第75話 スキル禁止の第一試合

対戦試合はスキルの使用が禁止になった。つまり、俺の、闘神の身体になれるスキル闘神化アレスマキナが使えないということである。


1人目の相手は身体の大きさが2回り以上違う。俺は身長178センチ。向こうは3メートル近い。おそらく体重は倍以上あるだろう。戦闘の常識として、体重差は勝敗に大きく関わる。重い方が圧倒的に有利である。重い方は攻撃力が増し、防御力も増すのだ。


圧倒的不利な中、マーリアは声を荒げた。


「こんな戦いは酷すぎます! そもそも、タケル様は3人と戦わないといけないのですよ!」


レドロフ公爵は自信満々で首を振った。


「いやいやいやぁあ〜〜! これはマーリア姫の意見でも、もう通りませんよぉお〜〜。あの城兵が、この条件を認めたのですからぁあ〜〜」


「そ、そんなぁ〜〜。タ、タケル様、本当によろしいのですか?」


「そうだな。向こうがそれを望むんでいるのだ。受けざるえんだろう」


場内は白熱していた。

試合の開始を今か今かと待ち望む。


レドロフ公爵は俺を睨み不敵な笑みを見せた。


「たかだか城兵が、恵まれたユニークスキルの影響で活躍したにすぎん。この試合で負ければどうなるかわかるか? お前は姫を奪われ、命も取られるのだ」


「命を取られるだと? なぜだ?」


「試合はみんなが心待ちにしている。そんなゲームが1試合で終わってしまう虚しさは計り知れないのだ。みな、敗者に殺意を抱くのさ! お前が負けてしまったら、このママジャンの国を生きて出れると思うなよ」


俺は眉を上げた。


やれやれ、負ければマーリアは娶られ、俺は命を狙われる訳か。酷いゲームだな。


俺がママジャン王を睨みつけると、彼はバツが悪いように目を逸らした。


「ママジャン王。賞金は全額いただくからな」


「う、うむ。そなたには勝ってもらわなければ困るのだ! マーリアがかかってしまった!」


試合には実況、兼、審判者がいた。

それは緑色の髪をした美少女だった。


「さぁ、熱気が覚めやらぬ中、審判を任されましたのは、神殿より使われし聖女。わたくし、カウンティアと申します! どうぞよろしく!」


彼女の声に場は更に熱くなり、歓声が飛び交う。

カウンティアはかん高い声を張り上げた。


「レドロフ公爵の代表は最強の腕力の持ち主、ギガントル・マッスゥール!! 対するママジャン王の代表は最強の城兵タケル・ゼウサード!!」


拍手喝采。


「ギガントル選手はキャプテンワーウルフを一撃で葬ることができるほどの腕力の持ち主です! 対するタケル選手はデイイーアの大火災で活躍された実力者! そして今回はレドロフ公爵の発案で、両者ともにスキルの使用が禁止となっております。スキル使用の判断は僅かなオーラ! それが見えた時点で失格、敗者決定! なお、その他の敗北判定は、敗北宣言、舞台から落ちた時の場外、そして相手が死んでしまった場合です!」


やれやれ、死亡するリスクもあるのか。

とんでもないゲームだな。


チリリンと鐘が鳴り、最終オッズが出る。


「ギガントル選手7。対するタケル選手は3。投票券の販売直後はタケル選手が8のど本命でしたが、スキル使用禁止ルールが制定されてから期待値が下がってしまいました! さぁ、これがどう転ぶのか! 期待せずにはいられません!」


ボーーン!

始まりの鐘が鳴る。


「さぁ、第一試合の開始です!!」


歓声が沸き起こる。

待ちに待った試合の開始である。その歓声は城の外まで響いた。

同時にざわめきも起こっていた。

ギガントルが大きなハンマーを構えるのに対して、俺は丸腰だったのだ。

体格差とスキル使用禁止、この要素だけで、観客からは『終わったーー』という声が漏れる。


ギガントルは目を細めた。


「いくらなんでも武器も持たないとは、相手を舐め過ぎではないのか? 少しは手加減するつもりだったが、その態度は無視できんぞ」


「殺し合いをしたい訳ではないからな」


「ふざけるな! 体格差! 武器! 全てにおいて俺が有利! お前に勝ち目は……ないッ!!」


ギガントルはハンマーを振り下ろした。

俺は大きく後ろに下がりそれを避ける。


ハンマーは石舞台を破壊し、破片を散らす。その凄まじさに歓声が沸き起こった。


「おおっとぉ! ギガントル選手のハンマー攻撃が炸裂! タケル選手、華麗に避けたぁ! しかし、ギガントル選手の猛攻は続く! 2打、3打とハンマーを打ちつける!」


「このぉ! ちょこまかと! 逃げるだけでは勝負にならんぞ!」


闘神化アレスマキナ神眼が使えればな。もっと効率的に避けることが可能なのだが、生身となると無駄に距離を取る必要があるのだ。これだけは厄介だな。


しかし、俺が後ろに下がる分、ギガントルは前に出る。これは勝機だ。

タイミングを図り、俺が前に攻撃を合わせればカウンターとなる。


「うらうらぁ! 逃げるのが貴様の戦いかぁーー!!」


俺は距離を取り避け続けた。


さて、その攻撃であるが、体重差をカバーするのは急所攻撃しかない。

もっとも簡単にできるのが股間への攻撃である。目潰しも有効であるが、背の高さから目は届きにくいのだ。

となれば、股間攻撃。しかし、同じ男として、そんなキツい攻撃はできるだけ避けるべきだろう。ならば、その上の水月。みぞおちを攻撃することとなる。


みぞおちは、鍛えることができない人間の急所である。だが、ギガントルの筋肉量ならば、筋肉が壁になって当てるのは難しい。だから、蹴りのつま先を当てる。


「おおっと! ギガントル選手、ハンマーを大きく振りかぶったぁぁあ! こんな攻撃を喰らえばタケル選手、ひとたまりもな──!!」


それは一瞬の攻撃だった。

ギガントルは前に踏み込み、力一杯ハンマーを振り上げた。俺は瞬時に前に出て、右足のつま先をみぞおちに当てる。いや、差し込むといった方がいい。

俺の左足はしっかりと地面に付いて、そのパワーは右つま先へと伝わる。


カウンターのタイミングと、急所攻撃。そして後ろに引っ張られた巨大ハンマーの慣性。

3つの力が1つに昇華される。


俺はギガントルを心配した。



「死ぬなよ」



ド ズ ン ッ !!



鈍い音が闘技場に響く。

刹那、ギガントルの巨体は吹っ飛ばされた。


「グフゥウッ!!」


そのまま、間近の特等席で観ていたレドロフ公爵の元へと向かう。


逃げる間もない。



「うわっ!!」

 


衝突。



「ぐぎゃぁあッ!!」



ギガントルの巨体は公爵に重なり、特等席は破壊された。


観客席からは大歓声。


「タ、タケル選手のカウンター攻撃が決まったぁぁあ!! ギガントル選手の場外です!! 勝者、タケル・ゼウサードォオオオオ!!」



拍手喝采!


やれやれ。


「スキルを使えない分、手加減ができないのだ。俺にスキルが使えたら、公爵の身を助けることができたのだがな。スキル禁止は、今、下敷きになっているレドロフ公爵の提案。こうなったのは自業自得というべきか」


とはいえ、少しやり過ぎたかもしれん。

スキル禁止では手加減ができないからな。

2人とも、死んでなければ良いが……。

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