第157話 俺の義妹は『薄々mm』の箱を常備しているようだ
「この度は
高級ブランドのスーツを着た30前後の女性が、立ったまま、お辞儀をした。
90°まで深く頭を下げた、最敬礼だ。
「同じく止水学館の高等部1年、
「こ、高等部1年の
学長の里絵よりも貫禄がない大人の女と、数日前に斬りかかってきた凪も、流れでお詫びを言ってきた。
「室矢家の当主、室矢
3人の女が、向かいのソファに座った。
俺も座ると、その後ろに室矢カレナが立つ。
今日の彼女は、護衛だ。
俺たちは
正式な謝罪は、先日のように
しかし、加害者が個人的にお詫びに来たことで、非公式に。
俺の自宅であれば、友人や知り合いとして、たまたま遊びに来ただけですよ? と言い訳できる。
カチャリと、
給仕が終わった彼女は、俺の横に座った。
「では、話し合いを始めます……。結論から申し上げると、俺の治療費を全額負担のうえで相応の慰謝料をいただければ、不問にして構いません」
事前に決めていた条件を告げたら、対面の3人が
目の前にいる彼女たちは、まさにそれだ。
独自の剣術と
一般にも門戸を開いていて男子もいる
普通の授業でも神前に礼をするらしく、その実態は謎に包まれている。
彼女たちは
警察の一部として特権階級になっており、公務で帯刀を許されているのが大きな特徴。
千陣流と桜技流は、かなり仲が悪い。
なぜなら、
一番の確執となっている部分があるのだが、それは別の機会に話そう。
「室矢さまのご厚意、誠にありがとうございます! 治療費の全額負担はもちろんのこと、ご納得いただける慰謝料を後日に提案させていただきます。その件でのご担当者は?」
里絵の問いかけで、詩央里が名乗りを上げる。
「私です! 千陣流の十家が1つ、南乃家の長女、詩央里と申します。以後、お見知りおきを」
詩央里が自己紹介をした途端に、再び空気が緊迫した。
そこで、彼女は付け加える。
「私は、ただの式神使いです。どうか誤解のないよう、お願い申し上げます。こちらが私の連絡先です」
学長の里絵が、すぐに返事。
「失礼しました。……数日後を目途に、具体的な金額をお知らせいたします」
説明を後にする、とした直後に、いきなり衝突するなよ。
「……北垣さん、何か言うことがあるでしょう?」
学長の里絵が
「あ、あのっ! ごめんなさい!! 私、あの時、訳が分からなくて……。け、怪我は大丈夫ですか?」
凪の視線は、俺の肩から吊り下げられている右腕に釘づけだ。
ここで沈黙しても、心証を悪くするだけ。
とりあえず、状況を教えておくか。
「じきに治ると主治医から聞きました。その点は、ご心配なく……。北垣さんこそ、怪我をしていませんか?」
俺が気遣うと、凪は笑顔になった。
「はい、もう元気です! 私、身体は頑丈なので……」
おかしい。
「私、あなたのことが心配だったので、今日お会いできて嬉しいです!」
なぜ、この2人は、凪の会話を止めないんだ?
まるで友達を相手にしているように、延々と話し続ける凪。
彼女の様子を不審に思っていたら、学長の里絵が口を挟んだ。
「北垣さん、そろそろ時間です。言い忘れていることは、ありませんか?」
キョトンとする凪。
俺の後ろで控えていたカレナが、リビングのテーブルの上に0.01mmの箱を置く。
部屋の時間が止まった。
「うむ! これは、『薄々mm』というものでな! コンビニで買ったら、それはもう店員からジロジロ見られたものじゃ……。よくよく自分の姿を見たら、紫苑学園の制服を着たままでな? とっさに出た言い訳が、お、お兄様に頼まれたので――」
「お前、何言ってくれたの? 俺を社会的に抹殺する
「別に、私とお兄様で使うとは、一言もいっていないのじゃ!」
「それ以外に、どう思われるんだよ!?」
「私はお主がいつも見栄を張っていたことで、密かに心を痛めていた。ああ、どうして素直に小さいサイズを選ばないのか? とな」
「勝手に心を
いきなり始まった掛け合いに、学長の里絵は手で口を隠しながら笑い、逆に担任の明奈は頭痛がしている顔になった。
同じように笑っている凪に対し、カレナが話しかける。
「ところで、凪?」
急に話しかけられた凪は、驚いた顔でカレナを見る。
「う、うん……。じゃなくて、はい!」
「お主、今ここで重遠に抱いてもらったら、どうだ?」
「はい! …………え?」
条件反射で答えた凪の目が、丸くなった。
カレナは妙に優しい声で、話を続ける。
「重遠は女の扱いが上手くて、優しいぞ? 心配なら、私か詩央里が立ち会ってもいいのじゃ! むろん、個室でな」
思わぬ提案に、凪は指で自分のスカートを
彼女はさして時間をかけずに、結論を出す。
「い、いえ……。え、遠慮しておきます……」
凪の返事を聞いたカレナは、急に雰囲気を変えた。
リビングのテーブルの上から『薄々mm』の箱を取り、自分の後ろに隠しながら、ポツリと言う。
「そうか……。ならば、これ以上は言わないのじゃ」
「本日はお時間を割いていただき、恐縮です! 順番が逆になってしまいましたが、どうぞ皆様でお召し上がりくださいませ」
ソファから立ち上がった学長が、風呂敷の包みから和菓子の箱を出してきた。
包装紙を見たら、老舗の名店。
一緒に立ち上がった俺の横にいる詩央里が、ありがとうございますと言いながら、受け取る。
玄関で靴を履いた3人は改めて頭を下げ、退出した。
詩央里と一緒に片付けをした後、いただいた和菓子を食べる。
すると、カレナが話しかけてきた。
「重遠……。さっきの娘、どう思う?」
意図を読み取れなかった俺は、逆に聞き返す。
「どういう意味だ? まあ、何事もなくて良かったと思うが……」
ソファから立ち上がったカレナが、詩央里を手招きした。
「そもそも、さっきの発言は――」
「~~~~?」
「はあ……。どう返事をするのかは――」
しばらく話し込んだ後に、2人は帰ってきた。
「疲れているところ申し訳ないが、そろそろ千陣家への訪問の打ち合わせをするのじゃ!」
カレナの提案で、俺たちは次の予定に集中する。
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