第二話 くっ! 奴の魔の手がこんな所にもっ!?


 玉座の間に到着早々死にかけた俺だったが、何とか身体と心を落ち着かせることに成功した。


 そして延ばし延ばしになってしまっていた第一異世界人? と改めてご挨拶だ。


「ノン。正確には、異世界に到着して初めて邂逅した人物でございます。私はそもそもこの世界で産まれた訳ではございません。」


 はい、その通りでございますね。

 なんか、このメイドさんに勝てる気が全くしないよぉ……


「あー、まあ開幕色々あったせいでまだキチンと挨拶もできてなかったからな。改めて、六合真日りくごうまなかだ。


 今生ではアークデーモンとして、ダンジョンマスターになるためにこの世界に転生させてもらった。よろしく頼む。」


 俺を主と仰ぐのならば、あまり堅苦しくない方が彼女も気が楽だろう、と素の口調と態度で語り掛ける。


「ご丁寧にありがとうございます、ご主人様マスター。改めまして、ご主人様マスター専属使用人、兼補佐助言役を仰せつかりました、【アネモネ】でございます。


 ホムンクルスではありますが、スペック・耐久性等アークデーモンにしてダンジョンマスターと成られるご主人様マスターにいつまでも付き従えるよう、調整されておりますので、どうぞ幾久しく、大願成就為されるまでお使い頂けますよう、よろしくお願いいたします。」


 カーテシーって言うんだっけ……?

 映画や物語の登場人物……それも貴族令嬢がするような、優雅な一礼での自己紹介を頂きました。


 うん、自然と背筋を伸ばされるというか、しっかりしなきゃダメだなって雰囲気を感じてしまう。


「ところでその……そんなに畏まった話し方はやめて貰えないか? 俺はそんなに遜られるような人間……じゃねぇアークデーモンじゃないし、緊張して息が詰まりそうだよ。


 立場上そうせざるを得ないって言うんであれば無理にとは言わないけど……出来ればもっとフランクに、気軽に接して欲しい。


 あとそのご主人様呼びだけはなんとかしてくれないか?君みたいな女性にそんな呼び方をされてしまうと……勘違いしちゃいそうで怖いんだ。」


 うん、実に四年と半年振りの女性とのやり取りだしな。


 お店のスタッフやキャストとは違うのだよ!

 しかもこの娘はこれから長い付き合いになりそうだし、できるだけストレスフリーに振る舞うのがお互いのためだと思うんだよ。


 ん?幼女ククル


 …………あんなのはノーカンだ、ノーカン!!

 俺弄られてただけじゃねーか!


「……それでは、口調は少々崩させていただきます。ただし、公に振る舞う必要のある際には立場を優先させていただきたく思いますが……」


 うん、まだ丁寧過ぎると思うが、まあ立場上仕方ないだろう。

 了解の意味で頷いて見せる。


「それから呼び方なのですが……選んでいただけますか?」


 ほう、選択制ですか。


「①【マスター】、②【六合様】、③【主様】、④【旦那様】、⑤【ヨウジョスキー様】、⑥【ミギオパーイ・ハレルヤ様】――――」


「いや、⑤と⑥ううぅぅぅーーーーーーーーーッッ!!!!!!!」


 既視感デジャヴュ?! 既視感デジャヴュなのかな??!!


 あの幼女かみさまといい、このメイドアネモネさんといい、俺をどうしても貶めて辱めたいの??!!


「申し訳ありません。転生神ククルシュカー様より、『やっぱり【六合】だから何かを選ばせてあげる時は六個は選択肢を拡げてあげてねー♪』と仰せつかっていたもので。


 そして⑤と⑥の選択肢を提示する際に思考演算領域にノイズが発生し上書きされました。恐らくは転生神ククルシュカー様による条件発動式誘導機能【視えざる神のお手♪ 機能】が発動したものと思われます。」


 いや六合だから六個はいいよ! そこはなんとか納得するよ!!


 でもやっぱり幼女あいつの悪意しかねーじゃねえかよおおぉぉぉ!!!

