第117話 正妻&義妹 vs 金髪碧眼で巨乳の魔法少女

 南乃みなみの詩央里しおりの自宅には、3人の若い女が集まっていた。


 今にもパジャマパーティーが始まりそうで、良い香りがする空間。

 だが、実際にはピリピリした空気で、触れたら怪我をしそうだ。


「では、咲良さくらさんの今後について、話し合いましょう」


 司会役である詩央里が発言すると、残りの2人がうなずいた。


「最初に言っておきますが、若さま……。重遠しげとおさんの婚約者は、私です! したがって、2人目からの女性の受け入れの可否は、全て私が判断します。若さまは一切関係ありませんので、悪しからず」


 緊張した様子の咲良さくらマルグリットが頷き、おずおずと発言する。


「もうしゃべって良いかしら? ……あなたが、重遠の正妻ね? 改めて、自己紹介をします。私は咲良マルグリットよ! ベルス女学校の高等部1年にいる魔法師マギクスで、真牙しんが流に所属しているわ」


 詩央里は、堂々とした態度で応じる。


「ご丁寧に、ありがとうございます。私は、紫苑しおん学園の高等部1年にいる南乃詩央里です。千陣せんじん流の所属で、式神を使っています。とりあえず、咲良さんが若さまをどう思っていて、これからどうしたいのか? を率直に語ってください」


 挨拶もそこそこに、詩央里は本題に入った。


 マルグリットは両手を膝の上に置きながら、ポツポツと語り出す。


「えっと……。重遠には、感謝をしているわ! 方法は分からないけど、私の命を救ってくれたようだから……」


 相槌を打った詩央里は、催促せずに待つ。


「たった1週間の関係でも、ベル女で生死を共にした仲よ! 大切な人だと思っているわ……。私は、重遠と結婚式を挙げたことを謝らない。この話し合いがどうなるにせよ、それは私の大切な思い出だから……」


 紅茶を飲んだマルグリットは、再び口を開く。


「重遠の役に立ちたいと、願っている。でも、とある理由でもう魔法を使えない――」

「そのことは、もう解決したのじゃ! だから、不自由なく魔法を使える前提で話せ」


 いきなり命令されたことで、マルグリットは、何この娘? と詩央里に訴えた。


 視線を感じた詩央里は、説明を始める。


「その娘は、室矢むろやカレナです。若さまの式神にして、書類上の義理の妹になっています。魔術に詳しいので、彼女が言うのなら、そうなのです。相手を名前で呼び敬語を使わないことには、目をつぶってください。誰に対しても、そうなので」


 そこまで聞いたマルグリットは、へーそうなんだ! と感心した。

 ふと思いつき、カレナに尋ねる。


「なら、私が飲んだエリクサーを作ったのは、あなたかしら?」


「……そうじゃ」


 カレナにしてみれば、まだ部外者のマルグリットに答える義理はない。

 しかし、下手に黙っていて、重遠や詩央里が誤解されたら面倒だと考えた。


「ありがとう! おかげで、私は助かったわ!!」


 喜色満面になったマルグリットはカレナの手を取り、ブンブンと振った。


 カレナは、飼い主にウザ可愛がりをされるペットのような顔に。



「それで、マルグリットとやら。全盛期に匹敵する能力を取り戻せたら、どうしたい?」


 気を取り直したカレナが、面接の質問をした。


 手を離したマルグリットは、迷いなく言う。


「重遠のために、生きたいわ! ここで、ベル女や実戦で身に付けた戦闘力を活かせるのかは、分からないけど……。私、普通の女子らしい方面は苦手なのよ」


 詩央里が、すかさず説明する。


「私たちが求めているのは、荒事に対処する能力と他流へのコンタクトです。……女としては、どうですか? 若さまの傍にいられても、私が正妻である以上、結婚はできませんよ?」


 マルグリットは、いつもの彼女らしくない、れた表情になった。


今更いまさらよ! 私は幼少期から、血塗られた道を歩んできたわ……。この期に及んで普通の家庭に収まることは、逆に合わないと思う。こういうの、戦争症候群っていうのかしら? 平和でのんびりしている人たちを見ると、やっぱり違和感を覚えちゃうのよねえ……。ベル女は半ば教育隊だったから、馴染めたけどね?」


 話しているマルグリットが重遠に心惹こころひかれた理由の1つとして、いつも危険が付きまといそうな雰囲気もあったようだ。


 どっちみち戦うことでしか生きられないのなら、納得できる上官と仲間が欲しい。

 だけど、軍はもう嫌だし、警察も宮仕えで似たようなもの。

 重遠のためなら、命懸けで戦ってもいい。

 刺激を求めて一山ひとやまいくらの戦争屋になるよりは、よっぽどマシだわ!


