第60話 お嫁さんギルド発足!


〜〜僧侶リリー視点〜〜


私の名前はリリー・フランクス。

13歳。スタット城に使える僧侶をしている。


タケルさんのことが大好き!

もう好き過ぎて困ってしまう。


この前なんか酷い。

タケルさんの横顔を見ていたら、バチンと木にぶつかってしまった。

タケルさんには笑われたけど、あんまりにも私が痛がっていたので「大丈夫か?」と声をかけてもらった。

お鼻が痛かったけど、タケルさんに気をかけてもらっちゃったから、えへへ、プラマイゼロかな。





ーードントコイラの街ーー




私達は、ペペンの村を出て、葡萄畑に囲まれたこの街に来ていた。

山の斜面に住居があり、大きな川が流れている。

ここは、葡萄酒や、紫色の染料を使った洋服が人気。


マーリアさんとシシルルアさんは洋服を買いに出かけた。

レイーラさんとバルバ伍長、タケルさん、ゴリゴスさんの4人は葡萄酒を呑みに。

残った私はどちらに付いて行くか迷ったあげく、1人だけでブラブラしようと決めた。




ーーワイバーン教会ーー


ここは翼竜教の教会。

十字架に翼竜を模した飾りが付いているのが特徴。

この辺一帯のポピュラーな宗教だった。


特に私は熱心な信者ではないけれど、神様に祈ることはたくさんある。


だから、ちょっとだけ。

覗いて見ることにした。


教会内は誰もいない状態。扉を開けるとフワリと檜木の匂いが鼻に広がる。

そこにお香の匂いが混ざってなんとも神々しい。

ああ、私は今、教会に来たんだなぁ、としみじみ思う。


室内は広く。2列に分かれて長い椅子が置かれていた。

中央には大きな十字架。

その横に小さな箱状の個室があった。

人が1人、入れるくらいの大きさ。


「ああ、あれが噂の懺悔室」


神様にタケルさんとの仲を繋いでもらおうと思っていたけれど、私にはある。


懺悔したい気持ちが。


懺悔室の扉を開けると、横の壁に小さな窓があって、人がいるのがわかった。


神父様かな?


その窓は小さく、神父様の手しか見えない。

手のしわを見ると随分と歳をとっているのがわかる。

難しい本を読んで、勉強をしていた。

私が入ると、神父様は本を閉じた。


「翼竜の神に懺悔をしに来たのですか?」


私の姿が子供だから、聞いたのだと思う。

いたずらか興味本位だと思われたのだろう。


「ダメですか?」


「いえ、そんな事はありません。人の為に尽くすのが私の役目ですからね」


良かった。

なんだか優しそうな神父様だ。


「わ、私……」


ああ、でもやっぱり緊張してしまう。

これから話すことはタケルさんのことなのだから。


神父様は優しい言葉をかけてくれた。


「言いにくいですか? 強要はしませんからね。また言える時に来ても良いのですよ」


なんだか気持ちが安らぐ。


「いえ、言わせてください。私、好きな人がいるのです」


「…………」


「あの……。続けても良いですか?」


「ここは懺悔の場所ですからね。私は相槌を打ちません。どうぞ全てをお話しください」


「その……。好きな人にはたくさんの女の人がいるんです。私もその1人なのです。その人は、まるで一国の城主のような人で、頼り甲斐があって、とても素敵な人なのです。だから、その人は何も求めていないのに、どんどん女の人が集まってしまうんです」


「…………」


「別に嫌なのではないのです。その人は本当に凄い人なので、周りが放っておかないんです。私はそんな人のそばにいるだけで幸せです」


「……なぜ懺悔をするのです?」


「本当にいいのかな? って少し思うんです。普通は男と女が1人ずつ愛し合うものだと思うのです。なのに、男1人に女が大勢なんて……。やっぱり少しおかしいと思うんです」


「そうですね。我が教会でも、そういった一夫多妻制は禁止しています」


「はぁ……」


「あなたの気持ちは決まっいるのでしょ? だったらその考えに従うしかありませんよ。私が止めても後悔しかありませんからね」


「あの……。じゃあ神様は私を許してくれるのですか?」


「あなたが幸せになれば、きっと許してくれるでしょう」


「私はこのまま進んでも良いのでしょうか?」


「あなたは私どもの教会の教えに従うのですか? なら答えを出しますが? 答えを聞くのは簡単です。でも実行するのはとても難しい」


「あ……」


「答え……。聞きますか?」


そうだ。

教会の教えなら、きっとダメと言われるに決まっている。

タケルさんを忘れて、他の男を探せと言われるだろう。

相思相愛。男1人に女1人。そうしないさい、と言われるに決まっている。


でも、そんな事は受け入れられない。

だって私はタケルさんが大好きだから!

ダメだと言われても、何も変わらないんだ。

私は、神様に許しを得ようとしていた。

そんな失礼なことはしちゃいけないんだ!



「神父様、ありがとうございます。私、自分の人生を自分の責任で生きてみます! 精一杯頑張ってみます!」



神父様の顔は隠れて見えなかったけれど。


「そうですか。進む道が見えるとスッキリしますね」


きっと微笑んでくれていたように思う。


私は教会を出た。

その顔は空を見上げて、とても晴れやかだった。




◇◇◇◇



ーードントコイラの街 宿屋ーー


夜。


私は、女の子だけを一室に集めた。


宣言する。





「お嫁さんギルドを発足します!」





みんなは目を丸くした。



「「「「 ええーーーー!? 」」」」

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