 何が【視えざる神のお手♪ 機能】だよおぉぉ!!??


「それで、呼び方はお決まりになりましたか?」


 あぁんマイペースぅー。


「あー、俺としちゃあ出来れば名前で呼んで貰いたいんだが……」


「ノン。それは承服致しかねます。使用人が主の名を呼ぶなど、有ってはならないことです。」


 即答かぁ〜。まあ、これも立場が立場だから仕方ないか……

 とすると②の苗字呼びだが、これはこれでまた弄られるフラグの恐れがあるな……


 そうすると……


「分かったよ。それじゃ、①のマスター呼びで頼むよ。どっちみちダンジョンマスターになる予定なんだから、今からマスターって呼ばれ慣れておこう。」


 ……ちょっと苦しいかな?

 でもまあ、様を付けられたり、主とか旦那とかよりは距離感も近い気がするんだよね。


「承知致しました。それではこれよりは、マスターとお呼びさせていただきます。…………ところでマスター。⑤は概ね理解出来るのですが、⑥の呼び名候補に関して、謂れをお訊ねしても宜しいでしょうか?」


「うん、ぜっっっっったいに!! ダメだ!!! あと⑤も概ねでもしっかりでも理解しないでぇ!? そんな嗜好持ってないんだからああぁぁッッ!!!」


 あの幼女かみさまはほんっとに碌でもない事しかしねえなぁっ!!!


 今度飲む時覚えてやがれよちくしょうめ。


 何十年、いや長命種だと何百年か?

 意地でも覚えててやる! そして絶対に復讐してくれるわっ!!


「承知しました。詮索は控えるようにします。きっと私如きでは及びもつかない深い事情があるのでしょうね。それでは一先ず、現状を把握していただきます。手始めに各種ステータスを確認してみましょう。


 先ずは私を視ながら【鑑定】と念じてみて下さい。アクセスを許可しておりますので、私のステータスが閲覧出来るはずです。」


 おう、マイペースにチュートリアルが始まってしまったね。

 そして【鑑定】か。これも異世界のお約束だよね。


 では早速……


(【鑑定】。)



 名前:アネモネ 種族:ホムンクルス

 年齢:0歳 性別:雌雄同体(現在:女)

 Lv: 50 性向:0


 HP:1238/1238 MP:1807/1807

 STR:749 VIT:998

 AGI:1670 DEX:1712

 INT:1801 MND:1526

 LUK:498


 称号:【真日の従僕】【完璧な使用人パーフェクトメイド


 固有スキル:【家事の心得】Lv5

【明鏡止水】Lv5【叡智】Lv5


 スキル:【鑑定】Lv5【高速思考】Lv5 【気配感知】Lv5【危機察知】Lv5

【魔力感知】Lv5【魔力制御】Lv5

【調合】Lv5【料理】Lv8【清掃】Lv8

【裁縫】Lv8


 魔法:【火魔法】Lv5【水魔法】Lv5

【風魔法】Lv5【身体強化】Lv5【加速】Lv5【念話】Lv5



 ほうほう。ゲームみたいなステータスだな。まあ、こっちの方が解り易くて助かるけどね。

 っていうかLv50って高いな!?


 固有スキルもスキルも魔法も軒並みLv5かぁ。家事関連はLv8もあるし、多分この固有スキルの【家事の心得】とシナジー有りそうだしヤバいな。


 上限はLv10かな? 上位化も有りかも?


 そして……悪意が溢れてるよねぇ。


 なんなの、性別雌雄同体って!?


 確かに人工(神工?)生命体だから好きには弄れるだろうけどさぁ……女性ってだけでいいじゃんよー。男でも女でもってなんでだよぉ……

 ほんの少〜し、ちょび〜っとだけ期待してたのにいぃぃ!!


「確認はお済みですか? 何か気になる箇所でもございましたか?」


 おっと、我に返る時間だ。


「ああ、ごめん。色々考えちゃってたわ。ていうか、Lv50って凄いよね。これもククルが?」


「肯定です。指南役並びに護衛役も仰せつかっておりますので。ですが恐らく、マスターの成長如何によってはすぐに足を引っ張ってしまうようになるかもしれませんが……」


 あ、ちょっとだけシュンとしてるような……?

