第38話 強敵ジャミガ

ーーデイイーアの公園、地下水道ーー


私達は呪術士ジャミガの居場所を見つけた。

本来ならばタケルに知らせるところなのだけれど、勇者グレンは迂闊にも攻撃して返り討ちに遭ってしまう。

グレンは5メートル以上吹っ飛んでいた。

それは、ただ、酒の瓶を腹部に食らっただけの攻撃。しかもジャミガは座った状態、片手で瓶を投げていた。


「グフッ! ガフッ!」


グレンは口から血を吐いていた。

僧侶のリリーが急いで回復魔法をかける。


「回復魔法 ライフ!」


損傷箇所が心臓じゃないのは救いだ……。

口からの出血は腹部の殺傷によるもの。

酷く見えるだけで、回復魔法ならなんとかなるレベル。

もしも、あの瓶の一撃を心臓に食らっていたら、グレンは即死していたかもしれない。

やはり、ジャミガは只者ではないわね……。

指名手配書ではBランクの犯罪者となっていたけれど、とてもそんなレベルじゃないわ。

タケルのいない私達のパーティーでは、敵わないかもしれない……。


私は後方で回復するリリーを見やる。

彼女は小さな両手をグレンの腹部に被せていた。

手の平からは淡い光を放つ。


「リリー! グレン様は動かせる!?」


「まだ無理です! 腹部の出血を止めなければ危険です!」


ああ、なんてこと!

ゴリゴス殿にグレンを負ぶってもらって逃げる案。とてもできそうにないわね。


「回復は何分かかるの?」


「5分はかかります!」


5分間は逃げることができないのか……。


嫌な汗が止めどなく流れ出る。

目の前のジャミガはゆっくりと立ち上がりいやらしい笑みを浮かべた。


「お前ら……タケルの部下か?」


5分は会話を長引かせたいわ……。


そんな私の思惑をぶち壊すように、後ろからグレンの声。


「バ、バッキャロー……。あ、あんな奴の部下じゃねぇ! 俺の方が強ええんだ!」


グレンは倒れながらも中指を立てて睨みつけた。


ああ、敵を焚き付けてどうする!

今は危機的状態なのよ!


ジャミガは笑う。


「ふーーん。まぁ、関係はあるんだな。ククク……。そういえば可愛いお姫様がいるもんなぁ」


マーリアの顔が引き攣る。

私は彼女を庇うように前に出た。


とにかく今は時間を作らなきゃ!


「ジャ、ジャミガ! いえジャミガさん! あなたの目的を教えてください!」


「目的? ククク……。苦しむ人間を見て楽しむことだ」


そう言ってジャミガは両手を広げる。

地上から黒い液体が隆起した。


ああ、話す暇も無さそう! 明らかに攻撃態勢じゃない! 

どんな方法かは想像もつかないけれど、グレンのダメージを見れば、危険ということだけはわかるわ!


「シシルルアどん! おいどんが行くでごんす!」


巨漢の戦士ゴリゴスは、背中に背負っていた巨大ハンマーを両手で持ち構えた。


攻撃は最大の防御ね!


「今はあなたに頼るしかないわ! 腕力強化補助魔法 トロング!」


ゴリゴスの身体が補助魔法の効果を受けて黄色のオーラに包まれる。


これでゴリゴス殿の力は2倍。一振りで通常の人間なら肉塊と化す。



「ウォオオオオオ! 行くでごんすぅうう!」



ゴンンンンッ!!



大槌の衝突音!

その轟音は地下道にブルブルと響いた。


ジャミガはその攻撃をモロに食らっていた。

しかし、私達は目を見張る。


「ああ! そんなぁ!!」


ジャミガは軽々と片手でそれを受け止めて、涼しい顔をしていたのだ。


「弱い攻撃だなぁ」


そんな訳はない。

ゴリゴス殿の筋力は通常男性の3倍はある。

それをトロングの補助魔法で2倍にしたのだ。

つまり、通常男性の6倍の筋力。そして、100キロを超える大槌の攻撃。

本来ならば、身体の小さいジャミガの片腕で支えきれる攻撃ではないのだ。


そ、それを軽々と……。


ジャミガは大槌を受け止めている片手を蠅でも払うように横に振った。



ゴオンッ!!



大槌はゴリゴスの手を離れ、地下水道の壁に衝突した。

驚きを隠せないゴリゴス。

しかし、体格差は歴然。パワーなら圧倒的に有利。

そう思ったゴリゴスは大きな拳をジャミガに放った。


「これならどうでごんすぅッ!!」


しかし、その一撃も虚しく届かない。

ジャミガは、またしても、蠅を払うように軽々と、片手を薙ぎ払った。



べシンッ!!



ゴリゴスの身体のどこに当たったのかはわからない。

しかし、彼の巨体は大槌の横の壁に吹っ飛ばされた。



ボコァ!!



地下水道の煉瓦を破壊してめり込む。

一瞬の出来事だった。


ただ、私の心配する声が地下水道に響く。


「ゴリゴス殿ぉおお!!」


マーリアは青ざめた。


「あ、あんなに強かったの!? も、もっと弱いと思ってた……」


「タケルが戦っていた時のことを思い出しているのね。それは彼が強すぎたからよ。ジャミガが弱いように見えただけ」


魔法使いレイーラは両手を天に掲げて魔法を打つ体勢に入った。


「筋肉兄さんの仇を討ってやるわ! 最大威力のフレアよぉおおお!」


レイーラの周りに炎が渦のようにまとわりつく。

ジャミガは瞬時にレイーラの後ろに移動。彼女の背中をポンと叩いた。



「お前はメス猫だな」



ボムッ!!


レイーラは煙りに包まれた。


何!? 何が起こったの!?


煙りが消えると、そこには1匹のシャム猫が現れた。

全身紫色の毛に覆われ、目にはたっぷりのアイシャドウ。

シャム猫は混乱して鳴いた。


「ニャニャニャニャーーーーン!?」


これって、呪いの力??


私は混乱する。


「レイーラさんが猫に変えられちゃった!!」


ジャミガはニタニタと笑った。



「すぐに殺しちまうほど、つまんねぇもんはないからなぁ〜〜」



まだ1分も経っていない!


どうしよう!?

助けてタケルッ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る