第270話 沖縄でVolunteer活動を行う(後編)

 俺が考えている間にも、高級将校は、話を続ける。


「この機会に、東アジア連合の海軍にも、動きが出ている。諸島の防衛として、陸防の水陸機動部隊、ならびにミサイル部隊が対応するので、心配はいらない! 同盟軍のUSFAユーエスエフエー海兵隊、その他の部隊と、連携中だ。また、すでに外務省から東京の大使館に連絡がいっており、現時点では、『海中に出現した大蜘蛛おおぐもへの備え』ということで、了解を得ている! ただし、地上からのミサイル攻撃は、太平洋への発射としても、東連とうれんを大いに刺激してしまう。また、こちらの配備状況を知らせるうえに、敵の侵攻を阻止できなくなるため、できるだけ避けたい!」



 前世とは違って、この世界は異能者という抑止力による、睨み合いだ。

 配備している現代兵器と、軍属の異能者は軒並み、アラート待機中か。


 こちらの戦力を出し尽くしたと、東アジア連合に見透かされたら、“自国や友好国の防衛” という名目で、諸島に進軍され、その撤退による外交の駆け引きを余儀なくされる。

 可能な限り、俺たちのようなイレギュラーで対処したい、と。


 東連の一部の部隊が暴走するか、何らかのミスで攻撃してくる可能性も、考慮しなければならない。


 そういえば、傅 明芳(フゥー・ミンファン)たちは、今どこにいるのだろうか?

 彼女なら、こっそり帰る手段ぐらいは、確保していそうだが……。



 つらつらと考えていたら、咲良さくらマルグリットに、小声で話しかけられた。


「どうするの、重遠しげとお? このままだと、従軍は避けられないわよ?」


 うーん。

 あれ、どう見ても、オウジェリシスの蜘蛛クモだよなあ?

 別の本体が、やってきたのか?

 となれば、また別の次元と繋がっている可能性が高いぞ。


 悩んでいる俺の耳元で、マルグリットがささやく。


「重遠……。さっきの動画、たぶん魔法師マギクスの魔法よ。少なくとも、原理はすごく似ていると思う」


 は?


 いや、ちょっと待て。

 そんな話、どこかで見たような……。


 あ、【花月怪奇譚かげつかいきたん】完全攻略本のコラムだ!


 えーと、澪ルートのグッドエンドで、鍛治川かじかわ航基こうきが目玉焼きに塩をかけなくて処分された。

 じゃなくて、滅ぼされたマギクスの1人が、オウジェリシスの中枢になったことで、無制限に魔法を使う蜘蛛たちに占拠された。


 その後に、世界が滅んだっぽいんだよなあ。

 まさかとは思うけど――



 こいつら、その世界で人類を滅ぼした後に、暇を持て余したか何かで攻めてきた?



 高級将校は、さらに伝達をする。


「横須賀から、大和やまと型一番艦の大和、さらに金剛型三番艦の榛名はるなも出航して、沿岸部で待機中! くれからも攻撃型の潜水艦が出ているものの、作業ポッドが沈められて、強行偵察のあおからも『戦術を理解した行動』との報告があることから、最終防衛ラインに配置する予定だ! 対外的には、こちらも演習として処理する!」


 元の世界とは違って、日本は無条件降伏をしていない。

 そのため、ここには戦艦、巡洋艦も残っている。


 けれど、大戦中の日本は負け戦だった。

 俺が元いた世界と同じで、多くの戦艦、巡洋艦、それに数え切れないほどの駆逐艦が沈んだようだ。


 維持コストの関係もあって、まだ現役の艦船は限られている。



 潜水艦の部隊は、本土防衛で魚雷や対艦ミサイルを撃つわけか。

 洋上の軍艦と連携して、火力で押し切ると……。


「当基地からは、特型駆逐艦いかづち、いなづま、ひびき。ミサイル駆逐艦あかつき、ふみづき、巡洋艦こんごう、ひえい。そのうち特型3隻を向かわせる。残りの艦船は、沖縄の周辺の防衛に回す。……蒼の部隊も、いったん帰投させて、再配置の予定だ」


 この世界では、まだ撃ち合いが大きな意味を持つ。

 そのため、巡洋艦こんごう、ひえいは、主砲がメインの巡洋艦だ。


 小型潜水艇の蒼は、最前線の遅滞戦闘から戻って、こちらでそのまま防衛か。

 さすがに、支援は出すし、パイロットは交代制だと思うが。

 キツそうだなあ。


 ここで、陸上、航空の幕僚らしき人間も発言する。


「駐屯地からは、魔特隊を出します。移動は、海上さんに同乗する形です。沖縄の防衛に関しては、各部隊が戦闘配置になっています。水陸両用の戦車などの機甲部隊を予想される上陸ポイントに展開中です。沿岸に陣地を築いて、なるべく粘ります」


