第六話 時々ホントにこの人俺の従者なのかなと思う。
〜 転生2日目:ダンジョン内 六合邸庭園 〜
「うぶっ……ぎもぢわり゙ゅい゙…………!」
頭がガンガンして目眩がする。
身体は重いし吐き気もしてきた。
「それが魔力切れの症状です。人間ですと魔力切れの瞬間気絶してしまいますが、マスターは魔力の扱いに長けたアークデーモン種です。不快かもしれませんが、そうしている今この時も、魔力器官である角が周囲の魔素を取り込み、魔力に変換して回復しています。
永い時を経た上位の悪魔や魔人にもなると、魔力切れを起こしても戦いながら回復し、脅威の継戦能力を誇ると言います。つまりは、その症状も慣れてしまえばどうとでもなるということです。」
うーむ……こんな感覚にはあんまり慣れたくないなぁ……
しかし、魔力を上げるため、魔力器官を鍛えるためには魔力切れするまでとにかく魔力を使いまくるのだ! とアネモネ先生のご指導があったワケで。
一晩休んだ身体は調子は良いのに、魔力が減るにつれて怠くなってくるのはなかなか精神的にもクルものがあるね。
「症状は落ち着きましたか? それでは魔力が回復するまでは体術の訓練をしていただきます。目標は私に対し掠るだけでも良いので、一撃加えることです。私の攻撃は寸止めさせていただきますが、マスターが何度死亡若しくは致命傷を負ったかはカウントし、後ほどお伝えします。」
模擬戦ってことか。
向こうは寸止め、こっちは本気の形式。
きっとそれでも余裕なんだろうなぁ。
一応空手は有段者だし、お遊びでだけど色んな拳法の真似事もしたことはあるんだけどな……
まあいいか。
前世での経験と今のこの身体。それに【格闘術】Lv3でどこまでやれるか、存分に胸を借りて試させてもらおう。
まあなんで転生2日目にしていきなり訓練を始めたかと言うと、昨日方針を決めた後に、アネモネと一緒に行動計画を立てたからなんだけど…………
◆
〜 昨日夜:六合邸 リビング 〜
「行動計画を立てましょう、マスター。」
アネモネが用意してくれた食卓に着き夕飯を一緒に食べていると、彼女がそんなことを言ってきた。
いや、このご飯ヤバいよ。めっちゃ美味い。胃袋掴まれた。
高級レストランで金取れるレベルよ?
流石は【
「行動計画? もう方針は決めたよね? なんでわざわざ?」
首を傾げる俺。まあ自分でもあまり具体性は無いかなぁ〜とは思ってはいるが……
「理由は、未だマスターに力が無いからです。勿論私も尽力致しますが、周辺を取り巻く環境は中々に予断を許さない物ばかりです。いつか私に限界が訪れた時、力無きマスターを待つのは死、のみです。
ですので出来るだけ早期の内に、マスターの成長、ダンジョンの強化拡張を推し進めねばなりません。そのためには、あまり時間を無為に使う訳にはいかないのです。」
背筋を伸ばして真っ直ぐに此方を見詰めるアネモネ。
その瞳には強い意志と揺れる不安、両方が見え隠れしているような気がする。
心配、してくれてるんだな。
「ぐうの音も出ないな。アネモネの言う通りだよ。考えの足りないことを言って済まなかった。」
しかし計画か。
仕事で介護計画なら何度も立案したことはあるけど、そんな感じで良いかなぁ?
「それじゃあ、ケアプラン形式の計画で良いかな? それなら慣れてるから、なんとか形には出来ると思う。」
俺の提案に頷くアネモネ。
助言や補足は彼女に任せ、残りの料理も美味しく頂戴して、計画立案に乗り出したのだ。
◆
〜 現在:六合邸庭園 〜
「ぜぇぜぇ……ゲホッ、ゴホッ……!」
な、何も言えねぇ…………
うん、無理! 当たらん!!
芝生に寝転がって息を乱す。
いや、こんな無様を晒してるけど頑張ったんだよ?
「先程までで、マスターの死亡回数は124回、致命傷を受けた数は286回です。」
息すら乱れてないよこのメイドさん……!
そりゃ空手は有段者だがブランクあって、あとは拳法やらシラットやらは見様見真似だったけどさ……
一応実戦経験も何度かあったんだけど……はぁ、自信無くすわ〜。
「マスター、そんなに気落ちしないで下さい。確かに終始私が圧倒していましたが、中には3度ほど危うい攻撃もありました。そもそもレベル差がこれだけあったのですから、妥当な数字かと思われます。」
ホントに……? 気ぃ遣ってない?