 そう締めくくったマルグリットは、ため息を吐いた。




 マルグリットを重遠の自宅に戻した後、詩央里とカレナは話し合う。


「私は、受け入れるべきだと思います。理由は、咲良さんの魔力が極めて高く、ベル女との窓口になるからです。若さまも、随分と気に入ったようですし……。もう私がいな――」

「詩央里!!」


 カレナにとがめられ、詩央里は黙った。

 両手で顔を覆い、呼吸を整えた時点で、改めて話す。


「……すみません。カレナは、どう思いますか?」


「私から見て、問題はない! 詩央里が良いのなら、受け入れよう」


 カレナは、マルグリットが無限のエネルギーに接続している弊害について、自身の眷属けんぞくにすることでしている。

 いわゆる、変電所を通し、過電流・過電圧にならない電気を安定して供給するような図式だ。


 ベル女に潜伏していた女魔術師のレティシエーヌが、咲良さんは死んだとだまされたのも、無理はない。

 重遠と別れた後に本人が呑んだ錠剤で仮死状態にさせて、仕込まれた術式や物体を全て除去した後に復活させたのだから……。


 マルグリットが正式に仲間になったから、カレナは現状をそのまま続けることに決めた。

 その気になれば、不老不死にもできるが、あくまで人としての生活。

 この事実を伝えてもデメリットしかないので、誰にも言わない。


 重遠の手足となるのなら、デチューンをする必要もなくなった。

 引き続き、その力を振るってもらうだけの話だ。



 ようやく結論が出たことで、詩央里とカレナはソファの上で脱力した。


「詩央里……。明日からしばらく、重遠と2人で療養しろ。その間は、私が代理で何とかする。念のため、例の3人娘の連絡先を教えてくれ。そやつらに、私の正式な紹介も。……マルグリットへの話は、私が行うのじゃ! ゆっくり休め」


「……分かりました。お言葉に甘えさせていただきます」


 疲れ切った詩央里は、千陣せんじん夕花梨ゆかりの式神である睦月むつきたちの連絡先を教えつつ、手早くカレナを紹介した。

 その後、今すぐに予約が取れて、ゆっくりできる宿泊施設を探す。



 ◇ ◇ ◇



 南乃詩央里を自宅に残したまま、俺の家に残り2人が集まっていた。

 室矢カレナ、咲良マルグリットは、どことなく気まずい雰囲気で食事をする。


 それぞれに、手作りハンバーグ1つと別で購入した付け合わせがワンプレートに盛りつけられている。

 炊飯器で炊いたライス、ゆで卵、トマトの赤がえる野菜サラダ、インスタントのスープも、食卓に並ぶ。



「あ、あの……。詩央里は?」


 面接の結果が気になって仕方ないマルグリットが、そわそわしながら訊ねた。

 返事を待ちながら、カレナが商店街で買ってきたハンバーグをつつく。


 俺も落ち着かず、付け合わせのフライドポテトや野菜のソテーを食べながら、カレナに注目した。



 ダイニングテーブルの椅子に座っているカレナが、詩央里の代役として告げる。


「結論から言おう! 私たちは、お主を受け入れる」


「分かった。あなた達の役に立てるよう、頑張るわ……。それで、今後はどうすればいいのかしら?」


 マルグリットは緊張したまま、カレナに問いかけた。


 カレナは、口の中のハンバーグを堪能した後に答える。


「うむ……。お主はまだ、自分が安全に魔法を使えるのか、疑問に思っているじゃろ? だから、ベルス女学校に通いつつも、紫苑学園に転校してもらう。つまり、魔法の訓練を行いながらも、基本的に重遠の傍にいるということじゃ……。これならば、色々な問題を解決できる」


 いったん話を止めたカレナは、飲み物を口に含んで、少し休む。

 そして、また話し出す。


「転校に必要な書類は、ベル女の校長から受け取ってきた。紫苑学園ではオンラインの授業と課題の提出で単位を取れるから、通信制の高校にもなるのじゃ! せっかく、こちらにやってきたのなら、紫苑学園の手続きとクラスへの挨拶ぐらいは済ませておけ。……明日、私と一緒に、朝から出向こう。お主は、私服でも構わん! ベル女の校長から、すでに話が通っているはずだ」


 そう説明したカレナは、カードキーを差し出した。


「ゲスト用のキーじゃ! 同じ階にあるから、遠慮なく使ってくれ。ただし、最低限の家具家電のみで、多くは望めないぞ? お主の詳しい待遇は近いうちに決めよう。しばらくは、私がお主への対応をするのじゃ」


 マルグリットは、カレナの説明を聞いて、素直に喜んだ。


「ありがとう! 『今日はホテルに泊まるの?』と気が気ではなかったのよ……。助かったわ」


 どうやら、マルグリットは詩央里のお眼鏡にかなったようだな。

 しかし――


「カレナ、詩央里はどうした?」


 俺の言葉に、彼女はこちらを見た。


「重遠……。お主は、明日の朝から詩央里と出かけろ! 最低でも1週間は、帰ってくるな」

「いや。そろそろ紫苑学園に復学し――」


 本来の予定よりも休学していたことから、渋った。

 確かに温泉旅館へ行こうと言ったものの、明日の朝からは……。


 だが、カレナはいつになく真面目な顔で、じっと見てくる。


「出・か・け・ろ。……いいな?」


「お、おう……」


 選択の余地はなかった。



 世界とマギクスは守れそうだが、俺の出席日数は守れないようだ。

 果たして、無事に高校を卒業できるのだろうか?

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