第23話 マーリアの呪い

ーー温泉宿ザパン食堂ーー


俺はみんなにことの経緯を話した。

マーリアが呪われていることを知ったみんなは、事の重大さに考え込んだ。

僧侶リリーは気付く。


「あ、でもタケルさんがマーリア姫を抱きしめたのはなぜですか? 何か湯気が上っていたような気がするのですが?」


うむ。スキルの事はみんなに隠していたが、話さなければ納得もしまい。


「実はな。俺はスキル持ちなんだ」


「「「え!?」」」


驚きを見せたのは3人だけ。賢者のシシルルアは知っているようだった。

いや、俺に関心がないだけかもしれないな。


「知らなかったでごんす。身体を温めるだけのスキルでごんすか?」


「まぁ、そんなもんだ」


他にもあるが、説明が難しいな。

闘神の体に変化できるスキルなんて、前代未聞のスキルだからな。

簡単に説明するとこんな感じだろうか……。

体内の神血線を神界域とリンクさせて、数秒でバースト。

変化した闘神体を体内の天命限界で繋ぎ止める。

闘神体は空間の摩擦を受け難いから、現世界の事象を遥かに上回る力が引き出せる。

これが闘神化アレスマキナ

ざっくり話すとこういう事なのだが……。

伝えてもしっくりこんだろうなぁ。


リリーはしょんぼりとする。


「マーリア姫が呪われていて呪術士ジャミガと戦っているならば、とてもタケルさんには私達の旅を手伝ってもらえる余裕はありませんね」


……まぁ、実はこの周辺のボスクラスの敵は俺が一掃しているのだがな。

みんなにもプライドがあるだろうし、黙っておこう。


俺がそんなことを考えていると、マーリアとシシルルアが、互いにチラチラと目を合わしていた。


まるでライバルのような殺気を感じるな。

美少女コンテストでもないだろうに、何を競い合うことがあるのか?

女という生き物は、時に理解に苦しむな。男の俺にはわからん感覚だ。


シシルルアは目を細めた。


「マーリア姫。あなたの呪いは進行性がありますよ」


その言葉に一同汗を流す。

マーリアは震えた。


シシルルアは意地悪をするような人柄ではない。

マーリアを怖がらせる為に言っているのではないだろう。

きっと何かアドバイスがあるはずだ。


「シシルルア。もっと詳しく聞かせてくれ」


「ハイ。マーリア姫は先程、氷の呪いを発症されました。その時、私には呪いの力が、身体に根を張っているように見えたのです。これはおそらく、進行性の呪い。時間と共に呪いは育ち、定着すると思われます」


