第69話 俺氏の闘い4 【ざまぁ中編】

タケルは大きな声で独り言を言う。


「やっと人形の価値が認められたようで、今日は忙しい」


男爵は鼻の上にぎゅっとシワを寄せた。


「フン……。どうやら、女を使って販売には成功したようだな……。まぁ、よく見れば、この人形……。まぁまぁな出来か……」


本当に腹の立つ男だ。

昨日はゴミクズ人形とまで言っていたのに。


「よし! こうしよう! ここにある全ての人形を私に献上しろ。それで全て許してやろうではないか」


タケルは目を細め、俺氏に委ねた。

俺氏はキッと睨みつける。



「お断りします」



男爵は目を剥く。



「な……なんだとぉ?」



「お断りします。と申し上げました」



「き、貴様! 調子に乗るなよ!」



「調子に乗るなんてそんな。昨日、男爵は俺氏の作った人形をゴミクズ人形と言われておりましたから、そんなゴミクズ人形を差し上げる訳にはいかないと言ったまでです」


後ろの方から人形を買った客から独り言が漏れる。


「いやぁ、この人形の躍動感は素晴らしいな! その内プレミアがつきそうだ! 本当に良くできている!」


男爵はそれを聞いてプルプルと震えた。


苦笑いを見せる。


「ハ……ハハハ。昨日は少し冗談が過ぎたようだ。では、ここにある人形を全て買い取るということでどうだろうか?」


これにはタケルが黙っていなかった。


「それでは、男爵はここにいる人形職人オータクの腕を認めるということですね?」


「ま、まぁな! 少しは認めてやる」


「少しは……? オータクの腕を舐めるなよ」


「な、何ぃ!?」


「ここにある美少女人形は全てにおいてリアルが追求されている。スカートの中を見てみろ」


男爵は人形のスカートを除いた。


「ハッ……! こ、これは!? この再現度は!?」


「美少女の下着をリアルに再現してしまう。それは一見すると低俗なことなのかもしれない。しかし、それは男が見たい部分であり、カジュアルに楽しめる人形という新しい文化がそこにあるのだ! そこまで再現している人形を見たことがあるか!? それがオータクのこだわり! どこにもない唯一無二の人形だ!」


男爵はプルプルと震えた。


「おいオータク。男爵に人形は売らない方がいいぞ。他にも客はいるんだからな!」


「そうだな。そうしよう」


男爵は汗を飛散させた。


「待て待て! わかった! 認める! 認めてやる! これは新しい芸術だ! 実に斬新! どこにも見たことがない。貴様が言うようにカジュアルに楽しめる人形だ。だから私に売ってくれ!」


タケルは眉を寄せた。


「昨日、男爵はゴミクズ人形と言いましたよね? これは人形に失礼だと思うのです。だから、やっぱり──」


タケルは冷ややかな笑みを見せた。



「人形に土下座してもらわないと……」



な、何ぃい!?

貴族にそこまで言うか!

しかし、プ……プププ!

笑いが止まらん!

タケル、お前は最高なりよ!


俺氏は込み上げる笑いを堪えた。


「そ、そうだな。ププ……。タケルの言うとおり、人形に土下座してもらわないと売れないな! プププ」



男爵は奥歯をギリギリと噛む。


「調子に乗るなよ若造がぁああ〜〜」


し、しまった!

少し調子に乗りすぎたか!?

男爵は屈強な冒険者を5人も連れてきていたんだった!


案の定、男爵の怒号が響く。


「お前達、こいつらを痛めつけろ! なんなら殺したっていい! そして、こんな人形は跡形もなく壊してしまえ!!」


冒険者達は拳の骨をポキポキと鳴らした。


しまったぁああ!

冒険者はタケルと比べて身体が倍以上デカい!

タケルはただの城兵だし、俺氏は人形職人。美少女達に戦闘力を期待してはダメだから、実質、俺氏とタケルしか戦えない!

しかも、俺氏は戦闘経験がゼロなのだ!

戦闘といえば、母親と口喧嘩くらいしか経験がない!


リリーたんの悲鳴が響く。


「きゃあっ! ちょっと何するんですかっ!」


冒険者は売り場の机をバキッと叩いてへし折った。


「へへへ。悪いな嬢ちゃん! 全部ぶっ壊すぜ!」


クソ! こうなったら方法は一つしかないぞ!


「タケル! 逃げよう! 人形はまた作ればいいんだ!」


タケルは不敵に笑う。



「丁度いい。正当防衛だ」



正当防衛?


俺が小首を傾げるより早く、タケルの姿は残像を残して消えていた。



バン! ドン! ダダダン!



何が起こったかはわからない。

ただ打撃音が響く。

気がつけば、屈強な冒険者達5人は10メートル先までふっ飛ばされていた。



「「「「「 グェッ! 」」」」」



遠くの方でカエルを踏みつけたようなうめき声が聞こえる。冒険者達はそのまま気を失った。


一体何が起こったのだろうか?


「タ、タケルがやったのか!?」


タケルは凄まじい速さで男爵の前に現れた。

男爵はいなくなった冒険者をキョロキョロと見渡して探す。


「な!? ど、どこに行った??」


タケルは冷ややかな笑みを浮かべながら10メートル先で伸びている冒険者達を指差した。


それを見た男爵は真っ青。


「き、貴様がやったのか!? じょ、城兵のくせに、な、中々やるじゃないか! だ、だがな! 男爵の私にこんなことをしてただで済むと思うなよ! 私は王族に顔が効くのだ! 例え離れた国であっても! 一介の城兵くらい、なんとでもなるのだぞ!!」


しまった。

流石のタケルでもこれはどうにもならない。調子に乗りすぎた俺氏の責任でもある。

ここは俺氏が謝って、なんとか許してもらうしかないか……。


俺氏の考えをよそに、売り子をしていたマーリアちゃんが立ち上がった。


「一連の流れ、全て見させていただきました!」

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