第11話 蝶の剣ーエルーマ

使い手の力になる。それが武器に課せられた使命だ。

だが、私の使い手は私を必要としなかった。手に持った途端、私をへし折ったのだ。何度も、何度も、それを繰り返すだけで勝利を導いたのだ。

それがあまりにも強すぎたのだろう。私は表舞台から追放されてしまったのだ。使い手には何のお咎めも無しに。


…武器としての使命、果たしたかったな…


……………

「俺は『蝶の剣ーエルーマ』を発動。」

先程引いたカードを空に掲げる。

「このカードを装備したクリーチャーは攻撃力が300ポイントアップする。」


「笑えますねぇ。そんな上昇値では私たちに敵いませんよ。」


「あんた、『ゲームでのルールは存在しない』って言ったよな?」

「こっちも好き勝手やらしてもらうぜ。」

シュ!

俺は鮭に向け、思いっきりカードを投げた。

空に上がったカードは細身の剣に変身し、鮭を狙う。


ビチッ!

鮭は空気を蹴って逃げようとしたが、

グサッ!

剣は軌道を変え、鮭の横腹に突撃した。

ダラァ…

刺さった場所から血が流れる。効果はあったようだ。


「ウェポンを…投げた!そんな事ありえるのですか?」


「今見ただろ。あんたの目は節穴か?」


「ぐっ…」コシコシ


ベルガは長いまつ毛を整えている。そういう意味ではないのだが…


「今のは『ウェポンを相手に突き刺す事で上昇値分の攻撃力を下げれる』と考え、実行に移したのですね。…素晴らしいです。凡人には思いつかない方法でしょう。」

「ですが、ウェポンはあの一振り、タイラントキングサーモンの攻撃力も300しか低下していないようですし、私の守備力もあなたを上回っている。あなた、もう終わりですね。」


「…今の言葉、そっくりそのまま返すぜ。」ニヤ

俺は両手を握手をする様に重ねた。上にした左手を斜め下に下げる。

シュィィィン

すると淡い翠の光を放ち、エルーマの刀身が現れた。よし、予想通りの結果だ。


「エルーマのもう一つの効果。このカードが破壊された時、墓地のこのカードを手札に戻す。」

「つまり、弾はいくらでもあるんだぜ。」


「なんですと!破壊されていないのに効果を発動するとは無茶苦茶ではありませんか!」

ベルガはすっかり取り乱している。


「ウェポンが破壊されるとはどういう事だか分かるか?」


「そのままの意味では?」


「俺はこう解釈したのさ。『武器としての使命(きのう)を為さなくなった時』てな。その腹に突き刺った剣は返り血で汚れ、そのままでは武器としての意味を成さない。破壊される事と同義って訳だぜ。」


「覚悟しな!」シュシュシュ

俺はひたすらに剣(エルーマ)を投げ続けた。剣の方も慣れてきたのか、戻ってくる速度が格段に速くなっていく。


「ば、ばかなぁ〜」グサグサグサァ!

最初は抵抗出来ていたものの既に剣を追えていない。

「必殺『エンドレスエルーマ』!」

ボガァァァン


「ああ…私が負けるのですか…」ボタ…


鮭の腹に12本。

ベルガの頭に10本。

エルーマの活躍で敵は完全に無力化した。


「ふふふ。面白いですねあなた。私の頭脳を遥かに超えてくるとは…」


「冥土の土産に持しとくけどよ、頭脳より、経験の方が大切だと思うぜ。」


「じゃあな。俺はキルザークで攻撃!インフィニットラッシュ!」

「⬛️⬛️⬛️⬛️!」

キルザークの連撃をくらい、ベルガは爆散した。

「…面白い決闘だったぜ。」

まるで、カードゲームの駆け引きみたいでどきどきする戦いだった。

奴が悪人で無ければ語り合えそうな気がするくらいだ。


「やったー!」


手に握っていたカードからから声が響く。

かと思えば、宙に飛び出し光を放った。

「お役にたてて良かった。」

光の中から現れたのは動きやすそうな軽装に身を包んだ女性だった。俺はその姿に見覚えがある。


「ガーディアン・エルーマ?」


「そうだよ。今使ってくれた剣。その守り手をしているんだ。」


「ありがとな!あんたのお陰であいつに勝てたからよ。」


「君は私を正しく使ってくれた。だから、最大限力を出せたんだ。お礼を言いたいのはこっちの方だよ。流石、『選ばれし者』だね。」


「選ばれしものって?人違いじゃないのか?」


「私をここに送った方が言ってたんだ。彼なら、どんな脅威にも立ち向かえるってね。」


「トレカのことか?」


「うーん…違うかな。そんな名前じゃなくて確か…」


「思い出した!その方の名は…

『ホワイトロータス』」


ホワイトロータス?あの超高額カード(1000万円)と同じ名前だが、何か関係があるのか?


スウウウ…

「ごめんね!もうお別れみたい。」

エルーマの体が薄くなっていく。


「待てよ。まだ話の途中だぜ。」


「君のこと、遠くでも応援するよ。またね!」

ガッツポーズをしながらエルーマは消えていった。

彼女が言っていた『ホワイトロータス』という存在も気になるが、今はカザコを優先するべきだろう。

…行かなければ大変な事になるかもしれない。俺は急いで奴の元へ駆け出した。

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