第56話 ベルス女学校で発生している異常とは?
――― 【1日目 午前中】 校長室
秘書にドアを開けられて、校長室に入る。
お約束のように、いかにも高そうな備品ばかりだ。
俺が入った時点で、正面の奥にあるデスクから、1人の女が立ち上がる。
一瞬、どうして高校生がいるのか? と思ったが、どう考えても校長だろう。
ずいぶん、若作りだな……。
「当校へようこそ! 私が、校長の
「俺は、
定型のやり取りを済ませた後、ソファへと座る。
俺を案内した秘書は、飲み物を用意するために、外へ出た。
正面に座った校長は、まずは世間話から、という雰囲気を醸し出す。
「室矢くんのお世話係について、確認させてください!
「はい。俺にはもったいないほど、良い女性ですね」
校長は、探るような目つきだ。
ついでに確認しておきたい、という様子で、話を続ける。
「率直に聞きます……。室矢くんがお世話係の希望書に “結婚したくない” と書いたことは、本気ですか?」
「はい。俺には、もう婚約者がいますので……。交流会の
納得した校長は、さらに質問をする。
「室矢くんは、もう咲良さんに会いましたよね? 彼女は、どう言っていました?」
「常識的な範囲なら、何をしても責任を取らなくていいと……。直筆のサインと拇印まで、もらいましたよ」
校長はそれほど驚かず、俺の顔を見た。
「その書類は、今持っていますか? 少し、見せてください」
「はい」
俺がその誓約書を渡すと、校長はざっと読んだ後に、テーブルの上に置いた。
備品であるペン立てから万年筆を握り、すらすらと書く。
指先から腕全体をリラックスさせたまま中指にのせ、親指と人差し指を軽く添えている。
「受け取ってください」
“上記の内容について、ベルス女学校の校長である私が承認します。梁愛澄”
読み終わった俺が顔を上げると、校長が説明を始めた。
「立場上、言いにくいのですが……。できれば、咲良さんと1週間を過ごしてください。後から、『やっぱり責任を取れ』とは言いません……。面倒事にならないのだから、室矢くんとしても大歓迎では?」
何とも、判断に困るな。
まあ、マルグリットを夜の特別交流会で指名しなければ、それで済む話だ。
秘書が、飲み物を運んできた。
校長と俺の前にコーヒーカップとお菓子が添えられ、一礼して出て行く。
パタン
校長の雰囲気が変わった。
どうやら、雑談は終わりのようだ。
「さて、仕事の話に入りましょう……。当校で、不審なことが相次いでいます。その内容が、これです」
簡単に説明した校長は、マチ付きの大きな封筒の玉ひもを
校長を見ると、軽く
教室、廊下、更衣室、クラブハウス、体育館、大浴場、寮のリビング。
それぞれの写真は、赤裸々に女子校の生活を閉じ込めていた。
俺は、術式によって参加しているはずの室矢カレナに、心の中で呼びかけた。
カレナ?
『そうきたか……。これは、厄介じゃ! 重遠、始まった時期とチェックできた数を聞いてくれ。だいたいで、構わん』
脳内通信で指示を聞いた俺は、写真を見ながら、校長に尋ねた。
「校長先生。これが始まった時期と、これまでに確認できた数は?」
「数ヶ月前から、ですね……。確認できた数は、多すぎて分かりません。見つけ次第、風紀委員や教職員、ボランティアの生徒が消していたので……」
俺は、改めて写真を見た。
ヒエログリフのような象形文字を思わせる記号が、刻まれている。
暗記して描くには、少しばかり複雑な図形だろう。
わざわざ自分のスマホの画像を見ながら、それを真似して刻んだのか?
