第97話 第三者の説明で埋められていく空白の時間
――― 【7日目 午前中】 ゲストハウス 個室
ウェーブ気味のロングをした
深窓のご令嬢と言いたいところだが、やっていることは、ただの覗き。
それも、俺が
灯が目を丸くしているところを見る限り、彼女は知らされていなかったわけか。
そりゃ、自分の痴態を他の女に見られたがる奴は、あまりいないよな。
「風紀委員長が覗きとは、あまり感心しませんね?」
こいつ、あざとい系か!
「こんな機会は、そうそう見つからないし……。私は光学迷彩、要するに
そこまで
説明を続ける。
「あなたが逆上して羽切さんに暴力を振るうか、無理やりに襲わないか、という監視でもあったけどね? ヤリ目で来たのに、ずいぶんと
灯は自分たちを救ってくれた御礼を言い、ハグした後、別れを惜しみながら去った。
この学校の特殊性を考えたら、彼女と会う機会はもうないだろう。
風紀委員長の希々は、俺に向き直った。
「羽切さんは、ただの善意で誘っていたわ。咲良さんがあなたを振ったことだけ、知らされていたの! 彼女を恨むのは、お門違いよ? 面倒だけど、先に説明をしたほうがいい? 羽切さんが言葉足らずだったにせよ、あなたは疑心暗鬼になっているようだし」
その後の説明によれば、俺が3年エリアの校舎の屋上で気絶した後、なぜか普通の空に戻ったらしい。
施設はかなりの被害を受けたものの、復旧できる範囲。
あれだけの
希々の顔を見ながら、質問をする。
「外に出ても、いいですか?」
このゲストハウスの個室だけでは、デジタル表示の時計か、テレビを見るしかない。
現状を把握するためには、もっと情報が必要だ。
しかし、希々は首を横に振った。
「ダメよ! ここのラウンジなら良いけど、外に出たら
真剣な希々に、俺は困惑した。
溜息をついた希々は、口を開く。
「状況証拠によれば、昨日の地獄絵図はあなたが解決したのよ? 覚えていないの?」
首を傾げていると、希々は自分のスマホで画像を出した。
あの時の
俺の表情をジッと観察していた希々が、うんざりした感じで言い捨てる。
「あの
狸の意味が分からずに聞いたら、校長のことだった。
同情した顔の希々は、忠告してくる。
「気を付けなさい、
そこまで話した希々は、口を閉じた。
――― 【7日目 午前中】 ゲストハウス ラウンジ
外の様子を見たかった俺は、木幡希々と一緒に、ラウンジへ移動した。
窓や正面玄関から明るい光が差し込んでいて、個室のデジタル時計が正しかったことを告げている。
ラックにある新聞の日付を見て、大型テレビの電源を付けたら、あの決戦が昨日であったことを確認できた。
ラウンジのソファで向き合うように座り、自販機で選んだドリンクを飲みつつ、話し合いを続ける。
「あなたと一緒に来ていた3年の男子、
希々の説明によれば、コードD-1が解除された直後に、最優先で
俺は寝込んだままだったので、意識が戻ってからにすると、説明したそうだ。
妹の
どこまで許可を得ていたのか不明だが、彼女たちは無事に離脱したのだろう。
夕花梨が責められる事態にならなければ、良いのだが……。
カタッ
テーブルの上に、スマホが置かれた。
それを行った希々は、俺の顔を見たまま、説明する。
「はい。あなたのスマホよ! 君と仲良くしたい女子のリストを確認するぐらいは、良いでしょう? 気に入った娘がいたら、その画面上で勝手に呼びなさい! さっき啖呵を切ったばかりで、『やっぱり気が変わりました』とは、言い辛いだろうから……」
スマホを弄っていると、希々が話しかけてきた。
「くどいようだけど、これは強制ではないわ! 咲良さんと1週間も仲良くできるはずだった埋め合わせとして、他の女子が相手をするってだけで……。断るのなら、明日の朝にバスで帰ってもらうだけの話! 婚約者がいるようだし、そのほうが当たり前といえば当たり前ね?」
スマホの操作を止めた俺は、自分が気になったことを確認するため、問いかける。
「どうして、こういう形にしたのですか?」
希々は人差し指を
「現金で報酬を支払いたいけど、学校の予算からは出せない。なぜなら、あの化け物の群れを退治したのが室矢くんだと、客観的に証明できないから! うちの面子もあるから、証明できても難しいわ……。私たち生徒のクレジットも、学校の承認が下りないと現金にはできない。まして、外部の人間に渡すなんて、もっての
呆れた俺は、希々に文句を言う。
「それにしたって、もう少し方法があったでしょう?」
うっすらと笑った希々は、俺の目を見ながら、問いかけてくる。
「巨乳の可愛い女が好みで、自分の命令に絶対服従させたい。中に出し放題だけど、責任を取りたくない……。そんな希望書を出してきた男がいたら、あなたはその人物が一番喜ぶことは何だと思う?」
心当たりがあった俺は、目を逸らした。
はい。
それを書いたのは、まさに俺ですね!
話が一段落したので、いよいよ本題に入る。
「メグは、どうなったんですか?」
希々は凄みのある目つきで、俺を見た。
「室矢君はそれを知って、どうするの?」
「もちろん、会いに行きます」
ふむ、と考え込んだ希々は、俺を眺めた。
「その咲良さん本人が、『会いたくない』と言っていても? 交流会は終わったから、彼女はもうお世話係ではないわ……。あなたはすでに風紀委員ではなく、ただの男子に過ぎない。あなたが持っていた腕章などの一式は、こちらで回収したわよ?」
「俺自身が、納得したいんです! ここまできたら、ストレートに言いましょう。いつまでですか?」
お堅い雰囲気が霧散した希々は、
「……いつから、気づいていたの?」
「今さっきです! 考えてみれば、最初から不自然でした。もっと早くに気づくべきだったと、反省しているところです」
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