第103話 原作のベルス女学校をようやく思い出したー③
最終的には、事前の国会承認と内閣総理大臣の命令に基づき、防衛出動。
いつもの国会に似つかわしくない、欠席者を除く、全員による即時の賛成というスピード承認で……。
出動した陸上防衛軍は、歩兵がいる普通科の中隊に戦車の機甲科、強力な火砲を有する野戦特科などの中隊も交ざっていた。
いわゆる、中隊戦闘群としての対応。
規模は、大隊に匹敵する。
そのベルス女学校を巡る攻防戦が、まさに俺の見ていた夢だ。
「最後まで武器を手放さず蜂の巣になった
相手は、魔法を使う異能者だ。
国内の隔離されたエリアで、部外者の目はない。
空中で一時的に停止しながら広範囲に散弾をまき散らす手榴弾など、様々な新兵器のテスト場として最高だ。
新型の火炎放射器の使用で、シェルターに避難していた子供たちも犠牲になった。
「志願したマギクスは、ベル女を攻略する側に回った。事後処理で、少しでも仲間の待遇が良くなるように……」
我らが主人公の
「ベル女の攻略作戦に参加した民間人は、特例で人権や生活の保障が認められた。他のマギクスたちに、『恨むなら、裏切り者のこいつらを恨め』というスケープゴートを与えたわけだ。よくある、分断統治……」
その後には、死体と
「
政治的には、そういう
心身ともにボロボロになった
しかし、生活を保障されていたものの、わずか23歳でこの世を去る。
彼女は最後まで、航基に真実を言わなかった。
「月乃ルートに入らないか最初のクーデター未遂から積極的に探さない場合は、彼女がベル女へ突入した時点で
全てが終わり、月乃との思い出を抱えながら過ごしていた航基のところに、1人の女がやってくる。
「原作の【
倒すべき悪に使われていたことを知った航基は、
自業自得だから、あいつの嘆きや後悔はどうでもいいとして……。
「あ、そうそう! 翡伴鎖中将とその関係者が、部屋ごと爆破されたんだっけ!? それで、マギクスの見直しが行われて、希少動物みたいな扱いに変わったはず……。航基に真実を告げに女がやってきたのも、監視の目がなくなったから」
すでに処刑か首輪付きで飼い殺しが決まっている
「娘は殺され、息子は東アジア連合に亡命、夫は拳銃自殺と、すでに失う物がなかったからなあ……。夫については、暗殺された可能性もあるけど」
愛澄の政治手腕は素晴らしかったから、タダで
関係各位に上手く調整できる人間は、かなり貴重だ。
しかし、そのスケベ心で、『プロジェクトZE-7010』の
それに巻き込まれた他の人間は、たまったものじゃないが……。
この時点のマギクスは極悪人で、自分たちの仕事を増やしている原因。
おまけに、こいつの娘がクーデターの首謀者とあって、全員が憎悪を抱いていたから。
その軍法会議に出席した連中が何を言っていたのかは、だいたい想像がつく。
愛澄は遠慮なく、巻き添えにできたのかもな……。
あなた方が私たちを人として扱わないのなら、こちらも道理を守る必要はないですね?
……いかにも、言いそうだ。
「最期の言葉が『みなさん。これから夫と娘に一言謝ってください』だから、やっぱり尋常じゃない」
牢獄で鎖につながれていた愛澄に、誰がどこから、爆弾を用意したのか?
「原作ファンの間では『プロジェクトZE-7010』で割を食った勢力とも、東アジア連合の工作員とも、推測されているけど……」
個人的な性格や好悪はともかく、日本の国防で大きな役割を果たしている幹部たちが一気に失われたのだ。
陸海空の幕僚、事務や交渉を一手に引き受けている背広組、さらには警察や政府関係者のトップなどが。
その混乱は、かなりの影響を及ぼす。
日本に潜んでいるスパイはここぞとばかりに動き出し、防衛省や防衛軍、警察、与党の内部に協力者を作り、自分たちの息がかかっている後釜を据えようと動いただろう。
この流れで最も得をするのは、日本に近い、東アジア連合だ。
爆弾の用意などの実行犯は、その他の主要グループ、あるいは、もっとマイナーな政治結社や団体かもしれない。
「原作のゲームでは描かれていないが、その世界の日本は……。国防の体制に、無視できないダメージを受けた」
さすがに、それだけで
こうして思い出すと、俺はとんでもない場所へ行っていたのだな?
