第137話 幸せなデートと運命の選択ー④
義務のように口を開いた
「最後の理由は、君が
「おい、待て! それは、どういうことだ!! お前は、あいつとも関係しているのか?」
血相を変えた
「重遠は、ベル女の交流会に参加していたからね? 当然、知り合いになるさ……。元はと言えば、彼から君を紹介するって話だし」
その説明に納得した航基は、月乃が知らないであろう情報を出す。
「あいつは
交流会で付き添うお世話係への希望で、“可愛い巨乳を調教して、無責任な中出し!” と書くような男子に、外面があるのか?
心の中でツッコミを入れた月乃は、全く焦らずに、切り捨てる。
「梁先輩のことは、梁先輩の問題だ! それとも、君は彼女から、重遠に無理やり犯されたと相談されたの?」
同じ学校の先輩が乱暴されたことで激怒すると思っていたのに、月乃は妙に重遠の肩を持つ。
しかし、あいつが女を食い漁っている外道には違いない。
奮い立った航基は、月乃を論破するべく、結論を出す。
「重遠は、マルグリットが婚約者だぜ? 他の女を個室に誘って2人きりになるのは、立派な裏切りだ!」
「あー、うん……。それは、ボクもどうかと思う。てっきり、『人数合わせで来たのかな?』と思っていたけど……」
苦笑いの月乃を見て、ようやく意見が一致した、と元気になる航基。
だが、月乃は、そのわずかな希望を一刀両断にする。
「それも梁先輩と重遠、あるいは婚約者の
疑問ができた航基は、月乃に聞く。
「百歩譲って、そうだとしても……。重遠は一体、何をやったんだ? お前も、俺にしつこく聞いたのだから、これぐらいは答えてくれよ!」
「ベル女の校長の厳命と防衛大臣の命令で、一切お答えできません」
言い返せない回答を受け取り、航基は完全にフリーズした。
明るい貸し会議室で、1組のカップルの破局が決まった。
キイッ
ゆっくりと椅子から立ち上がった月乃は、今度こそ別れを告げる。
「これで、最後のお願いは聞いてあげたよ? SNSで作った2人のグループは、いったん解散するから……。さっきの告白は忘れてくれ! 早く別の相手を見つけたほうが、貴重な青春をムダにしなくて済む。君だって心置きなく、その
ガチャッ バタン
月乃は、自分のハンドバッグを持って、すぐに貸し会議室を出ていった。
呆然自失の航基は、10分以上が
月乃を追って、内廊下へ出たが、彼女の姿はどこにもない。
「なんでだよ……」
途方に暮れた航基は、立っている床がドロドロに溶けたような錯覚に襲われ、泣きそうになった。
今更になって、さっきの問いで
試しにスマホを確認したが、月乃の宣言通りに、SNSのグループは消えている。
これで、彼女に連絡する手段はなくなった。
「どうかしました?」
急に声をかけられた航基が振り向くと、
しっかりと広がるシフォン生地のフレアスカートは、ミント色。
トップスは白で、明るめのベージュのブレザージャケットを羽織っている。
足元は、全体の印象が重くならないように、ブランド物だが露出の多い靴だ。
外見と雰囲気から年上だと分かったが、年齢不詳。
その茶髪の女は、さらに話しかけてくる。
「併設されているカフェに行きませんか? 私、
何かに
「……なるほど。
アスミと名乗った女は、
奢ってもらったコーヒーを飲みながら、航基は
自分の考えをまとめたアスミは、相手が理解できるように、ゆっくりと
「んー! あなたの主張は、どこまでも自分のことだけです。
これまでになかった、大人の女からの優しい提案。
航基は、素直に聞いた。
ベル女の校長である
この社会で面倒な連中を黙らせてきたことに比べれば、ひねくれた男子高校生1人の説得なぞ、たやすいの一言。
しかし、これはリップサービスだ。
航基が時翼月乃を入手するには、彼が想像もつかないレベルで代価を差し出す必要がある。
現金であれば、中流の家庭が一生暮らせるラインから。
月乃の値段は自分が生涯をかけても支払えない金額である、と気づかない航基。
彼は、自分に都合よく、最後の言葉を思い出した。
「そうですね。月乃も、『また会おう』と言っていたのだし……」
珍しく敬語を使った航基は、自分の中で納得したようだ。
それを確認した愛澄は、次の予定があるから、と言い残し、カフェから立ち去った。
この少年は、時翼さんの、ただの仕事仲間という言葉を
無視できない動きをしたら、その時に必要な対処をしよう……。
建物から出た航基は、帰路につきながら、色々と考える。
施設で面倒を見てもらったが、あそこまで親身の対応ではなかった。
子供同士の人間関係もギスギスしていて、油断したら年長者に自分の持ち物を奪われる日々。
「……母親って、あんな感じなのかな?」
時翼月乃が逆恨みをされないよう、梁愛澄はすぐにケアした。
この手の恨みは、時間が経つほど
愛澄が航基の行く末を心配したことも事実で、二児の母、校長、さらには
「自分を大事にしてくれる人間か……」
夕暮れの歩道を歩きながら、短時間に詰め込まれた情報を整理していく航基。
鍛治川流の復興。
両親の
思春期の男子として、異性を求める自分。
「……俺が本当にやりたいことは、何なのだろう?」
原作の【
今の航基には、本当の気持ちを確認するだけの時間と余裕がある。
あらゆる悲劇の原因だった原作の
カウンターとして
トボトボと歩く航基の後ろ姿に、原作の面影はない。
クラスメイトの
女子に振られたが、いきなりSNSでブロックされるわけではなく、直接の話し合いができた。
よくある、相手を傷つけないよう遠回しに意味不明な理由を述べるのではなく、時翼月乃は本音で語ってくれたのだ。
さらに、打算ありきとはいえ、決定権を持つベル女の校長から手厚いフォローまで。
おまけに、クラスメイトの
きちんと手順を踏めば、彼女は喜んで受け入れるだろう。
これが主人公でなくて、何だと言うのだ?
まだ不満を垂れるのであれば、航基は豆腐の角に頭をぶつけて、異世界転生をするしかない。
今の彼がどういう結末になろうとも、それは
シナリオから外れることは、常に恐怖が伴う。
しかし、今の道から外れてこそ、助かる道が見つかる可能性も生まれるのだ。
鍛治川航基は、暗がりの中でおっかなびっくり、歩き始めた。
自分の鍛治川流を追い求めて、誰にも理解されず、荒野を
それとも、月乃の指摘を受け入れ、現実と妥協した形にするのか?
月乃と愛澄は、航基の家族でも、仲間でも、恋人でもない。
だから、彼には寄り添ってくれる女が必要だろうと気づいたが、言わなかった。
重遠が考えていたように、時翼月乃は素で、航基と最も相性が良いヒロイン。
けれど、2人が出会えたのは、わざわざ紹介してもらったから。
残った原作のヒロインたちも、本来の出会いが
月乃に愛想を尽かされた以上、航基が他のヒロインに惚れられ、人生を共にすることは厳しいのが現状だ。
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