第262話 ようやく訪れた平穏な時間とそれぞれの事情
リゾートホテルのスイートルームに、戻ってきた。
でも、俺たちが駐屯地にいたら、足を引っ張ってしまう。
魔法技術特務隊の連中は、いつ攻撃するか? とピリピリしていたからな……。
リビングで
「えっと……。これで良かったの? 私のこと、許してくれる?」
ソファの
ベル女の召喚儀式から自宅へ戻った時を思い出す。
ゆっくりと息を吸い込んだ後で、冷静に説明する。
「最初に言っておく……。まだ、気持ちの整理がついていない。正直、お前のことが分からなくなった。本当に、どうして?」
その距離が、今の俺たちの関係を示している。
「大丈夫だと思っていたの。ちゃんと自分で言って、すぐに帰ってこられるって……。でも、ダメだった」
絞り出すように、彼女が
両手で自分の顔を覆ったまま、ポツポツと話し出す。
「ベル女の交流会の最後で、『私は物心がついたぐらいで、反マギクス派に連れて行かれた』と話したよね?」
「ああ……。確か、『詳しくは軍事機密』って……」
俺の返事に、マルグリットが見つめてきた。
「うん……。ここまできたら話すけど、私は陸上防衛軍の軍曹として、海外の非正規戦に従事していたの。たとえば――」
そこからの話は、まるで映画のようだった。
ワンマンアーミーとして敵を倒し、本隊の支援を行っていたのだ。
「命令に従うことが当然だった。他の
普段は知らない、陸防の内情。
何も言わずに、マルグリットの説明を聞く。
彼女は、俺の顔を見ながら、続ける。
「夕方の業務後も魔特隊のメンバーから色々な説明や会話をされて、どんどん時間が過ぎたわ! 今になって思えば、『
思わず、口を挟む。
「すまない……。俺は――」
「ううん! 私の判断で、言わなかったことよ……。話を戻すと、私はその後にベルス女学校に移された。魔特隊は、うちの進路の1つ。卒業生も交じっていて、あなたの行動は筒抜け……。ヨットの中で
「男は、自分たちや後輩のお嫁さん候補を漁られたことへの嫉妬。そして、女は、婚約者がいながら浮気を止めないことへの
首肯したマルグリットは、付け加える。
「うん。それから、重遠にはベル女を半壊させた疑いがある……。でも、ヨットの中でリーナが言ったように、真実は不明。だからこそ、印象が悪いあなたを犯人にしたがる」
疑問を感じた俺は、思わず質問する。
「ちょっと待て! 千波とリーナは、そういう態度ではなかったぞ?」
向き直ったマルグリットは、真剣な表情で告げる。
「重遠……。別に、全てのマギクスがあなたを嫌っているわけじゃないの! 千波たちは学校が違うこともあるけど。ベル女でも、全ての生徒が憎しみの目を向けていた?」
言われた俺は、3年の風紀委員長、
一部の教職員、生徒は、あなたが召喚儀式の犯人だと思っている。と言っていたな……。
結果だけを見れば、婚約者を待たせながら、マルグリットを連れ帰った男。
グループ交際のテーマパークでは、
ともあれ、返事をする。
「ベル女の皆は、優しかったな? 少なくとも、俺が接した人間は……。自分の新しいホームと友人の将来に関わるため、『もう帰る』と言いにくかったのか?」
こくりと頷いたマルグリットだが、すぐに否定する。
「そうだけど……。でも、私が階級の上下関係と、隊の一員として足並みをそろえる原則に縛られていたことが、一番大きかったわ。もう謝って済むことじゃないけど、本当にごめんなさい」
紛争地帯でよくある、まだ幼い子供を兵士にする問題か。
人格すら不安定な時期に
先に両親を消すのは、まさに典型的な手段。
その状況を利用したのは反マギクス派で、首謀者はもう潰したが、こんな形で悩ましてくるとは……。
仮に、ベル女の校長で魔特隊の総指揮官を務める
私からも話しますが、嫌なら自分で断わってください。と返される程度。
あの連中は、室矢家の敵になったわけだが……。
ふと窓の外に目をやったら、日が暮れていた。
食事をしよう、と言いかけたが、その前に、マルグリットが呟く。
「私には、何もないんだよね……。ベル女に戻っても、あの魔特隊からの連絡で私の居場所はない。他流の味方をした裏切り者と見なされるわ……。重遠にも、最低限の証明をしただけ。東京にいる
「マルグリット……」
カレナの声が響いた。
リビングの片隅にいきなり現れた彼女は、すたすたと近寄ってくる。
ソファに座っているマルグリットの前に立ち、正面から抱き着いた。
「すまなかった……」
その理由が分からないマルグリットは、ひたすらに戸惑う。
カレナはやがて、彼女から離れた。
「今回の件は、私から詩央里に説明しておく。ベル女についても、校長の愛澄に釘を刺しておこう……。お主に過失がないとは言わん。だが、そもそも私が大事なことを伝えておらず、このバカンスでお主らを放置していた責任もあるのじゃ……」
それに、と前置きしたカレナは、マルグリットのほうを見た。
「何もない、などと、
「え?」
思わず呟いたマルグリットは、カレナを見つめる。
「心配するな。少し時間を置くが、あの連中は私が処理する。そもそも、重遠に命令されたことじゃ……」
そう返したカレナは、ぶつぶつと言い出す。
「階級、命令、許可、陸上防衛軍の
よく聞こえないが、
しかし、カレナは元の雰囲気に戻り、笑顔で告げてくる。
「重遠は、まだ時間がかかることで良いのか?」
「あ、ああ……。駐屯地に行かなければ、大丈夫だよな? それから、俺が1人で苦しんでいる時にバカを派遣してくれたのは、外出許可を出した大尉だ。その2人については、必ず仕留めろ。必ずだ!」
マルグリットの肩にポンと手を置いたカレナは、最後に言い残す。
「ゆっくり、バカンスを楽しんでくれ……。戻ってからの詩央里との話し合いには、私も立ち会うのじゃ。室矢家への貢献は問われるだろうが、悪いようにはせん!」
言い返せる雰囲気ではなく、俺たちは黙って、カレナの帰還を見守った。
最後に、彼女から視線を受けたので、マルグリットのほうを向く。
「食事にしよう。今日は、静かな店に行きたい気分だ」
「うん……」
最初はギクシャクしていたが、俺たちは仲直りした。
カレナの思わせぶりな発言も、気になったが。
東京にいる
このまま、メグと喧嘩別れは、絶対に嫌だったから……。
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