Critical Point ④

 突如降り出した雨に翻弄されながら、ずぶ濡れの2人は待ち合わせ場所のバーに入り、オフィスから指示された通りに人を待つ。

「俺はオレンジジュースで」

「テキーラショットで」

「仕事中だぞと」

「言ってみたかっただけ、同じので」

 珍しく冗談を挟んできた相棒に少し戸惑いながらも、少し打ち解けられた嬉しさもあった。

 そんな嬉しさと共に気の緩みを、置かれたオレンジジュースと一緒に飲み込む。

 そっぽを向いていたロリーナも、ちまちまオレンジジュースを飲みながら、らしくない事をした恥ずかしさを誤魔化していた。

 ふざけているように見えるが、常に気を張り巡らせている2人は、自分たちに向けられた視線を敏感に感じ取っていた。

 レオの隣に座ったのは人物は、服の上からでも鍛えられている事がよく分かるほど、しっかりとした体つきをしている。

「お前がレオか」

「って事は、あんたが元Hell Houndのガイか」

「クラヴィスが見つかったってのは本当なんだろうな」

「あぁ、俺らが追跡中だ。俺らでも十分だが、ターゲットをよく知る人物をチームに入れたいらしい」

 さっきとは打って変わって殺気を醸し出している相棒を手で制し、レオはガイに向けて握手を求める。

「噂は聞いてる。公安に入って異例の速さで成果を上げ続けているアレッサンドロ・レオーネ。突如現れた素性の知れない狂犬、ロリーナ・イル・ソーレ。この名が本当かは怪しいが」


「すまん。ちょっと待っててくれ」

 レオの手を両手でしっかり掴みながらグルグルと唸り続け、気を抜いたら今にも噛み付きそうなロリーナを引きずりながら店の外に連れ出す。

「何がそんなに不満なんだ」

「あいつ私たちを舐めてる」

「どこがだよ」

「匂いと勘!」

「なんだよ匂いって、確かにいけ好かない感じはするけどよ……」

「話は終わったか、クラヴィスがフランスに入国した。行くぞ」

 180センチあるレオでも見上げるほどのガイが店から姿を現し、ロリーナが睨み付けながらガイの先を歩き出す。まるで大型犬に啖呵を切るチワワを見ている気分になって、レオはこの状況を少しだけ楽しんでいた。

「152センチしかないのによくやるよお前は、俺も見習わないとな」

 まるで1万の大軍を率いる程の堂々とした歩く背中に追い付き、肩を掴んで振り向かせる。

「反対反対、あっちだぞと」

 少し静止してレオの肩を勢い良く叩くと同時に走り出し、あっという間にガイを追い抜く。

「そこ右だぞー!」

 再び反転してレオの元に戻ったロリーナはすました顔で、「頭冷やして来ただけ」とだけ言ってレオの隣を歩く。

「よし、冷静だな相棒」

「ずっと冷静」

 2人は拳を突き合わせてガイの後に続き、ロリーナが予め予測していたこのフランスの地で準備を始める。もちろん予測していたと言っても勘だが。

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