第186話 ファイル1:占い少女と助手による下町散策ー⑤
校舎が見えてくるも、公立のため、コストと実用性を重視した外観と造りだ。
「どうして、あんたまでいるのよ……」
制服を着た
「べ、別にいいだろ!? 俺だって、高校進学を真剣に考えているんだよ! ちょうど夏休みだし、校内見学をするだけさ!!」
勇飛の返事に、美月はチラリと1人の少女を見た。
弟が夢中になっている相手だが、両思いになれる確率はゼロに近い。
わざわざ朝早くに集まって、登校したのになあ。と落ち込む美月。
その葛藤を知ってか知らずか、
姉には強気の勇飛だが、狙っているカレナに話しにくく、彼女を見ては目を
一行は開いたままの正門から入り、朝から蒸し暑さを感じる敷地内で、お目当ての生徒会室を目指す。
「それで、美月よ……。お主らがゴールデンウィークを利用して遊びに行った場所で、とある廃墟に入ったのだな?」
敷地内を歩きながら、カレナが訊ねた。
首肯した美月は、夏休みで閑散とした母校に目を細める。
まだ午前中であるのに直射日光で暑く、周りの木々には
グラウンドや体育館ではスポーツの部活が練習をしていて、上から吹奏楽の音も響く。
「ええ、その通りよ! あの時は、生徒会のメンバーと新聞部の
美月は説明しながら進み、靴箱で上履きに替える。
カレナと澪、弟の勇飛には、客人用のスリッパを用意した。
いつもより広く感じる校内の廊下を歩き、階段を上り、やがて『生徒会室』に辿り着く。
副会長の美月は、ポケットから取り出した鍵を中央の穴に差し込み、クイッと
ガチャッと金属音を立てて、解錠された。
扉を横にスライドさせると、ガララという音、それに密閉されていた空気が押し寄せてくる。
すぐ窓と扉を全開にして、カビ混じりの臭いを外へ逃がした。
外と同じ暑さになり、室内でも汗がどんどん出てくる。
カレナたちは長机の傍にあるパイプ椅子に座り、生徒会長の
15分も
「私たちが持ち帰ったのは、それだけのはず……。それを渡せば、いいのね?
美月が話しかけるも、カレナは古い本を
速読にしてもハイスピードで、あっという間に読み終えた。
話は聞いていたようで、自分のスマホを触りながら、美月に返事をする。
「そうだ……。克友からの報告も受け取ったのじゃ! ここからは私が解説をしつつ、その合間でお主らの体験談を話してもらうのだが……」
言葉を切ったカレナは、勇飛の顔を見る。
ようやく自分に注目してくれたことで、勇飛は喜んだ。
しかし、弟に余計な情報を与えたくない美月が、釘を刺す。
「勇飛! あんたは、もう帰りなさい」
「そりゃないよ、姉ちゃん! お、俺だって、話を聞きたいぜ! 暑い中、やっとの思いでココまで来たのに!!」
別に、私は頼んでいないけど……。
美月は、勇飛の自分勝手な言い分に呆れた。
けれども、大事な弟に、この異常なエピソードを教えるわけにはいかない。
こいつの性格を考えたら、絶対に後方彼氏面で友人に話したり、ネットで得意げに語り出したりするわ。
それでは、カレナとの約束を守れなくなってしまう……。
祐果の話では、カレナは密かな有名人。
そっちの気がない私ですら、おかしな気分になってくるほどの美貌とオーラを持っている。
芸能事務所やマスコミのようなスピーカー、あるいは都心で群れている半グレ辺りに知られたら、大騒ぎになることは確実だ。
晴音が入院していた
高校の生徒会で活動している勝盛美月は、2人の友達を助けてくれたカレナに感謝すると同時に、恐れてもいた。
ここまで肝が据わっている女子中学生は、初めて見た。
高校生の私たちと、普通に話している。
おまけに、タメ
年配者と話をしているかのように……。
室矢カレナは、その外見に対し、あまりに大人びている。
女子の腹が大きくなったのに懐妊ではなく、最新の医療機器が揃っている総合病院で専門家のチームが診ても原因不明。
加えて、男子のお腹まで大きくなるという、まさに常軌を逸した話。
それをあっさりと解決した時点で、室矢カレナも普通ではない。
勇飛がベラベラと話した場合、似たような手段で報復してくるだろう。
どう足掻いても、弟はカレナという存在に不釣り合いね……。
美月は、自分が悪者になってでも弟を危険から遠ざけ、同時にカレナとの約束を守ると決めた。
バンッと長机を叩き、勇飛に向かって怒鳴る。
「いい加減にしろ! あんたは、家に帰れ!!」
ビクッと震えた勇飛は、涙目になりつつ、生徒会室から走り去る。
周りにいるメンバーは、美月の気持ちが分かるだけに、何も口を挟まなかった。
勇飛を全く気にしていないカレナは、事もなげに話し出す。
「これから説明するが……。少し待つのじゃ!」
カレナが来客用のスリッパを履いたまま、片足で床に円を描くのと同時に、まるで防音処理が施された密室にいるかのような静寂が訪れた。
驚く面々に対し、カレナは説明を始める。
「今、生徒会室に結界を張った! これで、さっきの勇飛が聞き耳を立てても、聞かれる心配はないのじゃ……。お主らが今回の異変に巻き込まれたのは、山のキャンプで訪れた廃神社が原因だ」
カレナが見回すと、全員が納得した顔つきだ。
結界を張った、自分たちの行動を知っているぐらいでは、もう驚くに
物怖じしない美月が、カレナに質問をする。
「その廃神社に、晴音や克友の腹に寄生していた本体がいるの?」
ほう、と感心した表情になったカレナが、美月を褒める。
「なかなか、良い勘をしている! まあ、それに近い話じゃ……。お主らは、運が良かった。奴らのテリトリーに入り、魔術書と祭祀の道具を持ち出しておきながら、この程度の被害で済んだ」
片手で古い本をひらひらと動かしたカレナに対し、ムッとする生徒会メンバーたち。
だが、彼女の言う通りで、何も言い返せない。
冷静な美月が、続けてカレナに尋ねる。
「もし、あなたが来なかった場合、2人はどうなっていたの?」
当然の質問だな、と言わんばかりの態度で、カレナが答える。
「むろん、死んでいたぞ? 内側から腹を食い破られて……。そうだな……。例えるのなら、蜘蛛が一番近い! 人の身体に寄生して、成長したら一斉に出てくるわけだ」
その光景を想像したのか、生徒会メンバーが青い顔になった。
体の構造として敏感な女子2人は、その反応が顕著だ。
彼らの様子を見ていたカレナは、話を続ける。
「もう分かっているだろうが、奴らは人の世に出てはならない生き物だ! 妖怪よりも質が悪い連中で、名はオウジェリシス……。この本によれば、
講師のように説明したカレナは、生徒会メンバーを見るも、特に質問はないようだ。
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