第246話 保護者連れのゲストに振り回される(後編)
俺と
部屋番号と名前を告げたら、ラウンジの応接セットを示されたので、そちらに進む。
とたんに、座っていた男たちが、起立した。
年長者の男から、話し出す。
「私は、陸上防衛軍、
亮の直立不動からのお辞儀に、ロビーラウンジの注目が集まるも、すぐに各自の話し合いへ戻る。
軍服ではないものの、すぐに軍人と分かる雰囲気だ。
彼は、自分の隣に立っている
「雑賀
「ハッ!」
「自分は、同じく琉垣駐屯地の雑賀伍長です! 昨日は、あなた方にご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ございません! 二度とこのような事態がなきよう、十分に注意いたしますので、どうかお許しくださいますよう、お願い申し上げます」
彼は、キビキビした動きで、バッとお辞儀をした。
隣のマルグリットを見たが、反対する様子はない。
ごねる気はないので、返事をする。
「……謝罪を受け入れます」
「ありがとうございます!」
お礼を述べた照は、直立不動のままで待機。
それを見た亮が、取り成してくる。
「このような場に押しかけたこと、重ねてお詫びいたします……。着席しても、よろしいでしょうか?」
2人は、注目の的になっている。
彼らを晒し者にする気はないため、着席するように告げた。
ついでに、俺たちも座る。
応接セットで、対面に座った陸防の軍人たち。
適当に返事をしながら、考える。
いきなり駐屯地に呼びつけても、俺たちは行かない。
ホテルに伝言を頼んでも、やはり待ち合わせのカフェに行く義理はない。
だが、魔法技術特務隊の実質的な指揮官である
それを防ぐために、場違いのうえ、周囲から不評を買ってでも、すぐに謝罪する選択をしたわけか。
この状況も、照への罰の一部だな……。
手早く終わらせようと、上官である亮に話しかける。
「こちらは、謝罪をしていただければ、十分ですが?」
「実は……。そちらの咲良さんに、少しお伺いしたく……」
マルグリットに向き直った亮は、単刀直入で質問する。
「咲良さんは、うちに入る気はありませんか?」
魔特隊への勧誘か。
この用件のために、照を引っ張り出してきた、と。
隣に座っているマルグリットを見たら、彼女は即答する。
「お断りします」
亮は、まだ粘る。
「ベル女の学年主席を圧倒するだけの力は、国防に大きな貢献となります! 逆に言えば、諸外国に流れたら、かなりの脅威です……。私たちは、あなたの力を発揮できる場と、自分の命を預けられる仲間を提供できます。日本のため、咲良さんにしか成せないことがあるのです! 我々、
「Get lost.(
吐き捨てたマルグリットは、それっきり沈黙を保つ。
いきなり英語で
仕方なく、俺が話を続ける。
「すみませんが、次の予定がありまして……。雑賀さんの謝罪はお受けしましたので、昨日の出来事は水に流します」
それを皮切りに、亮がお礼と別れの言葉を残す。
ついでに、照も。
2人だけの応接セットで、しばし休憩。
マルグリットが、愚痴を言う。
「あー、腹立つ! 今頃になって、これだもの!!」
亮は懲りずに、いつでも、私の名前で琉垣駐屯地を訪ねてください。と言い残した。
昨日の今日だから、どっちみち色よい返事はもらえない。と踏んでいたようだ。
マルグリットの機嫌を直すべく、声をかける。
「今日は、クルージングに行くか? ちょっと外を回るぐらいでも、気分転換になるだろう」
それを聞いて、彼女はピョコンと顔を上げた。
「いいわね! ……でも、今から乗れる遊覧船はあるかしら?」
立ち上がった俺たちは、フロントで確認してみる。
「少々、お待ちください……。30分後に、近くの
カウンターの内側にある端末を見ながら、ホテルマンが手際よく手続きをしてくれた。
俺たちはスイートの長期利用だから、アクティビティの利用料金は無料!
――リゾートホテルの埠頭
待機しているクルーザーは、思っていたよりも大きい。
スマホの画面を見せて、ロングステイの予約客だと証明。
タラップを上り、ゲスト用のデッキへ。
観覧用のため、転落防止の柵でふちが囲まれている。
屋根付きの2階席もあるが、基本的に1階の展望室へ。
なぜなら――
ウィイインという機械音がして、海中の景色に切り替わった。
このクルーザーは展望室が1.2mほど下がり、動く水中展望室に変わるのだ。
窓の外では熱帯魚が泳ぎ回り、サンゴ礁に覆われた海底も見える。
俺とマルグリットは、50分の海中旅行を楽しむ。
海が苦手な人に、シュノーケル、ダイビングは難しい。
浅瀬なら、これだけで十分。
「わあ! すごいすごい!!」
「お父さん、あれ何?」
子供は遠慮なく騒ぎ、それに負けじと、ガイドも案内を続ける。
『左手に見えますのが、沖縄の代名詞とも言える、サンゴ礁です! 今日は海が穏やかで透明度も高く、豊富な種類の熱帯魚が――』
綺麗だなあ。
それにしても、熱帯魚は美味いのかな?
俺たち、さっきの防衛官2人のせいで、朝と昼のどちらも食べていないぞ。
「ねえ、
傍でぴったり寄り添うマルグリットも、ぽつりと
お前もか。
中途半端な時間だったから、このクルージングがまだ空いていたのかもな……。
周囲は、とある場所に注目している。
釣られて見たら、海外のデザインらしき船体が目に入った。
流線形で、全体が1つのレーシングカーのようだ。
後部に張り出した屋上には、白い屋根と落下防止の手摺り、ソファが見える。
「おい! あれ、海外のアームジじゃね? 25mクラスは、やっぱり凄い……。誰が乗ってきたんだ?」
「アームジって、7.5億円もする、超高級の? ゲストとクルーがすれ違いもしない、客船レベルのやつか」
「日本に、これを買うリッチマンがいるのか……」
詳しい連中によれば、世界的な高級クルーザーのようだ。
いったい、誰が――
「あら? 久しぶりね、重遠お兄さん」
その声に振り向くと、短めの銀髪に紫の瞳。
えっと――
「アイよ。
彼女は自己紹介がてら、マルグリットへの挨拶も済ませた。
「そう……。私は
マルグリットが右手を差し出したら、笑顔のアイが握手に応じた。
アイは、俺たちに話しかけてくる。
「重遠お兄さん達は、観光で来ているの? カレナお姉さまは?」
「あいつは、東京に残っている。ここに来たのは、俺とマルグリット……。いや、メグの2人だけだ」
「私たちも、あなたのことを愛称呼びでいいかしら?」
「別に、いいわよ」
マルグリットに承認されたアイは、俺たちを誘ってくる。
「じゃあ、本題に入るけど……。良かったら、2人とも私たちのクルーザーに乗ってみない? ちょうど、海上でランチを食べながら、楽しむところだったの」
彼女が指差した方向には、周囲の話題になったばかりの船。
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