第117話 正妻&義妹 vs 金髪碧眼で巨乳の魔法少女
今にもパジャマパーティーが始まりそうで、良い香りがする空間。
だが、実際にはピリピリした空気で、触れたら怪我をしそうだ。
「では、
司会役である詩央里が発言すると、残りの2人が
「最初に言っておきますが、若さま……。
緊張した様子の
「もう
詩央里は、堂々とした態度で応じる。
「ご丁寧に、ありがとうございます。私は、
挨拶もそこそこに、詩央里は本題に入った。
マルグリットは両手を膝の上に置きながら、ポツポツと語り出す。
「えっと……。重遠には、感謝をしているわ! 方法は分からないけど、私の命を救ってくれたようだから……」
相槌を打った詩央里は、催促せずに待つ。
「たった1週間の関係でも、ベル女で生死を共にした仲よ! 大切な人だと思っているわ……。私は、重遠と結婚式を挙げたことを謝らない。この話し合いがどうなるにせよ、それは私の大切な思い出だから……」
紅茶を飲んだマルグリットは、再び口を開く。
「重遠の役に立ちたいと、願っている。でも、とある理由でもう魔法を使えない――」
「そのことは、もう解決したのじゃ! だから、不自由なく魔法を使える前提で話せ」
いきなり命令されたことで、マルグリットは、何この娘? と詩央里に訴えた。
視線を感じた詩央里は、説明を始める。
「その娘は、
そこまで聞いたマルグリットは、へーそうなんだ! と感心した。
ふと思いつき、カレナに尋ねる。
「なら、私が飲んだエリクサーを作ったのは、あなたかしら?」
「……そうじゃ」
カレナにしてみれば、まだ部外者のマルグリットに答える義理はない。
しかし、下手に黙っていて、重遠や詩央里が誤解されたら面倒だと考えた。
「ありがとう! おかげで、私は助かったわ!!」
喜色満面になったマルグリットはカレナの手を取り、ブンブンと振った。
カレナは、飼い主にウザ可愛がりをされるペットのような顔に。
「それで、マルグリットとやら。全盛期に匹敵する能力を取り戻せたら、どうしたい?」
気を取り直したカレナが、面接の質問をした。
手を離したマルグリットは、迷いなく言う。
「重遠のために、生きたいわ! ここで、ベル女や実戦で身に付けた戦闘力を活かせるのかは、分からないけど……。私、普通の女子らしい方面は苦手なのよ」
詩央里が、すかさず説明する。
「私たちが求めているのは、荒事に対処する能力と他流へのコンタクトです。……女としては、どうですか? 若さまの傍にいられても、私が正妻である以上、結婚はできませんよ?」
マルグリットは、いつもの彼女らしくない、
「
話しているマルグリットが重遠に
どっちみち戦うことでしか生きられないのなら、納得できる上官と仲間が欲しい。
だけど、軍はもう嫌だし、警察も宮仕えで似たようなもの。
重遠のためなら、命懸けで戦ってもいい。
刺激を求めて
そう締めくくったマルグリットは、ため息を吐いた。
マルグリットを重遠の自宅に戻した後、詩央里とカレナは話し合う。
「私は、受け入れるべきだと思います。理由は、咲良さんの魔力が極めて高く、ベル女との窓口になるからです。若さまも、随分と気に入ったようですし……。もう私がいな――」
「詩央里!!」
カレナに
両手で顔を覆い、呼吸を整えた時点で、改めて話す。
「……すみません。カレナは、どう思いますか?」
「私から見て、問題はない! 詩央里が良いのなら、受け入れよう」
カレナは、マルグリットが無限のエネルギーに接続している弊害について、自身の
いわゆる、変電所を通し、過電流・過電圧にならない電気を安定して供給するような図式だ。
ベル女に潜伏していた女魔術師のレティシエーヌが、咲良さんは死んだと
重遠と別れた後に本人が呑んだ錠剤で仮死状態にさせて、仕込まれた術式や物体を全て除去した後に復活させたのだから……。
マルグリットが正式に仲間になったから、カレナは現状をそのまま続けることに決めた。
