第103話 衝撃と畏怖
チンッ!
『地上1階、メインロビーです。足元にご注意ください』
エレベーターが開き、ヴィズとローレンシアが合流。ヴィズは経過を伝えた。
「首尾よく」
横に並んだローレンシアも答える。
「こっちも」
ヴィズがドアの閉ボタンを押す。
「もう一つのエレベーターは停めたか?」
エレベーターは扉が閉まらないと動かない。ヴィズは、ローレンシアに片方のエレベーターのドアに何かを挟ませ、地上と上階を分断するようにも指示していたのだ。
「停めた。それにタイミングの悪い不届き者には、ふふ、サプライズも用意してある」
「は?」
ヴィズは、閉まりかけたドアに足を挟ませて動作を止めさせ、ローレンシアを睨む。が、その非難の目は、なんの威圧効果も与えられなかった。
「知りたい? 向こうに乗るとドカーンってなる」
悪びれる事もなく計画を無視されたヴィズは、瞬時に計画への影響を推測した。
「…………56階から階段で降りるのは嫌だぞ」
「そろそろ健康の為に階段を使ったらどう?」
「もしそうなったら、お前の両脚をへし折ってやる。私の精神の健康のためにな」
ローレンシアが勝手に行った事は、増援の足止めには有効だが、自分たちの首を絞める可能性もある。
「大丈夫、大丈夫。そうはならないよ。計算上はあっちのエレベーターの狭い空間を殲滅するたげだから」
ヴィズはローレンシアの言葉を信じる事にした、万が一の可能性よりもこの場での議論している時間の損失の方が計画の成否に影響すると考え、不安を飲み込んだのだ。
予想外は常に起きうる。悪運が幸運に恵まれたいヴィズは、そこで時間までを敵に回す事を無意識に恐れたのだ。
「万が一、エレベーターが止まったら、お前をこの
「神様は、私たちに翼を授けてくれなかったからね、独学で飛び方を覚える良い機会だ」
エレベーターが閉まり、ヴィズたちの計画は山場を迎えた。
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高速エレベーターは、補助電源状態では速度が格段に落ちており、戦闘意欲に
「ヴィズ。士気の鼓舞の為に歌を歌わない?」
ヴィズは、ライターを擦りながら答えた。
「歌わない。私は、嵐の前の静かさを楽しみたいんだ」
吐息がエレベーター内を白く霞ませる。
「歌っていい?」
「耳障りだから、ダメだ」
ヴィズは、ローレンシアをぞんざいに扱い、ローレンシアもそれに倣う事にした。
「では、聞いてください。Foster the PeopleのPumped up Kicksです」
「…………」
静観をよそにリズムをとり始めるローレンシア。
「Robert’s got a quick hand 」
【早撃ちを名乗るロバートは】
「He’ll look around the room, he won’t tell you his plan .」
【カウボーイ気取りで、タバコを口端に咥えて、】
「He’s got a rolled cigarette Hanging out his mouth, he’s a cowboy kid .」
【悪巧みを胸に秘め、部屋を見回した】
「Yeah, he found a six-shooter gun 」
【事の始まりは、リボルバーだ】
「In his dad’s closet, in the box of fun things . I don’t even know what 」
【彼は、父の寝室のに隠されているのを知ってしまった】
「But he’s coming for you, yeah, he’s coming for you 」
【それから、彼はここに来た。わざわざ君の元へ】
ゆっくりと上昇したエレベーターは、目的階に近づきゆるかに減速。
それを合図にヴィズが懐から爆竹を取り出した。タバコを強く吸い、赤々と燃える火種に爆竹の導火線を触れさせ、導火線が彼岸花のような火花を散らし、タバコの煙に黒色火薬の臭いが混ざり合う。
「All the other kids with the pumped up kicks!
【靴にまでこだわる生意気な諸君!】
You better run, better run, outrun my gun!!」
【その素晴らしい靴でなら、銃弾より速く走れるよな!!】
チン!『地上56階。資産情報管理部フロアです。足元にご注意ください』
ドアが開くと同時に、爆竹がフロアに投げ込まれ、あだけるような炸裂音が響き渡る。
硝煙と爆音を纏って、黒尽くめの覆面が2人がサブマシンガンを手にフロアになだれこんだ。
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