第136話 幸せなデートと運命の選択ー③
「そこまで言うのなら、ボクの考えを余すところなく、教えてあげるよ! ただし、それで逆ギレをするようなら、その時点で帰る」
「鍛治川流は、必要がないから消滅した流派だ! 宗家のくせにリスクヘッジもせず、当主が倒された程度で滅びるようじゃ、どっちみち先は長くなかったよ? その実態を踏まえたうえで乗り越えていくプランや覚悟がない男に、ボクは自分の人生を託したいとは思えない」
激高した様子の航基が、椅子から立ち上がって、両手をバンと机に叩きつけた。
「お、俺の流派が、必要ないだと? それに、俺の両親を悪く言うな!! 小規模でも親身に弟子を育てて、一撃の威力では大手にも高く評価されていたんだ!」
「ボクは、君に懇願されたから、本音で話しているだけだ……。違うと言うのなら、君が施設に入っている間に流派の人間が連絡をしなかったことや、未だに接触がない事実への説明をしてくれ! そもそも、鍛治川流の幹部が君を引き取らず、そのまま縁を切ったことが、全てを表している。……どうだい?」
月乃のストレートな指摘に、航基は反証しようとするが、何も見つからない。
力なく、自分の椅子に座る。
「航基……。君は大きな勘違いをしている。退魔師の宗家は、普通の家庭とは違うんだよ? 必要があれば長男ですら放逐して、さらに本家を守るための
淡々と説明する月乃は、容赦なく言葉を続ける。
「ボクが調べた限りでは、鍛治川流にいた数人は引退している。他にも、
自分が知らない情報を突きつけられて、航基は思わず
「どうして…………」
月乃は同情的な視線になったが、それは共感ではない。
「高弟の誰かは、宗家の
鍛治川流を教えられる師範代まで全滅したのなら、そこで終わり。
自分の生活も怪しい弟子となれば、思うところはあれど、命惜しさで逃げ出す。
どさくさに紛れて、鍛治川流に残された金を拝借したかもしれないが、今となっては闇の中。
残された鍛治川航基は、発見した警官なりに保護され、そのまま施設行き。
下手に航基を引き取れば、鍛治川流を復興したい、と言い出すに決まっている。
加えて、宗家と高弟が返り討ちに遭った怪異に、延々と命を狙われるのだ。
来月の支払いを気にしている下っ端には、キツすぎるね。
それも、自分が色々と我慢をさせられてきた流派のために、だ。
同じ境遇なら、ボクだって、自分が助かるために逃げ出しているよ……。
月乃の推測は、彼女の心の中だけで
少し間を置いた後、月乃は説明を続ける。
「相手を尊重するのも、善し悪しだ! 他に子供がいれば、鍛治川流を復興する際の味方になった。組織をしっかりと作っていれば、親戚が宗家を引き継いだに違いない。備えを
驚いて顔を上げた航基は、力強く反論する。
「俺が、鍛治川流の後継者だ! 認めるわけないだろ!!」
月乃は、興奮する航基に構わず、いよいよ決定的な言葉を口にする。
「なら、諦めたほうがいい! はっきり言って、他の流派から人材を派遣してもらい、実権を渡し、君の
そこまで言い切った月乃は、哀れんだ目で、航基を見た。
「航基は、自分が目立ちたいだけ! とても、『鍛治川流の復興を願っている』とは思えないね……。今の君じゃ、街道場のレベルも実現できないよ? そこらで入門生を募集している道場だって、師範代が流派の看板と上の助けを借りながら必死に弟子を集め、それを
今の航基にとって、まさに
だが、自分のことだけで手一杯の彼は、その意味を半分も理解していない。
その間抜け面を見た月乃は、これ以上は言ってもムダだな、と感じた。
経営コンサルティングをするよりも、分かりやすく引導を渡したほうがいいか……。
そう判断した月乃は、航基に別の視点からアプローチする。
「仮に、ボクが君の想いを受け入れて、宗家の妻になったとしようか?」
欲しがっていた言葉を聞いて、航基はすかさず月乃の顔を見た。
でも、それは、彼にとっての救いではない。
笑顔の月乃は、残酷な選択肢を突きつける。
「その場合は、
「詩央里は、関係ないだろう!?」
思わず、航基は絶叫した。
その直後にハッと我に返るも、時すでに遅し。
対面に座っている月乃はパープルの瞳を輝かせて、相手を刺すような目をしている。
「どうして、そこまで反応する? 君は、ボクが欲しいのだろう?」
航基は、今まで見たことがない月乃の怒りに、混乱した。
「い、いや……。急にそんなことを強要されたら、誰だって嫌だろ?」
「ボク、
月乃は決断を迫ったが、航基はモゴモゴと口を動かすだけ。
航基は詩央里に惚れていて、今は彼女に養われている状態だ。
援助を打ち切られたら、
原作の【
航基は、この期に及んで、千陣流の傘下にいる事実を思い出す。
月乃の
次々に押し寄せてくる壁で窒息寸前になり、航基の頭はパンクした。
「ああ、ごめんごめん! 冗談だよ……」
当の本人が引っ込めて、航基が息を吐く。
その裏で、月乃は完全に見限った。
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