第49話 ベルス女学校における交流会の誘いー②
俺は白洲で裁きを待つ罪人のような気分で、
「なるほど……。そういう流れで、ベルス女学校の交流会を検討してくれと」
「その場で断わると、向こうが
言い訳した俺は、詩央里からの説教や罵倒に備えた。
けれども、彼女は、あっさりと流す。
「若さまにしては、まだ考えているほうですね? 先日の、
「あれも、逃げられなかった結果だがな……」
改めて言われると、すごい話だな。
“お散歩JC” というパワーワードが、ここに爆誕した。
ちなみに、
あいつ、暇なのだろうか?
詩央里はお茶をゆっくりと飲んでから、話を続ける。
「一応、確認しておきますが……。ベルス女学校がどういう場所か、ご存じで?」
「別の流派の拠点だろ? 今回は比較的安全に、それも正当な理由で行けるから、顔を広くするために絶好の機会だと思ってさ……。こちらにメリットがない場合は、普通に1週間ぐらい休学して、自宅でオンライン学習をすればいい話だ」
俺の言葉に、詩央里は、及第点ですね、という顔をした。
「そうです……。あそこは、うちとは違う意味で秘密主義なので、なかなか立ち入る機会がありません。女を口説く目的であれば、尚更……。汎用性が高い
……完全に目が据わっていたのは、指摘しないほうが身のためか。
義妹の
セロリで、香りと深い味を演出。
ホワイトソースに粉チーズを加え、コクを出す。
仕上げに澄ましバターを使い、最後まで香りにこだわる。
詩央里が手間暇をかけて用意した逸品で、チキンなどの具材がいっぱい。
オーブンによって焼かれた耐熱仕様のグラタン皿の上には、美味しそうな焦げ目がついている。
小皿で取り分けた分を頬張っていたカレナは、食べ終わった後に口を開く。
「私としては、すでに詩央里を許しているのだから……。1人増えるぐらい、今更じゃ」
こちらは、詩央里ほどの鬼気迫る感じはない。
ベッドに潜り込んでくる回数が増えていて、俺が寝ぼけてこいつを襲っていないか心配だ。
聞いても、意味深な表情で、ひたすらに恥じらうだけ……。
どこをどうしても、こいつだけは、ずっと俺に付き添う気がする。
「ベルス女学校について、情報共有をしておきましょう。あそこは、
そこまで言った詩央里は自分のスマホを手に取って、いくつか操作をする。
顔を上げて、口を開く。
「実は……。若さまに、先方からのSOSが出ているのですよ。ちょうど交流会があることで、私に話を持ってきたわけですか……」
俺は、思わぬ展開に驚いた。
「どういうことだ?」
「校長から、個人的にコンタクトがありました。どうやら学内で怪しい動きがあるようで、『それを調べて欲しい』とのことです」
嫌な予感がした俺は、詩央里に確認する。
「内部犯行の可能性が高いから、部外者のプロに調査させるわけか……。俺は
「はい。校長も、そのような説明でした」
なんでこう、モブに溶け込んでいる俺に、主人公みたいな話が舞い込んでくるんだよ。
日本の退魔師の大手は、いくつかある。
そのうちの1つが、真牙流。
真牙流は、術式と現代科学を融合させた流派だ。
平たく言うと、手描きをしている千陣流に対して、ノートパソコンを使っている感じ。
その性質から企業との結びつきが強く、退魔師の中で最も現代的な考えを持つ。
俺たちが霊力であるのに対して、真牙流は魔力を使う。
もっとも、カレナたち魔術師とは別の力で、ややこしい。
電子機器のような発動体によって魔法を使うマギクス。
彼らは魔法使い、魔法師とも呼ばれている。
身体強化、氷結などの事象への干渉と、本来の意味でのオールマイティに近い能力だ。
メリットは、適性がある人間を見つけやすく、育成しやすいこと。
デメリットは平均ぐらいの人材ばかりで、他のトップランカーのような実力者には敵わないこと。
それから、専用の装置がないと、基本的に魔法を使えない。
千陣流が表向きの身分がないのに対して、マギクスは公的な立場で身分証明書を持つ傾向にある。
うちのように古臭い修行だと、素質があっても逃げ出すからなあ……。
真牙流は、お手軽に魔法使いになれることで、けっこう人気がある。
しかし、あいつらが戦っている敵の1つに “異次元からの侵略者” がいて、殉職率がそこそこ高い。
原作の【
「カレナは、どうだ?」
俺が尋ねると、カレナは否定した。
「今回は、
「それは……。正直、キツいな」
千陣流は、自分の式神を戦わせる流派だ。
俺の唯一の式神であるカレナを取り上げられたら、ルーとご飯のないカレーだ。
福神漬けとラッキョウを眺めるしかない。
「私を召喚することも、ギリギリまで避けろ……。無茶を言っているが、今回は一筋縄ではいかんぞ、重遠」
いよいよ、本当の意味での退魔師デビューか。
食後の団らんで、ごそごそと
伝説の聖剣のように高々と掲げて、宣言する。
「この未開封の『薄々mm』の箱を持って行け……。必ずや、お主の助けとなるであろう!」
「バカだろ、お前? そもそも、どこから持ち出してきたんだよ?」
俺はすかさず、突っ込みを入れた。
だが、カレナは大真面目な顔で、重々しく続ける。
「防具はちゃんと装備せねば、効果がないぞ、重遠!」
「お前、もう黙っていろよ……」
俺は、悪ノリをしている義妹に言い返した。
「あのなあ……。女子校の持ち物検査で見つかったら、どう思われるんだよ?」
「愚問だな、重遠……。やる気がある男子だと、高く評価されるに違いない」
まったく、こいつは……。
「やる気満々ということですか。……女子校だけに」
俺とカレナは、聞こえてきた声の方向に、思わず振り向いた。
そこには、思わず手で口を押さえつつ、顔を背ける詩央里の姿が……。
この流れに釣られて、思わず口にしてしまったようだ。
詩央里が、脈絡もなく、質問をしてきた。
「そういえば、若さま……。男子バスケ部で、マッサージをしたそうですね?」
「ああ……。おかげで、面倒になったものだよ」
俺の返事に対して、詩央里は何かを期待しているように、ワクワクしている。
「あー! 私、疲れたなー」
へー、最新型のパソコンが出たんだ。
もっと貯金があったら、すぐに買い替えるんだけど……。
「つー、かー、れー、たー、なあー!」
…………しつこい。
「相手をしてやれ、重遠……。うるさくて、かなわん」
カレナがうんざりした表情で、催促してきた。
「はいはい……。詩央里、マッサージしてやるぞ。ソファで、横になれ」
「お願いします!」
バスンと擬音がつきそうな勢いで、詩央里がソファにうつ伏せになった。
靴下を脱いだ足を曲げて、パタパタと振る。
「では、私は帰るのじゃ」
「あれ? カレナは、もう自宅に戻るのですか?」
カレナの突然の帰宅宣言に、詩央里は思わず問いかける。
「お主は、見られながらマッサージされるのが、好みか?」
「い、いえ……。別に、そういうわけでは」
不思議そうに返事をする詩央里に構わず、カレナはとことこ歩く。
「今日は、アニメ映画のテレビ放送がある……。私には、スレで実況する仕事が待っているのじゃ」
独白したカレナは、まっすぐに自宅へ帰った。
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