その気になれば、不老不死にもできるが、あくまで人としての生活。
この事実を伝えてもデメリットしかないので、誰にも言わない。
重遠の手足となるのなら、デチューンをする必要もなくなった。
引き続き、その力を振るってもらうだけの話だ。
ようやく結論が出たことで、詩央里とカレナはソファの上で脱力した。
「詩央里……。明日からしばらく、重遠と2人で療養しろ。その間は、私が代理で何とかする。念のため、例の3人娘の連絡先を教えてくれ。そやつらに、私の正式な紹介も。……マルグリットへの話は、私が行うのじゃ! ゆっくり休め」
「……分かりました。お言葉に甘えさせていただきます」
疲れ切った詩央里は、
その後、今すぐに予約が取れて、ゆっくりできる宿泊施設を探す。
◇ ◇ ◇
南乃詩央里を自宅に残したまま、俺の家に残り2人が集まっていた。
室矢カレナ、咲良マルグリットは、どことなく気まずい雰囲気で食事をする。
それぞれに、手作りハンバーグ1つと別で購入した付け合わせがワンプレートに盛りつけられている。
炊飯器で炊いたライス、ゆで卵、トマトの赤が
「あ、あの……。詩央里は?」
面接の結果が気になって仕方ないマルグリットが、そわそわしながら訊ねた。
返事を待ちながら、カレナが商店街で買ってきたハンバーグをつつく。
俺も落ち着かず、付け合わせのフライドポテトや野菜のソテーを食べながら、カレナに注目した。
ダイニングテーブルの椅子に座っているカレナが、詩央里の代役として告げる。
「結論から言おう! 私たちは、お主を受け入れる」
「分かった。あなた達の役に立てるよう、頑張るわ……。それで、今後はどうすればいいのかしら?」
マルグリットは緊張したまま、カレナに問いかけた。
カレナは、口の中のハンバーグを堪能した後に答える。
「うむ……。お主はまだ、自分が安全に魔法を使えるのか、疑問に思っているじゃろ? だから、ベルス女学校に通いつつも、紫苑学園に転校してもらう。つまり、魔法の訓練を行いながらも、基本的に重遠の傍にいるということじゃ……。これならば、色々な問題を解決できる」
いったん話を止めたカレナは、飲み物を口に含んで、少し休む。
そして、また話し出す。
「転校に必要な書類は、ベル女の校長から受け取ってきた。紫苑学園ではオンラインの授業と課題の提出で単位を取れるから、通信制の高校にもなるのじゃ! せっかく、こちらにやってきたのなら、紫苑学園の手続きとクラスへの挨拶ぐらいは済ませておけ。……明日、私と一緒に、朝から出向こう。お主は、私服でも構わん! ベル女の校長から、すでに話が通っているはずだ」
そう説明したカレナは、カードキーを差し出した。
「ゲスト用のキーじゃ! 同じ階にあるから、遠慮なく使ってくれ。ただし、最低限の家具家電のみで、多くは望めないぞ? お主の詳しい待遇は近いうちに決めよう。しばらくは、私がお主への対応をするのじゃ」
マルグリットは、カレナの説明を聞いて、素直に喜んだ。
「ありがとう! 『今日はホテルに泊まるの?』と気が気ではなかったのよ……。助かったわ」
どうやら、マルグリットは詩央里のお眼鏡にかなったようだな。
しかし――
「カレナ、詩央里はどうした?」
俺の言葉に、彼女はこちらを見た。
「重遠……。お主は、明日の朝から詩央里と出かけろ! 最低でも1週間は、帰ってくるな」
「いや。そろそろ紫苑学園に復学し――」
本来の予定よりも休学していたことから、渋った。
確かに温泉旅館へ行こうと言ったものの、明日の朝からは……。
だが、カレナはいつになく真面目な顔で、じっと見てくる。
「出・か・け・ろ。……いいな?」
「お、おう……」
選択の余地はなかった。
世界とマギクスは守れそうだが、俺の出席日数は守れないようだ。
果たして、無事に高校を卒業できるのだろうか?
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