【本編は完結】異能者が普通にいる世界へ転生したら死亡フラグだらけの件 ~ストーリーが変わったので原作知識は役に立ちません~
第324話 原作の主人公は遂に囚われたヒロインを助ける(後編)【航基side】
第324話 原作の主人公は遂に囚われたヒロインを助ける(後編)【航基side】
運悪く対応してしまった
エントランスホールの風除室で、オートロックの端末に向かっている航基は、一方的に叫び続ける。
「俺を信じてくれ! 重遠にどう脅されていても、必ず力になる!」
『いや、意味が分からないんだけど?』
対応しているマルグリットは、困惑した。
壁にインターホンがある空間から移動することで、仕切り直す。
言葉は通じているけど、話が通じない。
しかも、大声で喚いているから、エントランスホールを通っていく住人がチラチラと見ていく様子が、インターホンの画面に映っていた。
このまま通話を切ってもいいけど、今の場所でギャーギャー騒ぎ出すか、
重遠は、私を愛人にしている。
対応する警官の性格と話の流れによっては、航基の肩を持つ可能性も。
帰宅した重遠たちにも事情聴取をした挙句に、女を侍らせていることや浮気に対して、嫌みを言うかもしれない。
私にも、まだ若いのだから、考え直せ。と説教してくるに違いない。
「傍から見れば、重遠のほうが悪者よね……。『高校にも通わせず、自宅で女を囲うとは、けしからん! 立派な監禁だ!』『愛人なんて、最終的に捨てられるだけ。これだけ心配してくれる男子と付き合ったほうが、健全だ』と思われても、不思議はない」
普通ならば、ストーカーと判断された航基が、厳重注意だ。
しかし、室矢家の特殊な事情を知られれば、警察はこちらを問題視する。
高校生だけの怪しい集団で、ヤクを使っているのではないか? 売春組織の一味ではないか? としつこく嗅ぎ回るか、別件逮捕の恐れも。
「最初は『話を聞きたいから』といった任意で、私たちの家に入りたがる。もし断われば、『
それが正義感、嫉妬、善意のどれにせよ、結論ありきで、こうしろ! と家庭の在り方を押しつけられるか、あるいは、強引に家宅捜索までされたら――
「室矢家として、その警官たちに報復せざるを得ない。今の重遠は、他からナメられないように、体制を築いている最中だし……。『知らなかった』の一言では、済まされないわ」
マルグリット単独では、他流へ連絡できず。
個人的な警察への伝手もなく、通報でやってくる警官たちと揉める可能性は、極めて高い。
よりにもよって、重遠たちが出かけた直後に、押しかけてくるとは……。
「現場研修が豊富な
けれども、彼女は他流の本拠地へ移動している途中だ。
大事な話し合いを控えているため、相談しにくい。
「ここで、私が対応するしかない……。そろそろ、聞き耳を立てている主婦や管理人があいつに話しかけるか、通報する頃合いだ。急がないと」
長く溜息を吐いたマルグリットは、素早くスマホを手に取り、とある連絡先へメッセージを送った。
その後で、インターホンがある空間へ戻って、通話用のマイクに話しかける。
「いいわ。自宅には入れないけど、エントランスホールの近くにあるラウンジで、話すだけなら……」
――10分後
咲良マルグリットは、鍛治川航基を自宅に招いた。
なぜなら、午前中のラウンジには清掃員が入っていて、しかも
とても、冷静に話せる状況ではなかったのだ。
「けっこう、良い物件だな?」
女子の家に入るのが珍しい航基は、浮ついた様子だ。
リビングでソファに座ったまま、お世辞を言う。
「そう……」
物憂げに返したマルグリットは、何も用意せず、航基の向かいに座り、肩まで上げた右手を下ろした。
航基は、いよいよ本題に入ることを決意した。
「お前は、重遠に脅されて――」
そこまで述べた航基は、自分の喉に冷たい刃が当てられていることに気づいた。
ほぼ同時に、相手の左手によって右手の甲を包み込むように握られた上で、それを
いわゆる、小手返しの要領だ。
言葉にならないまま、視線だけ動かすと、自分の右手首を掴んでいる少女が1人。
「動かないように! 霊力を使っても、殺します」
後ろから刃を押し当てている人物も、どうやら少女のようだ。
自分から見える少女には、見覚えがある。
「君は――」
「
動けない航基は、必死に訴える。
「あいつに、騙されているのか? こんなことは止め――」
ドゴッ
航基の右手を離した如月は、その場で回転しながら、握っている小太刀の
航基の後ろにいた少女は、その直前に回避する。
あうんの呼吸といえる、絶妙なコンビネーション。
加減をしたうえに、彼自身が受け流す体勢になったものの、ソファを後ろに倒しつつ、斜め後ろへ吹っ飛んだ。
ドンッと、フローリングが、嫌な音を立てる。
「ちょっと、止めてよ! やるなら、外でやって!!」
