第34話 吸血鬼を初体験
「仕留めた」
ダークエルフの呟きと空薬莢が地面に落ちる音が重なり、次の瞬間には、反撃に備えて地面に伏せる。
案の定その数瞬後には敵集団が仇をとろうと弾丸の雨を降らせてきた。
「キーラ!」
銃声の怒号の中でヴィズはキーラの元へと這って進む。
金髪の吸血鬼は、髪を黒くドロドロとした機械油で汚く染めてヴィズに変装し、その後頭部に銃弾を受けている。
弾の貫通した左目からは頭蓋骨の一部が飛び出していた。
「馬鹿………」
襲撃部隊が仲間の救援と警護に作戦行動を切り替えた時、ヴィズは這った姿勢のままキーラの手を掴んだ。
「死んだフリだったら、殺しやるから——」
ヴィズがキーラの手を握ると、キーラはその手を掴み返す。
「さ、さすが吸血鬼。タフね———!?」
キーラがヴィズを引っ張り、軽々とヴィズの体を引き寄せ始める。
「———ちょっと!」
ヴィズは、吸血鬼の腕力には全く争う事が出来ないまま引き寄せられ、血走った目と目が合う。
「血、血、血が足りない!!」
キーラが我を忘れてヴィズに迫り、彼女の腕を登るようにして組み伏せた。
「クソッ、馬鹿女!」
キーラの圧倒的な腕力でヴィズは組み伏せられ、咄嗟にキーラに抱きついくように形を取る。
そうする事で自身の腕と頭を使って吸血鬼の頭部の動きを封じる。
相手からの攻撃こそされないが、ヴィズも防戦一方だ。
「錯乱してる場合じゃない、起きろ!」
キーラは、度重なる負傷と蓄積した疲労による飢餓状態での錯乱。
そして、生来の吸血鬼にして、高い純度を誇っていたためにキーラの症状は強烈に現れていた。
「クソ、コウモリ。いいかげんにしろ」
ヴィズの罵声で、キーラはハッと我に返えると、「あ、違う」と呟いて、ヴィズを開放した。
本能的な食欲に対して、僅かに残った理性からキーラはヴィズを見逃したのだ。
ヴィズは、キーラから距離を離すと、すぐにカービンを構える。
「はぁ……はぁ……さすがの私も墓に“食害”とは書かれたくない」
そう愚痴るヴィズの横から、キーラはヴィズが射殺した男の遺体に飛びついた。
弾帯を兼ねたベストを裂き、防弾ジャケットを食い破った吸血鬼は、そのまま男の首へと牙を突き立てた。
「おぉ、うわっ、これは……酷い」
そう言ってヴィズが引き金に指をかけ、もう一度自分を襲ったら撃つと覚悟を決めた。
ジュルジュルと音を立てて食事をするキーラ。
彼女は人を襲った事がなく、手と顔は無様なほど血に塗れ、牙の使い方も分かっていないので肉を食いちぎりながら膨大な血を求めた。
喉から胸の辺りまで肉を食いちぎり続けた吸血鬼は、そこで突然我に返る。
キーラは、死体の胸元から血だらけの顔を上げ、目を丸くしたままあたりの様子を伺い、目の前にある惨殺死体を認識した。
剥き出しの肋骨、血と肉の赤。その感触が口内に残っている事をキーラはまだ忘れていない。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」
叫びながら自身に銃を向けているダークエルフに意識が向いた。
「ヴィズさん、これは違います。
わ、わ、私は何もしてません!」
ヴィズは、銃を向けながら呆れた。
「貴女の仕業よ。あなたは、その人の命乞いを聞いておいて、なお笑いながら心臓をくり抜いたの」
「………そんな事……私が……」
嘆くように顔を手で覆ったキーラは、結果的に自分の顔にさらに血を塗りつけることになる。
落ち込んだ吸血鬼に対し、ヴィズはぶっきらぼうに励ました。
「大丈夫よ。人は、突然錯乱を起こして人を襲う生き物だから」
返答に困ったキーラは頭を掻き、黒髪風にする為に塗りつけた機械油が手に滲んだ。
「キーラ、私は誰か分かる?」
「ヴィズさん。ヴィズ・パールフレアさん。危険人物で、今はマシンガンを持ってる」
「まぁ、合ってる。貴女は誰?」
「私は、キーラ・アンダーソン」
「生まれは?」
「
「ムカつく言い方ね」
ヴィズは、キーラへの警戒を完全に解くと男の死体から拳銃を奪うように命じ、45口径のオートマチック拳銃を手に入れる。
ダークエルフは、手に入れた拳銃から円滑な動作で弾倉を抜き、銃内に給弾された弾丸抜いてから弾倉を戻した。そして安全装置をかけて、キーラに手渡した。
「分かります。1911拳銃ですね……ゲームでは使い慣れたサイドアームですから——」
その時、遠くからヘリの羽音が聞こえた。
「その話は後でいい」
ヴィズとキーラら、通りから逸れるため、姿勢を低くしたまま民家の中に逃げ込み、建物を突っ切って隣の通りへと出た。
ヘリの羽音が迫る中、ヴィズはナイフを抜き、キーラの髪からグリスをこそぎ取る。
そして、下水道に逃れるためにマンホールを探し、ナイフを持って駆け寄った。
通行路に設置された分厚い鋼鉄の蓋に、ダークエルフは、グリスで魔法陣を描き魔力を注ぐ。
「焼き尽くせ」
言葉に応えるよに魔法陣は輝き、その光は、描かれた線をなぞってテルミット反応のような真っ白な閃光を放つとマンホールは半円に焼き切られて地下の下水道へと落下した。
「キーラ、入って」
ヴィズの指示でキーラが家屋から飛び出した時、どこからかマシンガンの銃声が響き、ヴィズがキーラに覆い被さるように守った。
銃声は延々と続くが、撃たれているが2人ではない。
ヴィズはいち早くキーラを下水道へと避難させ、ヴィズも後に続いて飛び降りた。
降り着いた下水道は、歩ける程度に高さがあったが腐った水、ゴミ、ネズミで溢れかえっていて、ヴィズでも辛く、キーラには耐えられないほどの悪臭が充満している。
ヴィズは、カービン銃を構えながら地上を見上げ、追手を警戒。
「ヘリが……飛び去った」
独り言で状況を推測した。
「襲撃してきた連中。ヘリと
キーラはその横で、異臭のせいで
「耐えてキーラ。数百メートルで海岸に出れるから」
キーラは目に涙を浮かべながら、激しく頷き、ヴィズはカービン銃についたライトを灯した。
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