「早期警戒機は、データリンクを兼ねて、高高度と低空で情報収集、電子戦の支援に努めています。当基地と本土からは、戦闘機、攻撃機がいつでも飛べる状態です。マギクスの飛行隊も、ローテーションで最前線に投入しています。なお、当基地のヘリでも、陸上さん、異能者の方々を運べます。いつでも、連絡してください!」


 さらに、長い銀髪で、紫の瞳をした美女が、説明する。


「USFA海軍のアイリス・ウェルナー大佐たいさだ。こちらは、ミサイル駆逐艦のウォーレン、ドワイト、ライアン。試作艦を数隻。ならびに、IGUイグーの部隊を出す。また、新型の実戦投入をする! 海上の戦闘も可能なパワードスーツで、パイロットは非能力者だ。専用の艦船による運搬のため、そちらには迷惑をかけない……。諸島の防衛に関しては、主に陸上防衛軍と連携する予定だ。先ほどの説明の通り、海兵隊などが稼働状態にある」


 ずいぶんと若い大佐だな。

 おそらく、異能者か。


 そう考えていたら、彼女の紫の瞳が、俺を見た。

 しかし、すぐに視線を外される。

 

「これは、沖縄の趨勢すうせいを決める戦いだ! 我々、USFAと日本の同盟が盤石であることを示す、良い機会でもある! 我がUSFAは、決して友軍を見捨てない!! ただし、北方のシベリア共同体、南方の東アジア連合に付け入る隙を与えず、なおかつ、他国への侵略ではないことの姿勢も必須だ!」


 日本とUSFAが動けば、それが他国への侵略の可能性も出てくる。

 現に、シベきょう、東連のどちらも呼応して、臨戦態勢のようだ。

 下手に防備を薄くすれば、そこを突かれる危険も……。


「したがって、グアム、ハワイの艦隊、航空隊は、基本的に動かさない! 現行の戦力で、これを叩く!!」


 太平洋にいるUSFAの主力艦隊は、やってこないのか。

 どうせ、横須賀と呉の艦隊も、本土の防衛を優先するだろう。


 俺がそう思っていたら、アイリスは話を終えた。


 再び、海上防衛軍の高級将校が壇上へ戻る。


「民間の異能者の方々は、まだ残ってください。それ以外の者は、ただちに準備にかかれ!」


 その後の説明で、以下の選択肢を提示された。


 ・USFA海兵隊や陸防の水陸機動部隊と一緒に、戦線の構築

 ・沿岸警備の巡視艇に同乗して、同じく水際防御

 ・駆逐艦に同乗して、最前線で大蜘蛛との交戦


 だが、俺は知っている。

 今回のオウジェリシスの本体は、こことは違う未来になった並行世界にいる。

 その中枢となったマギクスを叩かなければ、いくらでも供給される大蜘蛛に蹂躙されて、この世界も同じ末路を辿るだろう。


 この状況で、あれもこれもと欲張るのは悪手だ。

 目的を1つに絞り込む。


 奴らが湧いているポイントへ急ぎ、その並行世界とやらに入って、そこのオウジェリシスの本体を滅ぼす。



 室矢むろや家の当主が現場にいるのに、この一大決戦に参加しないことは、論外だ。

 いくら千陣せんじん流があやかし専門とはいえ、この状況で見物していたら、後でケジメをつけられる。

 副隊長の実力があるのだから……。


 俺は、当主だ。

 どうしたら、いいのですか? と聞く必要もない。

 責任者として、判断するだけ。



 目の前に置かれた書類を見たら、“艦船の場合は海上防衛軍、ビーチの場合は陸上防衛軍の下士官の待遇とする” とあった。

 志願兵として、この戦闘中だけ軍に所属するわけだ。


 艦船に乗って、大蜘蛛が湧いているポイントの近くまで連れて行ってもらう。

 あとは、自分で泳ぎ、海底にある並行世界への入口を目指すか……。


 別の世界の地球1つが巣になっていると考えたら、今すぐに突入するべきだ。

 時間がつほど、こちらは数の暴力で押されていく。

 おまけに、異世界に敵の本体がいます! と言っても、誰も信じない。


 ……もし海防が断るのなら、ここから自力で移動して、さらに深海まで潜るしかない。


 俺の武装なら、オウジェリシスを倒せる。

 マルグリットも連れて行き、必要なら問答無用でカレナを呼ぶ。



 とりあえず、聞くだけ聞いてみよう。

 単艦で突出するから、たぶん拒絶されるだろうけど……。


 そう思った俺は、志願の受付をしている、陸防と海防の下士官を見た。


 あそこで宣誓書にサインをしなければ、参戦を拒否できる。

 機密情報を知ったから、作戦終了まで身柄を拘束されるけどな。


 とにかく、用があるのは、海上防衛軍のほうだ。

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