第14話 バルバ伍長の想い

ーーデイイーアの街、中央広場ーー


マーリアが顔を真っ赤にしている眼前、バルバ伍長は、俺の腕をクイクイと自分の肘で突いてきた。


とりあえず面倒だ……無視しよう。


そんな俺達の姿に大きな咳払いが聞こえてきた。


「コホン! えーー。久しぶりだな。タケル・ゼウサード」


立っていたのは金髪の男。

背はスラリと高く、高い鼻、鋭い目をしている。


俺の上司。ウットイ兵士長だ。


彼は何かと俺に突っかかってくるので面倒な存在である。


俺とバルバ伍長の距離感に睨みを効かす。


「バルバ伍長! 下級城兵を特別扱いしますと他の兵士に示しがつきませんよ!」


彼はどうやらバルバ伍長に気があるようだ。

色恋沙汰はよくわからんが、とにかく面倒だな。


俺は一歩だけ、バルバ伍長から遠ざかる。

するとバルバ伍長は笑顔になって俺の腕に手を回した。


「ウットイ兵士長。私はタケルを特別扱いなどしておらんぞ」


この人は、周囲の男を揶揄っているきらいがあるな。自分が美人でモテることを自覚しているから、利用して楽しんでいるんだ。

とはいえ、モテることを自慢したりしないから、嫌いにはなれないのだけれど。


ウットイ兵士長とマーリアは目を見張る。

2人は大声を張り上げた。


「バルバ伍長!!」 「タケル様ぁ!!」


やれやれ。面倒だな。

それにしても、バルバ伍長がなぜこんな遠くの国の領地に来ているのだろうか?


「バルバ伍長。遠征の理由を教えてもらえますか?」


見ると、伍長の編成された隊員数は30人ほどだった。

街で休んでいることから、他国との戦争が目的ではないと思われる。

バルバ伍長はマーリアの鬼気迫る視線を感じとり、俺から離れて遠征理由を語り始めた。



◇◇◇◇



バルバ伍長の話では、スタット王国の宝物庫にワーウルフが侵入し、王国の宝を盗んだ。

そのワーウルフを追ってここまで来たという。


ワーウルフとは身体は人間、顔は狼というモンスターで、知力が高く、統率力が高くて群れると厄介な敵である。


今はジャミガの件があるからな。

とても構ってはいられない。

だが……心配だな。


「そのワーウルフは何体くらいの群れなのですか?」


バルバ伍長は険しい顔つきになった。


「30体以上はいる。奴ら、足が速くてな。こんな遠くの国にまで追ってきたというわけだ」


30体か……。バルバ伍長の小隊にとっては多いな。

確か、奴らの親玉ワーウルフキングは俺が倒したはずだが、その下のキャプテンワーウルフは放っておいたはずだ。それくらいなら勇者グレンのパーティーでもなんとかなると思ったからだ。しかし、バルバ伍長の小隊は、魔法力ゼロの城兵部隊だからな。ヘタをすると死人が出るかもしれん。


しくじった……。こんなことならある程度殲滅せんめつさせておくべきだったな。


見ると、バルバ伍長の遠征隊は何人か負傷者が出ていた。

身体の部位に包帯を巻き、血が滲む。


「死者は出ているのですか?」


「いや、幸いなことにまだ大丈夫だ。しかし、奴らとの決戦となるとわからんな」


そうか、良かった!

今日会えたのはラッキーだったぞ。


バルバ伍長は感慨深い表情を見せる。


「ここまで奴らを追い詰めるのに半年もかかってしまった。しかし、この辺りに奴らの巣があることがわかったのだ! 王国の宝はそこにある! 命に代えても奪還してみせるぞ!」


「そんなこと言わないでください。命は大切にしてくださいよ」


「なんだ? タケルは私に死んで欲しくないのか?」


そう言って身体を寄せる。


やれやれ。この人は何かと理由をつけては俺に身体を寄せるんだ。美人で周囲からも注目を浴びる人だから、俺にやっかみが来るんだよな。困った上司だよ。まったく。


同時にウットイ兵士長とマーリアが睨む。


ほらな、こうやって俺に矛先が向くんだ。


俺が咳払いをすると伍長はしらじらしくもスッと離れた。


チラリと上空を見る。

そこにはあのカラスがこちらの様子をうかがっていた。


ジャミガの件も心配だが、ワーウルフも捨ておけんな。

俺なら10分あれば殲滅できるだろう。

しかし、ワーウルフの巣がどこにあるのかわからない。

これだと探すのには時間がかかってしまう。

伍長の呼吸を覚えて、後で追いかけるのが最も効率が良さそうだな。


俺が思考していると、ウットイ兵士長は眉を寄せた。


「タケル! お前はその姫君の呪いを解くのに忙しいのだろう。我々はこれから作戦会議があるのだ! もう邪魔せんでくれ!」


「うむ。では失礼しよう」


俺とマーリアが立ち去ろうとするのを、バルバ伍長は止めた。


「待ってくれタケル!」


「なにか?」


「その……。呪術師の件が片付いたら、また……私の隊の入ってくれるんだろう?」


その顔は切実で、その瞳には涙が潤む。


何か理由がありそうだ。


「俺なんかいなくても、バルバ伍長の隊は優秀では?」


「そ、それは……そうかも知れんが。その……。お、お前が勇者と旅をすることになって、なんだか、その……。ははは。寂しくてな」


「隊員は確か100名以上いたのでは? 寂しいのですか?」


「いや、その……。私よりもだな。みんながな。みんながだぞ! 寂しがっているのだ」



なるほど。確かに1年も同僚と会っていない。

以前の仲間と仕事ができれば楽しいな。


俺はそんなことを思い出して笑みを見せた。

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