第64話 戦後処理

 ローレンシアを制圧したヴィズたちの所に、青烏が指揮車で、キーラはバン乗って駆けつけた。

 キーラが運転手を担い助手席にシエーラが座る。その荷台には、気絶し拘束されたローレンシアと見張りとしてヴィズが乗り込んだ。

 

 シエーラは、荷台への仕切り窓を開け、横たわるローレンシアを睨んだ。


「私たちの仕事はここで終了。後はあのクソガキを煮るなり焼くなりしてくれいいから、全員分の報酬を払ってよ」


 シエーラたちの行動は、ローレンシアの収容を持って任務完了した事になる。

 仲間のほとんどを死傷させて、結果的に全滅の次に最悪な状態で完遂した。


 彼女らの雇い主側として対応したのはキーラだった。


「えっと、ジャンガロさんとザンギトーさんは、ヨークシャーの病院で処置して貰ってます。お金次第でどんな人でも治療してくれる……ちょっと、怪し名医さんが」


 シエーラは、見るからに落ち込んでいて。覇気もなく答えた。


「知ってる、昔お世話になった」


 キーラも、それに同調するように気を揉んで伝える。


「それで……イザベラさんとチャックさんですが……」


 シエーラは、キーラの言葉を手で遮り、2人ともしばらく黙っていたが、意を決してシエーラが促した。


「……続けて」


「バーンズ墓地で無縁墓として埋葬されます、だから、遺族が名乗り出れば引き取る事も可能です」


 「ありがとう」とキーラに向けて痛々し笑顔を向けるシエーラ。


「傭兵がお墓を貰えるなんてね。充分よ」


キーラは、何も返せなかった。 


 シエーラは突然、隠れてタバコを吸っていたヴィズを呼びだした。


「パールフレア、悪いけど一本ちょうだい」


 ヴィズは、舌打ちをしてからタバコを差し、仕切りを閉めた。


「えっ、シエーラさんも吸うんですか?」


「次男が肺がんで死んでから辞めてたんだけだね………今回はこうでもしないと耐えられない」


 キーラは何も言えず、黙って窓を開けた。


「貴女が来る前にね、あの女を撃ち殺そうとした」


 タバコを吸いひどく咽せるシエーラ。キーラはなんとか相槌を打った。


「傭兵なんだから、死んでも文句言えない商売だし、死ぬリスクは理解してるのだけどね………はぁ」


 シエーラは、タバコを3分の1ほど吸って灰皿に捨て、泣きそうになるのを誤魔化すために口笛を奏でた。


「シエーラさん。ありがとうございます」


「こら。まだ任務は終わってないでしょう。適当な通りで降ろして、タクシーを拾って逃げるから」


————————————————————


 シエーラたちはイギリスから逃亡し、ヴィズたちはルーリナが所有する土地に作られた地下施設にて、ローレンシアを勾留していた。


「この人って、魔法陣をスカリフィケーションで身体中に刻んでるってことですよね。ちょっと格好いい」


 キーラが捕縛されたローレンシを見ながら呟く。 

 青烏もローレンシアを見ながら痛々しそうに答えた。


「考えたくないね。皮膚を焼いたり、切除して図柄を作るなんて……消えないでしょうけど、イカれてる」


「キーラ、アオ。ふざけるなら他所でやって」


 いつになく苛立っているルーリナに一喝される2人。

 この時、狗井はメンテナンスを受け、ヴィズも傷の手当をシャワーを浴びている。


 ルーリナ、青烏、キーラは、コントロール室からモニター越しに、ローレンシアを監視。


 魔力遮蔽効果のある隕鉛合金の部屋に閉じ込められたローレンシアは、目と鼻をテープでほとんど塞がれ、エルフと人間の中間のような耳とだらしなく開いた口だけが露出している。さらに両手を肘と手首、指錠で固定され天井に固定され、足にも枷があり、全裸で力無くぶら下がっていた。


「正直……彼女はなんなんですか? シエーラさんの報告では腕が千切れ飛んだと聞きましたし、狗井さんは50口径弾が頭に当たったと言ってました。

 ヴィズさん、というか……私も顔がぐしゃぐしゃになったこの人が、綺麗な顔に戻ってく過程を見てます。

 まるで………私たち吸血鬼のようですが……」


 キーラは目を伏せながらそう尋ね、ルーリナは長いため息をついた。


「生まれ持った魔法の才能と可能性の追求に取り憑かれて、戦場という極限状態で鍛えられて、死を克服しようとした人間の成れの果てよ」


 ルーリナの赤い目は、じっとローレンシアを見据え、常に全神経を集中させて監視していた。


「ねぇ」


 モニターに映るルーリナの顔が、一瞬悪巧みを思いついたように笑い、ルーリナと青烏に視線を向けた。


「遺伝子って隔世遺伝するって言うじゃない? 私から見て、親が優秀な場合、その優秀さを受け継ぐのは私の子供になるっていう話」


「な、なんの話をしたいのですが?」


「んーとね、カニング家みたいな魔法使いの家系ってのは、その遺伝による魔力の純度と秘伝による知識の積み重ねで最強の一族になったと見るとね……」


 ルーリナが、ニヤリと笑ってモニターを見ると、意識を失っているはずのローレンシアが顔を上げた。


「私が、そんな幼稚な手に引っかかるとでも?」


 そして、そうが吐き捨てるように言い放った。


 キーラは喉まで出かかった「引っかかるてるじゃん」という言葉を飲み下した。


 ルーリナは、マイクを手に持ち、モニター越しのローレンシアに尋問を開始。


「おはよう、ローレンシア。あなたの純血願望の話なんかするつもりはない。ただ、あなたの狸寝入りに付き合ってる時間もないの」


 ローレンシアの身じろぎに合わせて、金具が音を立て、裸のハーフエルフは唯一露出している口に、憎しみを込めて歪める。


「このまま力を溜めれば、抜け出すのは容易い。私は———」


「今更、言い訳なんか聞きたくない。私はね、200年前にあなたが関与した重罪について審議したいの。

 あなたと私。被告人とあの国の司法権の責任者。まぁ、結果は見えているけどね」


 ローレンシアは激しく暴れたが、拘束に緩みは生じない。


「おぉ、我が暗君よ! クソくらえ!

 何が結果は見えている。だ、結果を見抜いたのは私だ。

 私は被告人? 裁判を行う前から? 本来は被疑者でしょう。あなたからすれば被告人で正しいもんね。なんせ、最初から私を殺すつもりなんだから!!」


 マイクで拾われ、スピーカーで届くハーフエルフの嘆きは、憎しみと怒りをシニカルに混ぜたもので、彼女の痛々しい姿も合間ってとても見ていられる姿ではなかった。

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