「失礼しました、メグ様。あとで、私が詩央里さまに、ご説明いたしますので……」
マルグリットは、自宅の心配だけ。
応じる如月も、同じく。
不意打ちで手酷くやられた航基は、痛む身体を起こしながら、
「やっぱり、マルグリットと一緒に、詩央里も監禁――」
ドスッ
まだ倒れている航基の首筋のすぐ横で、刀の切っ先が通り過ぎた。
そのまま、フローリングに突き刺さる。
マルグリットの絶叫が、リビングに響き渡った。
如月は、怒りを抑えられない声で、呟く。
「黙れ、足軽……。言うに事欠いて、重遠さまが、詩央里さまを監禁しただと? この場で、そっ首――」
「落ち着いて、如月! 穴! フローリングに、穴が開いたから! メグはもう、近代絵画みたいな顔だよ!?」
慌てた
ハッと気づいた如月は、切っ先を下のフローリングから抜いて、ふっと小太刀を消した。
後ろに倒れたソファを戻す。
恨めしそうな目つきのマルグリットに、慌てて土下座。
「大変失礼いたしました。すぐに、修繕を手配しますので……」
平身低頭の如月は、トボトボと出て行った。
残された睦月、マルグリットの2人は、大きな溜息を吐く。
いっぽう、ようやく立ち上がった航基は、懲りずに話を戻そうとする。
「なあ……。どういうことだ? さっきの如月とお前は、いきなり現れたけど……。いきなり刃物を突きつけられたうえに、殴られる筋合いもないだろう!? ……それだけ、追い詰められているのか? お前らが重遠に弱みを握られているか、無理やり従属させられているのなら、俺が力になるぜ?」
航基に顔を向けられた睦月は、無表情で告げる。
「お前に、馴れ馴れしくされる
航基には冷たい声だったが、途中でスマホを取り出してからは、明るい声に。
通話を切った睦月は、航基のほうへ向き直った。
再び、無表情、冷たい声で言う。
「重遠と詩央里が戻ってきたら、関係者を集めての説明会だ。それまで、待ちなよ? 日程が決まったら、改めて教えるから。……別に、この場で斬っても、いいんだけど」
勢いよく詰問しかけた航基は、一瞬で刀の切っ先を突きつけられたことで、黙り込んだ。
「千陣夕花梨さまは、僕らの姫さまだよ。お前でも、千陣流と同じ名字であることに気づいたよね? そうだよ、宗家さまのご息女だ。重遠も、千陣家を廃嫡されたとはいえ、それでも室矢家のご当主さま……。千陣流の末席にいて、その
睦月のバカにしたような言い方に、マルグリットが口を挟む。
「高等部に編入した直後の重遠は、霊力ゼロだったから……。たった数ヶ月で、別人になったようなものよ。詩央里も、無力な若さまの面倒を見たうえに、今度はツヨツヨになって、そこらじゅうにフラグを立てまくる重遠のサポートか。そう考えたら、詩央里には優しくしないとね……」
それを聞いた睦月は、親しげに返す。
「ねー? いや、本当に驚いたよ! ウチの本拠地で、それはもう、格好良かったんだから!
蚊帳の外に置かれた航基は、声をかけるのを諦めて、玄関へと向かう。
無言で、マンションの内廊下へ出た。
小さなBGMが流れていて、目に優しい照明だ。
航基は知らないが、このフロアは千陣流で借り切っているため、部外者はやってこない。
玄関ドアを閉めた航基は、くるりと振り向き、表札を確認する。
部屋の番号と、“咲良” の文字。
すぐにエレベーターへ向かわず、内廊下をうろつき、他の物件もチェックする。
使われているのは、数部屋だ。
その中に、先ほど名乗った少女、“槇島” の表札もある。
“南乃” のインターホンを押そうとしたが、思い留まった。
コツコツと、一通りの部屋の前を歩く。
「南乃、室矢、室矢? ……重遠の式神で、義妹のカレナもいたな。あの娘も、重遠との同居を嫌がっているのか?」
ぼそりと呟いた航基の首筋に、また冷たい刃が当てられた。
いきなり出現した如月は、静かに告げる。
「ここは、お前のいるべき場所ではありません」
固まった航基に対して、如月は刃を外した後で背中を取り、エレベーターホールのほうへ片手で押した。
仕方なく、自分でしばらく歩き、下のボタンを押す。
上がってくるエレベーターを待ちながら、後ろの如月に話しかける。
「なあ――」
「次に勝手をするか、室矢家にご迷惑をおかけしたら、
気まずくなった時に、チンッと音が鳴り、扉が左右に開いた。
素手だが臨戦態勢の如月を気にしつつ、航基はエレベーターの中へ歩く。
1階のボタンを押すと、必然的に、如月の顔が目に入ってくる。
彼女は、航基を見上げつつ、本音を言う。
「また粗相をしていただけると、あなたを早く片付けられて、嬉しいのですが……」
満面の笑みを浮かべた如月の顔は、閉まる左右の扉のおかげで、見えなくなった。
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