第73話 ママジャン王の治療
ママジャン王は病の理由を話し始めた。
「そなたになら、話せるかもしれん……」
どうやら事情があるようだな。
「実は……。我が国の財産をとある銀行に預けていてな。大火事の影響で大打撃を食らってしまったのだ」
「大火事? それってもしかして?」
「そう、デイイーアの大火災だ」
「なぜそんな街の銀行に国の財産を預けていたのですか?」
「安全な場所だったからだ」
国の財産管理は複雑だな。
しかし、デイイーアの街は大火災になった訳で、とても安全な場所とは思えんが……。
「あの街は地下水路が発展していてな、火事の被害がほとんどないと考えられていた」
「そうか……。あの火災は魔王四天王、呪術士ジャミガの呪い。つまり自然火災じゃない。だから銀行の財産が燃えてしまったのか」
「そういうことだ……。娘はジャミガ討伐に躍起になり、私はそれを放置した。皮肉なことだよ。ジャミガを放っておいた罰が当たったのかもしれん」
「しかし、破産して国が潰れる訳ではないのでしょう?」
「それは……そうだが……。大金を失い、国を広げる夢が途絶えてしまった。わかるか? この絶望感」
理解できん。
やれやれだ。権力者の強欲。
全く理解できない考え方だ。
本来ならば距離を置きたい人物なのだが、マーリアの父親だからな。
このまま病にふせってはマーリアも病んでしまう。
「では、あなたの病は、その財産を失ったことでの失望が原因でしょうか?」
「そうだ。何より重い病なのだ」
うむ……。
何か特別な病気や症状がある訳ではないのか……。ならば財産が戻れば元気になる訳だな。
「損失額は?」
「6千億エーンだ」
ふーーむ。
城兵の月給が12万エーンだからな。
途方もない金額だ。
冒険者ギルドのSランククエストをこなしても、そこまでの額は集まらないだろう。
しかし、乗りかかった船だ。
マーリアの為にも人肌脱いでみよう。
算段は無いが、手探りでも解決の糸口が見えるかもしれん。
「では、俺が何かできることをやってみましょう」
「おお! 協力してくれるか!」
王の中では算段がついていたようだ。
どうやら俺の強さに目をつけたらしい。
俺は王の接待を受けて、その日は城に泊まることとなった。
翌日。
俺は城の闘技場に呼ばれていた。
そこには3人の公爵がいた。
公爵達の前には名高い冒険者が並ぶ。
不穏な空気。
やれやれ、嫌な予感がするな。
金持ちの道楽に巻き込まれるなんて反吐が出そうだ。
ママジャン王は元気を取り戻したようで、これから始まることに興奮していた。
「タケル殿! 実は、この3人の公爵が用意した冒険者と武術大会をすることになってな! 勝った者が賞金を受けとれるのだ!」
予感的中。
やっぱりだ。くだらん戦いを見せ物にしようという成り金どものお遊びか。
「タケル様。お父様がこんなこと、申し訳ありません! お嫌ならば言ってください! すぐにでも辞めさせます!」
本来ならば断るところだがな。
そうはいかん。
協力すると国王に宣言してしまったからな。
「お前の父親を元気にさせるのが俺の目的だ。なんとかやってみるよ」
「ああ、タケル様……」
3人の公爵は俺に抱きつくマーリアに目を細めた。
赤い服を着たレドロフ公爵がたずねる。
「国王、あの男は何者ですかな? マーリア様と随分と近しいようですが……」
王は困りながらも俺の素性を話した。
「何!? 城兵!? 城兵がマーリア様となぜあんな関係に??」
レドロフ公爵の絶叫と共に、青い服の公爵ブルルノ、黄色の服のイエローン公爵がそれぞれ目を剥いた。
3人ともに、城兵である俺の存在が許せない様子である。
ママジャン国王は俺の両手を力強く握る。
その手は汗ばんでいた。
「タケル殿! この戦いには参加費に250億エーンがかかっている! 優勝した者はその参加費用を総取りできるのだ! 4人の合計、1千億エーン!! も、もしもそなたがこれに勝ってくれれば6千億エーンの損失が少しはマシになるぞ! ヒヒヒ!」
俺は目を細めた。
「条件がある」
「は?? なんだ、申してみよ」
「その賞金。全額、俺が貰いたい」
「な、なんだと!? そ、そなたは無欲ではないのか!? お茶が趣味とかなんとか言っときながら……。ま、まぁいい。娘の恩人には何かしなければならんのだ。良かろう。優勝すれば全額、そなたのものにすれば良い! じゃ、じゃあ勝つ自信があるんだな? ヒ、ヒヒヒ!」
やれやれ、ギャンブルに魅了された狂人のような目だ。
おそらく、この戦いは賞金だけが狙いではないのだろう。公爵と国王の賭け事。
互いの利権が絡むギャンブル。
勝つことにも十分な旨味があると思われる。
国王の目を見ていれば、わかる。
「ヒ……ヒヒヒ……勝てる、勝てるぞ」
ギャンブルは脳内に快楽物質が出るという話を、どこかの学者から聞いたことがある。
今、まさにその状態なのだろう。
こんな親でも良い所がたくさんあるのだろうな。なにせ真面目なマーリアの父親なのだから。
しかし、こんな状況で俺が負けてしまっては余計に病が重くなりそうだ。
これは絶対に負けられない戦いだな。
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