「それにしたって、まさか掠りも出来ないとはなぁ……それだけ前世での実戦(喧嘩)が温かったってことか……? 明らかに身体のキレやら体力も上がってたんだけどな。」
所詮喧嘩は喧嘩ってことか。
それに死亡回数も致命傷の数も、俺が把握出来た数よりも圧倒的に多い。それはつまり、気付く間もなく何度も死んでいたってことだ。
「ノン。マスターの体術の技量や実戦での駆け引きは、此方の世界でも充分に通用するレベルです。それは【格闘術】スキルがLv3であったことからも明確です。」
違うらしい?
そういえば、初期ステータスにも関わらず【格闘術】スキルだけは高かったな?
「一概には言えないのですが、この世界【アストラーゼ】における兵士、軍人、冒険者のレベルにおいて、【格闘術】や【剣術】などの戦闘補正スキルの平均レベルがLv3なのです。
騎士や部隊長などでLv5〜7ほど。将軍や騎士団長など化物と呼ばれるような者でも、Lv10にまで至れるのは極僅かです。一般人で喧嘩の腕を自慢しているような輩では、せいぜいがLv2程度ですね。中には本当の強者も居るかもしれませんが、マスターが仮に街へ行って喧嘩になったとしても、充分に渡り合えると断言できます。
重ねて言えば、マスターの体術は技術体系を確立された本物の格闘術です。スキルに頼って力任せに戦うような輩など、圧倒できるでしょう。」
…………マジか。
チンピラがLv2、一兵卒がLv3、隊長格が高くてLv7か。
で、同じレベルでもスキルに左右されない技術を持った方が強いと。
確かにそれを聞ければ自信にはなるな。
なるん……だけど……!
「つまり、それでも掠りも出来ないってことは、レベルとステータスが圧倒的に負けてるってことか……」
そう。それだけ持ち上げてくれてても掠らせもしてくれなかったからね、このメイドさん。
「マスター、それは仕方がないことです。戦闘スキルはあくまでも補正です。特に私は敏捷性に特化しておりますので、特別戦闘スキルを持たずとも回避し、致命傷を与えることは可能です。」
俺落ち込んじゃう……!
いや、レベルも圧倒的で、しかも本人も護衛って言っている時点で戦えるし強いのは分かってたんだけどさ……!
「マスター、そんなことよりそろそろ昼食の時間です。私は支度をしてきますので、今の戦闘中に回復した魔力を全て消費してから、ダイニングへお越しください。」
そんなことって言われちゃったよぉーー!!
うん、気にするのはもう止めよう。
アネモネは強い! アネモネは先生! アネモネはかわいい!!
うん、それで良いじゃないか!
◇
〜 昼:六合邸ダイニング 〜
魔力を再び使い切り、フラフラしながら家に入る。
手洗いうがいを済ませ(大事だよ!)、ダイニングテーブルの席に着いて昼食を待つ間、ステータスを確認する。
名前:マナカ=リクゴウ 種族:アークデーモン
年齢:0歳 性別:男
Lv: 8 性向:28
HP:162/162 MP:5/421
STR:221 VIT:193
AGI:262 DEX:204
INT:433 MND:395
LUK:48
称号:【転生者】【迷宮管理人】(見習い)【
固有スキル:【全言語翻訳】【
【魔物創造】Lv1【百鬼夜行】Lv1
スキル:【鑑定】Lv2【感情感知】Lv2【魔力感知】Lv3【魔力制御】Lv4
【魔力吸収】Lv2【格闘術】Lv4
【HP自動回復】Lv2【MP自動回復】Lv2
魔法:【身体強化】Lv3【念話】Lv1
【飛行】(封印中)【固有土魔法】Lv2
【固有火魔法】Lv1
加護:【転生神の加護】
レベルめちゃ上がってるんですけど??!!
「先生ー! アネモネ先生ー!! なんかレベルが7も上がってるんだけど、なんでーッ?!」
ちょうどワゴンに料理を載せて運んで来たアネモネ先生に訊ねる。
訊ねたの、だが。
「もうステータスを確認したのですね、マスター。勤勉なのは良いことです。ですが、料理が冷めてしまいますので、お話は食事を摂りながらにしましょう。」
にべも無く配膳を進めるマイペースなメイドさんでした。
本日の昼食は、イタリアンなトマトソースのパスタ、照り焼きチキン、野菜たっぷりなサラダ、それとコンソメスープだ。
チーズのブロックをすりおろし、パスタに掛けてくれてから、アセロラのジュースかな? 赤い飲み物をグラスに注いでくれ、自身の物も同じようにしてから対面の席に着く。
いただきますと挨拶をし、食事に手を付ける。
うん、やっぱり美味い……!