「定着とは?」


「一生呪いが解けないというです」


酷な現状だな。マーリアには聞かせない方が良かったかもしれん。

しかし、彼女はシシルルアの言葉を理解しているようだった。

真剣な面持ちで聞く。


シシルルアはゆっくりと続けた。


「大変言いにくいのですが、完全に根付いた呪いは溶けない氷になってしまうかもしれません」


「溶けない氷?」


「タケル殿のスキルでは溶かせないほどの強力な呪いになるということです」


「……呪いの力が根付いてしまうと、つまり……。マーリアは氷の塊になってしまうということか?」


「……はい」


自体は深刻だな。


「どうすれば進行を防げるんだ?」


「呪いの力を使わないこと」


「なるほど……」


気軽に、呪いが発症すれば溶かしているだけではダメなのか。

そうは言っても、氷の呪いは気持ちのたかぶりと共に現れるんだ。

こればかりは防ぎようがないな。

と、なるなら……。


「やはり呪術士を早く倒すことが先決か」


俺は落ち込むマーリアの肩を叩いた。


「マーリア、安心しろ。必ず俺が呪いを解いてやる」


彼女は精気を取り戻したように笑う。


「はい! 信じています!!」


リリー達もなんとか励まそうとした。


「わ、私達でできることがあればなんでも言ってください!」


「そうでごんす! おいどん達は勇者パーティーでごんす! 困っている人がいれば見逃せないでごんすよ」


「み、みなさん、ありがとうございます!!」


元気を取り戻したマーリアは満面の笑み。


「みなさん。夕食をご一緒しませんか? 知り合った記念に私にご馳走をさせてください!」


一同大喜び。


マーリアは気丈に振る舞っているが、内心は不安があるだろう。

なんとか早く解決してやらねばならんな……。

とはいえ、まずは腹ごしらえか。

彼女も疲れているだろうし、栄養をとって温泉にでも入れば少しは気分がマシになるはずだ。


「よし、では。マーリアの好意に甘えさせてもらおうか」


「おいどんは、沢蟹のパエリアが食いたいでごんす!」


「うむ。それは大盛りだな」


「私は鱒の塩焼きに手長海老のパスタ。あと温泉卵のプリン!」


「もうデザートか?」


「リリーさん。私も温泉卵のプリン……気になりますね」


「あたしはお酒が飲みたいわよ! ここはプラムのブランデーが有名っていうじゃないか」


「おお! レイーラどん、今夜はおいどんも付き合うでごんすよ! 水鳥のステーキをあてにして、たらふく飲みたいでごんすな!!」


マーリアは元気な声を張り上げた。


「店員さーーん! じゃんじゃん持ってきてくださーーい!!」 


豪華な食事に楽しい時間となった。


◇◇◇◇


食事を終えてみんなの腹が満腹になった頃。

食堂の廊下をバタバタと走る音が響く。

びしょ濡れの勇者グレンが食堂に顔を出した。


「おおいッ! なんで俺は凍っていたんだ!!」


やれやれ、面倒な奴が来たぞ。


「グレン、丁度みんなで夕食を食べ終えた所だ。マーリアがご馳走してくれたんだ。お前の分もあるからな。ゆっくり食べろ」


グレンは俺を睨みつけ、自分が凍った原因を探る。


「氷の魔法が使えるのは、賢者のシシルルアと魔法使いのレイーラだけだよなぁ〜〜!」


俺はグレンの肩を叩く。


「いや、事情は深い。話はみんなに聞いてくれ。俺達は席を外すから」


グレンは俺の手を払いのけ、メンバーに詰め寄った。


「どういうことだ、てめぇら!?」


「まぁまぁ、落ち着くでごんすよ」


戦士ゴルゴスがなだめる。

そんな中、リリーは俺の方へとやってきた。


「タ、タケルさん。今夜は、その……。マーリア姫と同じ部屋で寝るのですか?」


「ああ、そのつもりだ。呪いがいつ発症するかわからないからな。宿が凍ってしまったら大変だろ?」


「それは……そうですね。で、でも男と女が同じ部屋なんて……。わ、私、心配です!」


「ははは。確かに。マーリアは美しいからな。俺が変な気を起こすかもしれん」


「ダ、ダメですよ。そんなの!」


「ああ、信用してくれ。俺はそんな男ではない」


「ですよね。そうなんですよ……。タケルさんは大丈夫なんですよね……」


そう言ってチラチラとマーリアを見る。

意を決したリリーはマーリアに耳打ちをした。

ボゾボソと話し声が聞こえる。


「タケルさんを誘惑しないでくださいね!」


マーリアは真っ赤な顔になった。

俺はボゾボソと聞こえただけで、上手く聞き取れなかったので小首を傾げる。

マーリアは汗を流し、咳払いを一つ。


「コホン……。タケル様。行きましょうか」


「あーー! 返事がない! マーリア姫! ダメですからね! わかってますか!?」


やれやれ、リリーは寂しがり屋だからな。


俺は彼女の頭を優しく撫でた。


「まだ、同じ宿にいるんだ。空いてる時間で地図の読み方を教えてやるよ。モンスターの巣を回避できたら敵との遭遇率が減るからな。旅が楽になるぞ」


「ありがとう! タケルさん!」


別れ側。リリーはマーリアの背中に言葉を投げかけた。


「ダメですからねーー!」


一体なんの話だ?


「なぁマーリア。何がダメなんだ?」


「あはは……。女同士の話なので、タケル様はお気になさらずに」


ふーーむ。

男の俺にはわからん世界があるな。

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