悩んでいる俺の表情を見て、校長が口を開く。
「当校に落書きや流行りがないとは、言いません。しかし、
カレナが、それに答える。
『これは、召喚儀式の一種だ。敷地そのものが儀式場にされている……。以前のコアとなる大掛かりな魔法陣を中心に作用させていた洋館とは、正反対のやり口だな! 広い空間のいたる所に召喚用の文言を刻む他にも、生徒を利用しているはずだ……。試しに、生徒の異常行動を聞いてみろ』
俺はカレナの意見から、話を広げるべく、校長に質問をした。
「何かを召喚する儀式の可能性があります。急に欠席や体調不良になる生徒が増えたなど、気になる点は?」
校長は、感心したような顔に変わった。
どうやら、彼女の中で俺の評価が上がったらしい。
彼女は、女子高生のような顔をこちらに向け、話し始める。
「メンタルケアが必要な生徒が、この数ヶ月で増えています! 最近ではカウンセラーが1人、対応していた生徒に襲われましたね……。幸い、彼女に怪我はなかったものの、ショックから療養中です。交流会の間は、外部の病院にいるはず」
俺は、生徒のほうがどうなったのかを知りたくて、聞いた。
「その生徒は?」
「自主的な休学中で、親元に帰っています……。
襲った生徒に話を聞くことは、無理か。
なら、そのカウンセラーの部屋を調べたいところだが……。
俺の様子から察した校長が、先回りして釘を刺す。
「残念ながら、あなたに権限を渡すことはできません……。もし重大な違反が見つかったら、規則に従って対処しますからね?」
「分かっていますよ」
いざとなったら切り捨てられるから、俺を選んだのだろう。
だが、肝心なことは、ここで確認しておくべきか。
「校長先生……。仮に、この一連の騒動を『良くない存在の召喚』と考えた場合、俺にどうして欲しいのですか?」
「むろん、阻止をしてもらいたいです! 可能ならば、中心的な人物の捕縛も……。召喚の儀式が本当であろうとなかろうと、これ以上の長期化は学校の運営に支障が出てしまいます」
俺は、こちらが行うメリットについて言及した。
「報酬は?」
「私の信頼を得られます。これでも
あくまで成功報酬だが、その代わりに俺が失敗しても責任を取らなくていい、ってことか……。
「そうですね……。俺としても、真牙流にコンタクトを取れるのは嬉しい話です。ただし、この調査で十分な支援がない以上、自分なりに考えて動きます」
「ほどほどにしてくださいね? 人員に犠牲が出なければ、なるべく目を
「最善を尽くします」
打ち合わせが終わったことで、俺がソファから立ち上がると、校長が声をかけてきた。
「室矢くんが呼ばれた表向きの理由は、荷物検査で引っかかったことのお説教です。覚えておいてください……。その物品は、咲良さんに渡してあります! 南乃さんから送られてきた荷物も、あなたの部屋へ運搬済みです。私が認可したので、中身のチェックは行っていません。……そうそう、私の娘もちょうど高等部にいるのですよ? 一度会ってもらえると、嬉しいです。では、よろしくお願いしますね」
「お気遣いいただき、ありがとうございます。ご息女の件も覚えておきます。では、失礼いたします」
俺は、校長室を後にした。
……それにしても、あの人、いったい何歳なんだ?
――― 【1日目 正午前】 応接室
「お帰り、重遠! 待っている間にちゃんと予習をしておいたから、安心してね! はい、これ!!」
笑顔の咲良マルグリットは、俺に3つのDVDを手渡してきた。
どれも、“巨乳” で “学生服” のジャンルだ。
彼女に雰囲気が似ている女優ばかりの。
…………あの校長、バカだろ?
「じゃあ、食事に行きましょう! みんな、待っているから!!」
先に、これを俺の部屋に置かせてくれ。
どこの世界に、女子校との交流会でエロDVDを引っ提げていく奴がいるんだよ……。
『一緒に観賞会でもしたら、どうじゃ?』
アドバイザーの室矢カレナに茶化されたので、やるわけないだろ、と返しておいた。
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