つ、妻として当然だろ? だ、旦那様の心配は、わ、私の心配でもあるのだからな」


マーリアは目を潤ませた。


「タケル様のお父様は農夫仲間の命を助けに行かれました。タケル様も仲間の身を案じて旅立とうとしています。なんだか似ていますね……」


俺は苦笑い。


「俺は父さんの……。ケイコウ・ゼウサードの息子だからな」


支度をしようとする俺に、シシルルアは声をかけた。


「待ってタケル」


「どうかしたか?」


「嫌な予感がするのよ。回復魔法を使える者を連れて行って!」


俺は魔法力がゼロだからな。

もしものことが有れば、確かに有用か。


「回復魔法を使える者。妻の中では、私とリリーだけよ」


シシルルアは僧侶リリーに笑いかける。


「スタット王国からアーキバの街といったら1万キロ以上も離れている。とても私を抱いて行くのは大変よ。私より体が小さい、貴女が適任だと思うの」


リリーは大きく息を吸い込んだ。


「はい! 私、タケルさんのお役に立ちたいです!」


こうして、俺とリリーは旅の支度をすることになった。リリーは防寒着を着込み、神速の温度低下に耐える。


俺は妻達に別れを告げて、リリーと共に内戦の起こるロメルトリア大陸、アーキバの街へと向かった。


無事でいてくれ! オータク!


「スキル闘神化アレスマキナ 神 速!」



ドギュウウウウウウウンッ!!




◇◇◇◇




〜〜アスラ視点〜〜


ーーアブラマンダラの城ーー


俺は、奴隷にした美食ギルドのグウネルと城の前に立っていた。


ここはシンプルに正面突破で行こうか……。


そこに女の怒号が響く。


「待てぇえええいッ!! 息子の仇ぃいいッ!!」


息子の仇?


女は短剣を構えて、怒りで体を震わせていた。


こんな女に見覚えはない。


「誰だお前?」


「私はお前に殺された衛兵キデルの母親だぁ!」


衛兵キデルねぇ?


「知ってるかグウネル?」


「いえ。おそらくはあの刑務所の衛兵の誰かかと」


女は短剣を持って俺に突進。


「息子の仇ィイ! 死ねぇえええ!!」


俺は片手を軽々と上げた。



「神樹槍」



女の体に無数の神樹が突き刺さる。



「グェエエッ!!」



血眼で俺を睨みつけた。



「あ、悪魔ぁ! 悪魔めぇええ!!」



やれやれしぶとい。


俺は神樹槍を追い討ち。更に刺した。


「グフ……」


大量の血を吹き出して絶命。


グウネルは震える。

そして、女の言葉に何かを思い出したようだった。


「悪魔……。アスラ……。そうか魔神アスラ! あ、あなたはもしかしてクマソ大陸で猛威を奮った魔神アスラなのですか!?」


懐かしいな。

俺が掃除人になる前の話だ。


「そんな風に呼ばれていたこともあったな」


「こ、こんな普通の青年だったとは……。遠い大陸の噂話ゆえ、恐ろしい魔神の姿を想像していました……」


「まぁ、なんか信者も大勢いてな。勝手に盛り上がっていた。俺の銅像を作っていたのだが、口には大きな牙が生えていて6本腕を持つ魔神の像だったよ。一体何見て作ってんだかな。人間ってのは強い存在を神格化したがるもんだな」


「…………」


グウネルは俺の過去を聞こうとして黙った。自分の探究心で、俺に手間をかけさせることに気を使ったのだ。


ふむ。良くできた奴隷だ。

主人の過去を知りたがるのは忠誠の証か。


「追々話してやるよ」


「あ、ありがとうございます……」


顔を起こしたグウネルは、神樹槍に串刺しにされた女の死体から目を逸らした。


普通の人間は、こういうのに何か特別な感情を抱くのだろうな。


「グウネルよ。今後、こんな風に俺に逆らう人間が現れるだろう。しかし、俺に逆らう人間は、どんな事情であっても殺せ」


「は、はい」


「俺に歯向かう存在などいらん」


さて、まだまだ殺戮は続くのだ。

この国を滅ぼしてやる。


地神操作ガイアマキナ 神樹槍!」


俺はアブラマンダラ城の門を破壊。そこに集まってきた城兵共を皆殺しにした。


「ぎゃあッ!!」

「ぐぇえっ!!」

「助げでぇええ!! グハッ!!」


逃げる城兵にも容赦はない。

奴隷にならん人間は全て殺す。


さぁ、落城の時間だぁ。

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