 初めて感情を表に出したとこ見たなぁ。


 でも、この表情は出させちゃダメだよな。


「そんなことないさ。助言に補佐に支援に家事に。逆に世話になり過ぎて申し訳なくなっちゃうよ。だからさ、戦闘に関してと、俺の得意分野に関してくらいはさ、俺に頑張らせてくれよ。」


 ちょっと怖いけど(お仕置機能が)、髪を乱さない程度の優しさで頭を撫でてみる。うわっ、髪サラサラで柔らかっ!


 暫し呆けたように俺を見上げていたアネモネは、ハッとしたように三歩後退り、頭に両手を置いて少し俯いてしまった。

 そして先程までのよく通る声と比べるとかなり小さな声で。


「はい。私も頑張ります。」


 表情は見えていないけど、口元は笑みの形になっているように見える。うん、良かった良かった。

 お仕置機能も作動しなかったし、どうやら疚しい気持ちが無ければ条件は満たされないみたいだな!


「それでは、今度はマスターご自身を鑑定してみて下さい。自分を鑑定する場合は、自身の身体の何処でも良いので視ながら行えばできます。」


 いよいよだな。やべぇ凄く楽しみだ……!


(【鑑定】!!)



 名前:マナカ・リクゴウ 種族:アークデーモン

 年齢:0歳 性別:男

 Lv: 1 性向:25


 HP:12/96 MP:208/208

 STR:115 VIT:101

 AGI:122 DEX:125

 INT:210 MND:184

 LUK:48


 称号:【転生者】【迷宮管理人】(見習い)【弄られし者フールアクター


 固有スキル:【全言語翻訳】【無限収納インベントリ】【魔法創造】Lv1【魔物創造】Lv1【百鬼夜行】Lv1


 スキル:【鑑定】Lv1【魔力感知】Lv1【魔力制御】Lv1【格闘術】Lv3


 魔法:【身体強化】Lv2【念話】Lv1

【飛行】(封印中)


 加護:【転生神の加護】



 おおおおーっ!? これ、Lv1にしては高くないか?!


 HPとLUK以外は三桁だし、アネモネがLv50で四桁だったから、なかなか幸先の良い初期ステータスじゃないか!

 MP、INT、MNDが高いのは種族特性って奴かな?


「私も鑑定させていただきますね。……素晴らしいステータスです! 流石マスターです!」


 おお、アネモネさんも若干興奮気味かな?

 マスターとして合格点は貰えたみたいだ。


 あと気になるのは……性向と、この見習いってのと封印中ってのだな。

 教えてアネモネさーん!


「性向というのは、簡単に申しますと善悪の天秤です。善なればプラスに、悪を為せばマイナスに傾きます。マスターの性向は現在25ですか。これは生来の資質か、先程までの行動で傾いたようですね。-15以上に悪に傾くと、犯罪者と見なされますのでご注意ください。


 見習いとは、文字通り管理人の見習いということですね。ダンジョンをある程度まで発展させることが出来れば、自然に外れる筈です。見習いが外れることで解放される能力もあるそうです。


 封印もそのままですね。条件を満たさない限りはこの能力は使えないということです。恐らくはLvが上がるか、ステータスを規定値まで上げれば解除されると思われます。」


 なるほどねぇ。あとはHPが瀕死に近いとか、LUKだけ他と較べて異様に低いとかも気になるけど、こんなところかな。


 うん、称号の【弄られし者フールアクター】には絶対突っ込まんぞ俺は!! 絶対にだッッ!!!


「OK。だいたい把握できたよ。項目の詳細も更に鑑定すれば詳しく観れたし、ステータスを参考にしながら訓練していけば効率は良さそうだな。そしたら次は? 何をすればいいのかな?」


 なんだかいよいよ異世界に来た! って感じだな。気分が高揚してくるのを感じるよ。


「はい。そうしましたら、次は、入浴していただきます。」


 …………はい?



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