ファントムフィッシュとファントムオールドマン
変なヨボヨボの老人が村にやってきた。
「みんな、とうとうワシは幻の魚を釣り上げたぞ!」
「え?」
老人が村のみんなに幻の魚を釣ったというが誰もこの老人のことを知らなかったのだ。
一体どういうことなのだろうか?
……………………………………
ある時、青年が幻の魚を釣り上げてやるぞと躍起になっていた。もちろん幻の魚というのは滅多に釣れるものではないからこそ幻の魚と呼ばれているのだ。
「俺が絶対に幻の魚を捕まえて来てやるぞ!」
「さあねぇ、そもそも幻の魚なんておるんかねぇ?」
幻の魚は本当はいないんじゃないのか?という人まで現れる。そのくらいになかなか目にかかることが出来ないのだ。
もしかしたら既に絶滅してしまっていたのではという声もある。その幻の魚はファントムフィッシュと名付けられた。
「クソ! 村のやつら見てろよ! 俺が絶対にファントムフィッシュを釣って存在することを証明してやる!」
青年はファントムフィッシュを釣るために来る日も来る日も湖に行っていた。しかし毎日湖に行って釣りをしてみるもののピクリともファントムフィッシュが釣れるような気配はないのだ。
「釣れないからなんだ! このまま帰ったら村のやつらに笑われるだけだ。負けてたまるものか!」
青年はなにくそという気持ちで毎日ひたすら湖に通った。本当は遊びたい盛りのはずなのにすべての時間をファントムフィッシュを釣り上げるために捧げたのだ。
「俺はファントムフィッシュが釣れるまで村には帰らない!」
村のみんなに最後にそう言い残してそれっきりとなった。そして湖でずっとファントムフィッシュが釣れるのを待つことにした。
雨の日も風の日も雪の日もひたすらに待ち続けた。そしてある時、この青年は釣竿持ったまま眠りにつく。
腕だけは感覚を残して、他の部分は睡眠に入ったのだ。頭に肩に鳥が止まろうが気づかないほどに寝ていた。
青年が動かなくなってから何年も時が過ぎ去った。そしてその腕のみの感覚を残してひたすらに待ち続けた。
そして青年が眠ってから100年ほどの時が流れたのだった。青年が気がつかない間にほとんどの村の人は死んでしまったのだ。
いつしか青年のことなんて誰も知らない子孫達に村は世代交代をしていた。
……………………………………
そして数百年経った時のことだった。青年だった老人はとうとうファントムフィッシュを釣り上げた。
「よっしゃー! やっとファントムフィッシュを釣り上げたぞ! これでやっと村のみんなに自慢してやることが出来る!」
老人は村のみんなに自慢をするために数百年の時を越えて村へと帰るのであった。
「みんな、とうとうワシは幻の魚を釣り上げたぞ!」
「え?」
そうなのだ。もう誰も元青年のことを知っている人なんていなかった。かなり時が流れてしまっていたのだ。
そしてみんな誰もファントムフィッシュなんて興味がなくなっていた。それどころか、みんな今はかなり快適な暮らしをしていて元青年だった老人はかなりビビッていた。これこそ幻だと。
そして村の人達もその後、老人の実年齢を知ってビビったのであった。その老人はファントムオールドマンと呼ばれることとなった。
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