ともあれ、マルグリットが全ての発端だった。
『プロジェクトZE-7010』が動き出したことも、月乃がそのプロジェクトに転んだことも……。
「だから、月乃のファンは皆、口を揃えて言う」
―――咲良マルグリットさえ、いなければ
アンチ航基の一部でさえ、こう言っている。
「これを担当したシナリオライターは、いったい何を考えていたのだ? と……」
現実ならともかく、わざわざお金と手間をかけて買ったゲームで、これはないだろう。
普通は、主人公補正と
まあ、この救いのなさがいい、と言っているファンもいるが。
でも――
「別の世界の現実であるのなら、たまたま観測した事実が紛れ込んだのか?」
また正気度が下がる仮説になってしまったが、ありそうだから困る。
そういえば、外はどうなっているのだろう?
テクテクと歩き、ベランダに通じている窓を隠しているカーテンを開ける。
シャアアア
そこには、青い空が!
ザアアアア
「雨が降ってきたか……」
あいにくの
蛇口を
カーテンを開けたまま、リビングのソファに戻った。
自宅に入ったら、膝の前で両手をハの字に置き、手の平を全て床につけた深いお辞儀で出迎えられ、かなり驚いた。
「お帰りなさいませ、若さま。お食事はテーブルの上にご用意しております。冷蔵庫と冷凍庫の中身だけで、1週間ぐらいの食事が可能でございます」
詩央里はそれだけ言い残し、隣にある自分の家へ帰っていった。
本当にすまないと思うが、今はとても冷静になれない。
デジタル表示のカレンダーを見たら、自宅に帰って4日が過ぎている。
「そろそろ、立ち直らないと。メグに笑われてしまう……」
家の換気をせず、ゴミも片付けないことから、かなり臭ってきた。
俺自身も、しばらく風呂に入っていない。
ピロリン
『お風呂にお湯を張ります』
お湯を沸かすボタンを押してから、腕を組んで考え込む。
「今の俺に……何ができる?」
パックの紅茶を淹れて、マグカップで
「メグは、もう死んでいる。それは、どうにもならない……。だが、
『お風呂が沸きました』
リビングのソファに座る。
久々に風呂に入ったおかげで、リフレッシュ。
「ふー、スッキリした……。よし、次の方針を決めたぞ!」
有亜を口説く。
最低だが、それしか手段がないのだ。
校長は
それに、よく考えたら、今の月乃にいきなり、プロジェクトに参加するな! と言っても、混乱させるだけだ。
ベルス女学校の新しい協力者として、有亜と親しくなるしかない。
「有亜は、何が好きなのだろう」
「けっこう、ファンシーな趣味よ? 寝る時には、いつも大きなシャチのヌイグルミを抱えているって!」
それは、随分と女の子らしい趣味で……。
いや、実際に女だったな。
「しかし、どういう男が好みだろう?」
「私も知らないわ……。有亜は諜報部にいる関係で、交流会にも参加していないようだし」
俺が接した限りでも、男と仲良く話せる性格には思えなかった。
「分かった……。とにかく、有亜を口説くぞ」
「え? 私の親友を口説くの? どうして?」
あまりに考えすぎて、頭の中に声が響くようになったか?
危険な兆候だ。
よく見たら、リビングのテーブルで置きっぱなしの空箱や空き缶が全て消えている。
ベランダの窓も開けっぱなしだったので、カラカラと閉めた。
「不用心だな。注意しないと」
「ごめんなさい。換気をしていたの……」
再びソファに座って、思考に
「私も有亜みたいな信号機の目にしたほうが、いいかしら?」
「親友と言っておきながら、信号機の扱いは止め、ろ?」
思わず突っ込んだ俺は、恐る恐る、声がした方向を見る。
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