ポジションはセンターベンチ
自分のポジションはセンターベンチだ。センターフォワードでもセンターバックでもなくセンターベンチなのだ。
つまり、いつもベンチの真ん中に座っているのだ。それが自分の定位置だ。一度も試合には使われたことがない。
だからスターティングメンバーの経験もないし途中出場の経験もない。もはや最もベンチ外の存在に近い人間なのだ。
それでも自分はずっとベンチの真ん中を座らせてもらっている。
「ふむふむ、みんな頑張って走ってるね」
動かざること山の如し。センターベンチのポジションを温め続けてもう何年も経っている。
最初は試合に出れない焦燥感などもあったが、最近はそんな自分に慣れてきてしまった。
ここが最も自分のいるべきポジションなんだと納得してしまったのだ。自分は誰よりもセンターベンチが似合うのかもしれない。
センターベンチの良いところは誰よりも試合がよく見えると言うことだ。観客席よりかは間違いなく試合を良く見ることがで出来る。
「いいぞ! なかなかやるではないか! ガハハ!」
自分は、もはやチームメイトの試合を見るためだけにサッカーをやっているのかもしれない。
本当に情けない話だが、もう自分はサッカーの道を諦めてしまっているのだ。毎日センターベンチで自分はチームの秘密兵器なのかもしれないと思っていた時期もあったけれど、監督には使われそうなそぶりは全くない。
もはやただの置物と化しているのだ。自分は幸運の招き猫かなんかなのだろうか?
ただ、幸運の招き猫だったらチームの勝利には貢献しているので、それでも良いのかなと思う。
「アハハ、試合見るのおもしれ」
もう試合に出れなくて悔しいという気持ちはとうに忘れてしまった。最近はセンターベンチであることを誇りに想っているほどだ。
このポジションだけは誰にも渡したくはない。自分は変な方向にプライドが偏ってしまったのかもしれない。
センターベンチを守るためにそのままスポーツを続けるなんておかしな話だ、普通はスポーツを本気でやるんだったら、誰だって一番を目指さなくてはならない。
だが自分はこのセンターベンチを守るためだけにスポーツを続けている。確かにこんな不名誉なポジションをずっと守っていたって意味はないのかもしれない 。
それでも自分はセンターベンチを続けてしまう。もしかすると自分はセンターベンチの悪魔に取り憑かれて呪いをかけられてしまったのかもしれない。
とりあえず自分はこれからもセンターベンチというポジションを守り続けて、1年後も1年前とは何ら変わらない人間になっているだろう。
「お前、試合に出て見る気はないか?」
「え?」
突然のことだった。いきなり監督から途中出場の打診をされた。周りのベンチもビックリしてざわついている。
だが自分は悩むことなく即答する。
「嫌です!」
「え?」
自分のサッカー人生はこうして幕を閉じた。
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