訓練で疲れた身体にも食べ易い、さっぱりした味付けのパスタがたまりません!!
「それで、マスター。レベルが上がったことに随分と驚いていたようですが。」
料理に舌鼓を打つ俺に、自分のチキンを切り分けながら声を掛けてくるアネモネ。
おっといかん、美味しい食事に夢中で忘れてたよ。
「そうそう、今見たらLv8になっててビックリだよ。ステータスも軒並み上がってるし、なんかスキルも増えてたし……」
そう、ステータスは軒並み倍近く、スキルも増えていたし、上がった物もある。
「何も不思議なことではありません。レベルを上げるために必要なのは、経験と共に魔素を取り込むことなのですから。格上との戦闘訓練は、得る経験が多いものです。そして濃密な魔素の溢れる
つまり、魔素が豊富なダンジョンで、格上のアネモネとみっちり戦ったことで戦闘経験を得たと同時に魔素が取り込まれて、身体が経験に見合うよう造り変えられたらしい。
「とはいえ、魔物や魔獣と戦い勝利し、死した相手から発せられる魔素を取り込む方が効率が良いのは確かです。通常、訓練ではそこまで効率的なレベルアップは望めませんので。ですが、マスターは魔素吸収能力に長けたアークデーモンですので、効率的に魔素を取り込んだ結果急激にレベルが上がったのだと思われます。」
レベルアップひとつにも色々あるんだな……
ってことは、このままアネモネと訓練を続ければ簡単にレベル上げが叶うってことか。
安全なダンジョン内でスタートダッシュを決められるって良いよね!
「マスター。確かに私との訓練でもレベル上げは可能です。ですが、やはり実際に命のやり取りもある実戦を経験なさった方が、より効率的に戦力向上が叶いますし、何より心の成長に繋がります。」
ツッコまれてしまった。
だがそれもそうだ。命の危機の無い温い訓練では、どうしても鍛えられない物もある。
何より命のやり取りに躊躇せず行動できるような心構えすら、まだできていないんだし。
楽ばっかりしてちゃダメってことだな。
「納得していただけたようで良かったです。それからマスター、スキルについても説明しておきますね。この世界に於いてスキルとは、技能に補正を与える物と考えてください。
例えばマスターの【格闘術】スキルであれば、戦闘における呼吸の補佐、血流の補正、体幹の維持、瞬発力の上昇、耐久力の向上などです。それらの恩恵を総称して、スキルと呼ぶのです。ただし先程も申し上げた通り、拳法や術理などの技術は、飽くまで本人の知識に依存しますので注意して下さい。
スキルの取得方法についてですが、簡単に説明しますととにかく繰り返し訓練する、という方法しかありません。
例えば【剣術】スキルを取りたければ、ひたすら素振りをする、型をなぞる、打ち合うなどというように、それに関わる行動を繰り返すことで、適正が有ればスムーズに取得出来るはずです。仮に適正が無くとも、弛まぬ努力を続けていれば取得の可能性はゼロではありません。
事実この世界には、適正が無いため冷遇されていたある少年が、生涯剣を振るい続け、晩年には飛竜を一刀のもとに葬った、という剣聖の伝説もあります。
例外としては、種族固有のスキルが挙げられますが、これらはその種ならば当たり前にできることがスキルに昇華された物ですので、そこまで気にしなくても良いでしょう。」
そう締め括り、食べ終えた食器を下げ、キッチンへと運んで行くアネモネ先生。そのまま魔法を使ってものすごい速さで洗い物も乾燥も終えてしまう。
なるほどね。
先の戦闘訓練で身体のキレが良くなってるように感じたのは、スキルの恩恵だったのか。
「さて、マスター。レベルも上がったようですので、午後は早速実戦を経験していただきます。私は準備を整えてきますので、庭にてもう一度魔力を消費しきってから、玉座の間までお越しください。」
そして少ししてから。
魔力切れの症状にフラ付きながら――それでも最初よりはマシになったが――玉座の間に辿り着いた俺。
そこで俺の視界に飛び込んできたのは、見渡す限りの
「マスター、お待ちしていました。取り敢えずの訓練用として捕獲してきました、ゴブリン200匹です。最初は一体を、慣れてきましたら徐々に数を増やして参りますので、ペース配分に注意して戦ってください。では、始めますよ。」
ははは……
これ、訓練終わるまで生き残れるかな…………?
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